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YOUTRUSTの事例からOOHの可能性と課題について考えてみた

 「信頼でつながる、日本のキャリアSNS」として、YOUTRUSTはここ数か月の間にビジネスマンの間ですっかり知られる存在になりました。特に、8月末から9月にかけて都内を中心に実施されたOOH展開は、事業の拡大フェーズにおいて新規ユーザーの獲得に大きく寄与しました。

 私は10年以上にわたりOOHの様々な活用例を見てきました。正直OOHは数値的な効果測定が難しく「効果が良く分からない」と言われることの多いメディアでした。しかし今回のYOUTRUSTの使い方は、様々な面でOOHのもたらす効果が浮き彫りになった事例といえます。

 この度、幸いなことにYOUTRUSTマーケティング責任者の大前さんに本展開についてお話をお伺いする機会をいただけました。今回は、大前さんにお伺いしたお話を元に、自分自身の思考の整理も兼ねて、改めてOOHの持つ可能性と課題について考えてみたいと思います。

 本プロモーションの全容と裏側は大前さんのnoteに詳しいため、ここでは割愛させていただきます。

1.YOUTRUSTのOOH施策について

 今回大きく以下の2つの方向性でOOHが活用されていました。

①交通広告/屋外広告

 「すごい人はここにいる」をメインコピーに、SNSとしての楽しさがいかに拡散されるかを意識してコアユーザー自身の投稿をクリエイティブの中心に使用したのが、都内を中心に展開された交通広告や屋外広告です。YOUTRUST内で存在感があり、影響力の強いコアユーザーを巻き込むことによって、結果的に彼らとそのフォロワーを通じてSNS面を埋めつくす情報拡散を発生させました。

 媒体としては、主に以下のものが使用されました。

JR渋谷駅 渋谷ハーフジャック

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東急田園都市線渋谷駅 ビッグ14

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東急目黒駅 TOQサイネージピラー

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JR品川駅 自由通路セット

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渋谷モディビジョン

その他主要駅ポスター、デジタルサイネージ

②エレベーター広告

 上記と併せて、オフィスビルのエレベーター広告も活用されました。こちらは交通広告や屋外広告とはターゲットが少し違います。オフィスで働く人を意識し、クリエイティブの内容も少し変えているそうです。パーソナルな空間で気になるメッセージとし「最近職場で雑談していますか?」というクリエイティブになっています。

 ちなみにタクシー広告も検討されたようですが、スタートアップが勝負をかける媒体として定番化している中で、ここで勝負をするのは難しいと判断したそうです。昔まではサービスを連呼するようなCMが多かったですが、最近ではタクシー広告にもそれなりにお金をかけてクリエイティブを作る風潮が高まってきています。

 それに比べて、エレベーター広告はまだ出始めということもありトライアルがしやすかったという事情もあるそうです。

OOH施策のポイント

 私は大前さんのお話をお伺いして、OOHは新しい形のデジタルコミュニケーションメディアになっていると思いました。それはネットワーク化されたサイネージでWeb広告のようにDSP配信をしたり、ダイナミッククリエイティブで目の前の人にターゲティングしたりするということではなく、最終的なアウトプット先がデジタルコミュニケーションに帰着しているという点において特に感じました。さらに、中長期的な認知獲得やブランディングだけでなく、”意外と”短期的なユーザー獲得や利用率向上にも寄与している点でもデジタルコミュニケーション施策の一環としてOOHが果たす役割は大きいのではないでしょうか?

 特に、本施策のポイントをまとめると以下の3点に集約されるのではと思います。

① コアユーザーを巻き込み、彼らとともに祭り事化したこと。

② 彼らのフォロワーを通じ、最終的な露出先をSNS面に振り切ることで同心円状のリーチを果たしたこと。

③ 短期間に他の施策も立て続けに行なうことで、ニュース的なムーブメントを引き起こしたこと。

 さらに、本取材でお伺いしたOOHの持つ可能性と課題について、もう少し深掘りしてみたいと思います。

2.OOHの可能性

数値的な効果

 上記でのお話と関連しますが、1つめの可能性としてはOOHが意外と数値的な効果に貢献する媒体だという点です。本施策のKPIとして、基本的に新規ユーザー数とアクティブユーザー数を見てきたそうですが、施策前後で比較すると、前者で約4倍、後者で2~3倍の増加が確認されたということです。大前さんのnoteにも書かれていますが、これまでデジタル広告中心だったときのコスト効率を維持したまま目標貢献が確認できたことが、特に想定外だったそうです。長期的な認知やリーチ獲得で利用されることの多いOOHで、短期的な効果へこれほど貢献したことは意外な結果だとのこと。ちなみにこれは制作費など全てひっくるめての費用対効果ということです。

 OOHは広告媒体であることからどうしてもエリアやメディア視点でリーチ力やインパクトで語られることが多いですが、アイデア次第では十分に短期的な事業KPIへも寄与することが示唆される事例といえます。

協力者のみなさまが思いのほか喜んでくれた

 2つめに特筆すべき点としては、投稿した人が喜んでくれることが多かったことも印象的だったことだそうです。広告に出演してくれたコアユーザーや知り合いを通じて情報が拡がっていったわけですが、想定以上に嬉しい反響が多く、中には冗談交じりで「自分も載りたかったのに!」と言っていた方がいたなど様々な好意的な意見が聞けたそうです。

 SNSの投稿も、単にいいね数やリツイート数だけで見てしまえば単に数字としての結果で終わってしまいますが、様々な投稿を読み解いていくことで、アンケートの自由回答のように、サービスに対する意見を深掘りすることもできるかもしれません。

 上記のようなファンサービスとしての機能はやはりOOHの強みの一つと言えそうです。大前さんもここまで掲載の許諾をいただけるとは思っていなかったようで、「顔写真やプライベートな思考が公共の場に出る」というのはハードルが高いと考えていたそうですが、実際に声を掛けてみるとみんな思いのほか協力的だったということです。

 コアユーザーにとっては、単に広告に使われたというよりも、YOUTRUSTのサービスを一緒に盛り上げたという感覚に近いのではないかと思います。ファンの人が協力し合って愛着のあるアイドルやブランドの広告を出すという”応援広告”にも似たモデルともいえます。

場所の信頼性を借りられる

 3つ目として場所の信頼性を借りられる点が挙げられます。「渋谷駅に出ている」「六本木のここに出ている」という紹介ができることは、どこに出ているか説明のしづらいデジタル広告とくらべて、OOHの優位性が高い特長と言えます。タクシー広告等でもそうだと思いますが、「今〇〇に出ている」という話は、顧客との商談や人材の採用の場面でも取り上げやすいと思います。誰でも知っている場所を挙げることで共通話題化できるので、営業的にも有効だと考えている。広報的にも言いやすい。この話題にしやすい点というのもOOHならではの特長といえるでしょう。

 また効果とは少し違う視点にはなりますが、メディア×アイデアの自由度が高い点もOOHならではの特徴なのではとのことでした。OOHメディアは、他の広告媒体と比べても、いい意味でクリエイティブのクオリティはバラバラです。街の飲食店からナショナルクライアントまで様々な事業者が、それぞれ工夫しながら広告を作っています。その分アイディアの介入できる余地が多く、場所とクリエイティブの掛け算で色々な面白いことができる可能性があります。

3.OOHの課題

 一方で、実際に広告主の目線でお話をお伺いしてわかったOOHの課題も3つほど挙げてみます。

数値化が難しい?

 やはり、媒体個別の効果測定ができない点は課題として挙げられます。もちろん最近では位置情報データなどを利用して媒体周辺の利用人数を計測し、そこから媒体視認者数を推定する方法や、AIカメラをはじめとするIoTセンサーで実人数をカウントする手法など、確立されてきてはいます。

 ですが、1番気になる「次のアクションに繋がったか?」「最終的なコンバージョンにどの程度寄与したか?」という点においては、OOHの貢献度を見える化するのはまだまだ難しいと言えるでしょう。特に様々なメディアや施策を組み合わせたプロモーションだと「結局OOHが役に立ったのかよくわからない」で終わってしまい、次回以降のメディア選定の優先順位から下げられてしまう可能性も十分に考えられます。今回のYOUTRUSTのようなシンプルな設計での実績を積み上げていくことが、結果的にOOHのアカウンタビリティを向上させることに繋がると思います。

単価の安さが伝わっていない?

 大前さん曰く「OOHの単価が思っていたよりも安かった。」という話も意外な発見でした。「意外と安いことが知られていないのでは?」ということで、TVCMやデジタルマーケに比べてお手頃な印象を受けたそうです。

 たしかに、渋谷や新宿などの主要ターミナル駅をジャックしたり、全国の中吊りや車内ビジョンに広告を出そうとすると数千〜数億円単位の予算が必要になります。しかし個々の媒体の単価を見ると、ボリュームゾーンは100万〜1000万円の範囲のメディアが多いことも事実です。OOHだけでマス的にリーチするのではなく、インパクトのある個別のメディアを利用して最終着地点をソーシャルメディア等に落とし込む戦略であれば、比較的手の出しやすいコスト感といえるかもしれません。

 さらにいえば、単駅のポスターや看板であれば数万円単位から出せるものも多いため、小規模でビジネスを行っている事業者でも工夫次第で話題化に繋がるポテンシャルのある夢のあるメディアといえるでしょう。

 このように、個々の事業者の予算規模や目的といった様々なニーズに応じて、対応できる媒体があることはもっともっと周知する必要があるといえます

ルールが厳しい?

 最後に、文春や新潮が中吊り広告を終了することを発表したニュースでも話題になりましたが、入稿までの期限が厳しく柔軟さに欠ける場合もある点もOOHの課題といえます。ビジネスを取り巻く環境が日々変わる中で、特にスピード勝負のベンチャー企業にとってOOHのルールはマッチしづらい場面が多いかもしれません。広告出稿の前日とまでいかなくても、例えば審査や入稿のレベル感をスタートアップ向けにトライアルしやすいパッケージがあるといいなと思ったということです。

4.さいごに

 以上かなり長い文章になってしまいました。YOUTRUSTの事例をもとにOOHは結構効果があるという風に書かせていただきました。ですが、結局は使い方次第であると思います。

 もちろんOOHの置かれたエリアや、メディアのフォーマットが効果に左右する場面もあると思いますが、一番大きいのはアイデアだと思います。スタートアップも含めて様々なアイデアを持った事業者が、より使いやすく新しいことを試しやすくなるメディアにOOHが進化していけばいいなと節に願います。

 今回、資金調達のタイミングで有効にOOHを活用されたベンチャー企業のプロモーションにかけた想いに触れるという、大変貴重な機会をいただくことができました。10年以上前からOOHに関わってきた身として、とても冥利に尽きることです。

 これから事業拡大していきたいベンチャー企業さんや、「OOHって本当に効果があるの?」と思っている会社の担当者さんにとって、少しでも参考になると嬉しいです。特に成長段階の組織にとっては、社内メンバーやコアユーザーとの絆を強くするのに有効なメディアだと思います。
なによりも、アイデアとの掛け合わせによって効果を大きくできる点は、とてもやりがいのあるメディアです。

 最後に、今回の取材に協力していただいたYOUTRUSTマーケティング責任者の大前さん、広報の緒方さん本当にありがとうございました!

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