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椅子取りげぇむ

※この話には若干のグロテスク要素が含まれます。苦手な方はご注意ください。

スギモト
オオタケ
ウスイ
オギノ
(カク)
(オガワ)
(オクダ)
カマタ



スギモト:部屋には陽気な音楽が流れる。俺たちはその音に合わせて椅子の周りをぐるぐると周る。残る椅子は4脚-音楽が止まると俺たちは空いている席に座る。いや、オオタケとウスイは躊躇っている。そこにカマタの声が流れてくる。

 カマタ『さぁ、選んでください?』

スギモト:そりゃカク、オガワ、オクダの3人が連続して死んだのを目の当たりにしたんだ。簡単に座れるわけもない。しかも2番の椅子なんてカクとオクダの死体に挟まれている。

 カマタ『オオタケさん、ウスイさん、残り時間は10秒と致しますね。』
 ウスイ「ひっ!じゃあ私ここに座る!」
オオタケ「あっ!ちょっと!」

スギモト:ウスイが慌てて6番の椅子に座る。オオタケは2番の椅子に座る他なかった。

 カマタ『それでは皆様お掛けになりましたね。』

スギモト:カマタのその声と同時に肘置きの部分と足元、首の後ろから金具が出てきて両手足と首が固定される。これで4度目だ...。オギノは冷静な顔をしている。いや、寧ろこの状況を楽しんでいるようにすら見える。

 カマタ『ではカウントダウン、参ります。5、4、3、...』
オオタケ「うっ、うっ...」
 ウスイ「神様...!」

スギモト:カマタの0の合図とともに声を上げたのは...。

 ウスイ「ぐっ...!」

スギモト:ウスイだった。...これは恐らく、首に巻きついた金具が次第に絞まっていっているのだろう。メキメキと音が聞こえてくる。ゴキっと音がした。俺たちを拘束していた金具が外れる。ウスイの頭はだらんと前に垂れる。残る椅子は2番、4番、7番だ。

 オギノ「おっ、おい!もう終わりにしてくれ!そうだ!私をここから出してくれるなら1000万用意しよう!な?それでどうだ!」
 カマタ『オギノさん、私と交渉をしようと?答えはNOです。そもそもこのげぇむを遂行する為に1000万で事足りるとでもお思いですか?』
 オギノ「じゃあ2000!いや、3000でどうだ!」
 カマタ『先程も申したように答えは変わりません。私はお金や快楽の為にこのげぇむを開催したわけではないのでね。』
 オギノ「くっ...!」
スギモト「オギノさん、今更何を言っても無駄だってことぐらい分かるでしょ。それよりもカマタ、最後の一人になれば命の保証はしてくれる、そして可能な願いに応えてくれるってのは信じていいんだよな?」
 カマタ『えぇ、もちろん。』
オオタケ「でも、何で私たちなの...。」

スギモト:オギノの先程の余裕ぶりは演技だったのだろうか。それとも場をかき乱すために大袈裟な立ち居振る舞いをしているのか...。そしてオオタケのその問いはもう何度もしてきたものだった。目が覚めると中央に7つの椅子が置かれた部屋にいた俺たちはスピーカーから聞こえてくるカマタの声に各々のリアクションをした。カマタの説明は、ここに居る7人で最後の一人が決まるまで椅子取りゲームをする、という至ってシンプルなものだった。そして最後の1人には自由と願いを確約する...と。1回目はみんな渋々参加した。しかし、全員が椅子に座った途端に手足と首を拘束されると動揺は広がった。そして、1番の椅子に座ったカク頭上から大量の水が被せられ、濡れた体のまま椅子から電流を受け、口から泡を吹いて絶命したことにより一気に緊張感が高まった。その後、5番の椅子に座ったオガワは頭上から鉄の塊が降ってきて頭が無くなった。3番の椅子に座ったオクダは椅子の背面から出てきたチェンソーで胴体を真っ二つにされた。普通の椅子取りゲームとは違う。全員が座ることが可能だが、1人ずつ殺されていく。

 カマタ『では、次のげぇむに参りましょう。』

スギモト:有無を言わさず音楽が流れ始める。俺とオオタケとオギノはお互いの顔と残る椅子を交互に見ながら慎重に歩を進める。一体何の為なのか、何故このメンバーなのか、次はどの椅子に座れば助かるのか。様々な考えが頭の中を巡っていることだろう。音楽が-止まった。目の前には7番の椅子がある。両隣には下半身がただれ、口から泡を吹くカクの死体と、首の骨が完全に折れ、伸びてきている皮で繋がった頭が胸元にぶら下がっているウスイの死体がある。もうどこの椅子に座ろうが死体に挟まれることに変わりは無い。俺はそのまま目の前にある7番の椅子に向かう。

 オギノ「どけっ!」
スギモト「うぐっ...」
 オギノ「はぁ、はぁ、私がここに座らせてもらう。」
スギモト「オギノさん、無理やり押し退けなくても言ってくれれば譲りますよ。どの椅子に座ったら助かるかなんてわからないんだから。」
 オギノ「はっ!甘いな!私は法則を見付けた!私が!最後まで生き残ってやる!」
スギモト「そうですか...。じゃあオオタケさん、どっちにしますか?」
オオタケ「...えっ?」
スギモト「いや、ほら。早く座らないと。」
 カマタ『えぇ。スギモトさん、オオタケさん、残り10秒です。』
オオタケ「じゃっ、じゃあ...私2番にします。」
スギモト「分かりました。じゃあ俺が4番ですね。」
 カマタ『ではおかけ下さい。』
スギモト「はいはい。」

スギモト:俺はカマタの声に従い4番の椅子に座る。オギノが首を限界まで後ろに向けこちらを見て笑う。

 オギノ「兄ちゃん、残念だったな。スカしてて最初から何となく気に食わなかったけどここでさよならかもな。」
スギモト「さっき言ってた法則ってやつですか?」
 オギノ「あぁ、そうだ。冥土の土産に聞かせてやろうか?」
 カマタ『余計なお喋りはお控え下さい。』
スギモト「いや、カマタ。オギノさんが俺たちに遺言を残したいそうだから最後ぐらい喋らせてやってくれ。」
 オギノ「あぁ?だから死ぬのはお前らの方なんだよ!気付いてないのか?椅子の背もたれに彫られた模様!」

スギモト:椅子の背もたれには1番から順に鯛、兜、鹿、小槌、亀、大きな袋、そして楽器の琵琶が彫られている。そんなことはすぐに気付いていた。

 オギノ「学がないから知らないかもしれないが、これは七福神を現しているんだよ!そして!1から順番に生き物が彫られている椅子に座った奴が死んで行った!次は何だと思ったら袋だ。この繋がりから次はこいつも袋を持っている小槌の大黒天、つまり4番の椅子が怪しいんだよ!更にな、私が座った7番!これは七福神の中の唯一の女性の神、弁財天。つまり唯一と言う点でこの椅子が正解なんだよ!あははははははははは!」
スギモト「はぁ...そろそろうんちくの授業は終わりでいいかな?多分カクさんは鯛にちなんで水を浴びた、オガワさんは亀の甲羅に見立てて固いものとして鉄の塊が降ってきた、オクダさんは鹿の血抜きで腹を裂くことの見立てかな?そしてウスイさんは袋の口を縛る要領で首を絞めた。じゃあ俺はハンマーかなにかで殴り殺されるのか?」
 オギノ「ほぅ。そこまで気付いて居ながら私に席を譲ったのか!まぁその年長者を敬う気持ちだけは褒めてやろう。」
スギモト「別にアンタに褒めてもらわなくていいよ。」
 カマタ『さて、そろそろお喋りはよろしいですか?それではカウントダウン参ります。5...4...3...』

 オギノ「...え?」

スギモト:カマタのカウントダウンが終わるとオギノの胸には矢が刺さっていた。

 カマタ『オギノさん、残念でしたね。私がそんな分かりやすくヒントを与えるとでもお思いでしたか?順番はただの気紛れですよ。あ、そうそう。ちなみにその矢の先端には遅効性の毒が塗ってありますので、徐々に苦しみながら残りのお二人の様子でもご覧下さい。』
 オギノ「なん...で、私なんだ。」
 カマタ『単純な事でございます。私が準備したこのげぇむの舞台をさも攻略したかのように悦に浸ってらっしゃったので。それが非常に不愉快でございました。お前は主役じゃねぇんだよ。...おっと、失礼致しました。』

スギモト:カチャリと言う音と共に拘束が解かれる。残る椅子は2番と4番。

オオタケ「あなたは...分かっていたんですか?」
スギモト「え?」
オオタケ「さっきオギノさんが言っていた椅子の模様!そして殺され方!気付いていて7番を譲ったんですか?」
スギモト「あぁ...あんなのは単なるこじつけですよ。」

スギモト:俺はオオタケに笑顔を向ける。また音楽が流れ始める。さて、どっちだ。オオタケはどっちを選ぶ。-音楽が止まる。

オオタケ「カマタさん、これで決まるんですよね?」
 カマタ『えぇ、そうでございます。』
オオタケ「じゃあ最後に時間をくれませんか?」
 カマタ『と言いますと?』
オオタケ「最後ぐらい、争わずに自分たちで話し合って座る場所を決めたいんです。」
 カマタ『なるほど。しかしあなたの一存では...』
スギモト「俺はそれでも構わない。」
 カマタ『ほう...。では特別に、お2人には話し合いの時間を設けましょう。』
スギモト「ふっ。随分と聞き分けがいいんだな。」
 カマタ『なに、気紛れですよ。』

スギモト:とは言ったものの、実は俺はどちらでも構わないと思っている。何故なら、俺は死なないことが約束されているから。実はこのげぇむ、俺とカマタは共犯者である。集められた人間は縁もゆかりも無い人物ばかりではあるが、ネット上での殺害依頼のターゲットだ。こいつらを全員拉致し、こんな大掛かりなげぇむを準備した。そして俺はプレーヤーに扮し、他のメンバーを次々と死に追いやって来た。こいつらは最初から誰1人助かる望みなどなかったのだ。そうとも知らずこの女...おっと、いけない。笑いが込み上げてくる。

オオタケ「スギモトさんはどちらに座りたいですか?」
スギモト「俺は...運命に身を委ねたいと思います。オオタケさんが座った残りの椅子に座りますよ。」
オオタケ「それが嫌なんです!そうしたらもし私が生き残ったときにあなたを死に追いやってしまっまたと言う罪悪感に苛まれてしまいます。だから話し合いをしたいんです。」
スギモト「それもそうですね。...すみませんでした。ではカマタの行動を予想してみましょう。さっきのオギノさんは突発的に選んだ。それは多分間違いないでしょう。」
オオタケ「えぇ、そうですね。」
スギモト「でも他のメンバーはあらかた俺が言った通りに殺されている気がするんです。」
オオタケ「そうなったら、兜と小槌...ですか。」
スギモト「えぇ。小槌はやはりハンマーのようなもので撲殺なのかと...でも兜は身を守ってくれる気もしますよね。」
オオタケ「そうですね。」
スギモト「となると安全なのは兜の方なのか...それとも裏をかいて小槌の方なのか...」
オオタケ「やっぱり話したところで...すみません。」
スギモト「いえいえ。じゃあ直感を信じてせーので指さしてみますか?」
オオタケ「そう...ですね。では、「せーの!」」

スギモト:2人は先程座った椅子を指さす。意見が分かれた。まぁどちらにせよ俺の無事は保証されているのだが。

スギモト「では、座りましょう。」
オオタケ「えぇ。」
スギモト「カマタ、待たせたな。決まったよ。」
 カマタ『そうですか。では、お2人お掛けください。』

スギモト:手足と首が拘束され、カウントダウンが始まる。その途中で俺の拘束だけが解かれる。俺は椅子の後ろに隠してあるハンマーを握る。そしてカマタの0の声と同時に立ち上がる。

オオタケ「えっ!?なんで!?」

スギモト:オオタケの頭目掛けて何度もハンマーを振り下ろす。オオタケがぐったりとして動かなくなる。

スギモト「ふぅ、カマタ、お疲れ様。」
 カマタ『あぁ、お疲れ様。』
スギモト「よし、じゃあ扉を開けてくれ。」
 カマタ『まぁまぁ、そう急かすなって。』
スギモト「いや、この血なまぐさい部屋から早く出たくてよ。」
 カマタ『ははっ、それもそうだ。じゃあ、開けるぞ。』

スギモト:電子錠の動作音が聞こえる。開いたドアから1歩足を踏み出す。

スギモト「...っ!?」

 カマタ『皆様、椅子取りげぇむ勝利おめでとうございます。第2げぇむは鬼ごっこを行います。』

スギモト:そこには俺と同じように閉まりゆくドアの前に呆然と立つ人間が8人いた。瞬時に理解した。カマタとの協力者は俺1人ではなかった。ここからは本当の参加者として挑まなければならないようだ。

 カマタ『では、襲い来る鬼から制限時間60分間、逃げてください。第2げぇむ、鬼ごっこ、スタート致します。』

-END-

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