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大崎事件、2004年に再審開始を取り消した福岡高裁宮崎支部の決定文のコピペ疑惑

 本日、原口アヤ子さん(95)の第4次再審請求が鹿児島地裁に棄却された大崎事件について、私は7年ほど前、「デジタル鹿砦社通信」に以下のような記事を寄せたことがある。

再審取り消し決定文書にパクリ疑惑!──冤罪説が根強い鹿児島「大崎事件」
(デジタル鹿砦社通信2015年10月20日)

  この記事の内容は、簡単に言うと、原口さんが2002年に鹿児島地裁で再審開始決定を受けながら、2004年に福岡高裁宮崎支部でこの再審開始を取り消す決定を受けた際、福岡高裁宮崎支部の決定文に、別の再審請求事件の即時抗告審の決定文からコピーペーストして書かれたとみられる部分があったというものだ。

 問題の決定書を書いた福岡高裁宮崎支部の岡村稔裁判長は、あの足利事件の冤罪判決にも陪席裁判官として関与した人物で、現在は東京で弁護士になっている。この機会に、この記事を一部修正したうえ、以下に再掲するので、関心のある方はご参照頂きたい。

再審取り消し決定文書にパクリ疑惑!──冤罪説が根強い鹿児島「大崎事件」

 ノンフィクション作家の佐野眞一氏に、STAP細胞の小保方晴子氏、そして今年「渦中の人」となった東京五輪エンブレムの佐野研二郎氏など近年、大型のパクリ騒動が相次いでいる。そんな中、ある冤罪説が根強い事件に対する裁判所の決定文にも重大なパクリ疑惑が見つかった。

◆ほぼ丸ごと転用

その事件は、鹿児島県の大崎町で1979年10月、牛小屋で男性の死体が見つかった通称「大崎事件」だ。殺人罪に問われ、懲役10年の判決を受けた親族の原口アヤ子さん(88)は一貫して無実を訴え、現在は3回目の再審請求中。有罪証拠は共犯とされた他の親族3人(全員故人)の信ぴょう性を欠く自白しかなく、2002年に鹿児島地裁が再審開始決定を出したこともある。しかし2004年12月9日、即時抗告審=平成14年(く)第8号=で福岡高裁宮崎支部が再審開始を取り消す決定を出したため、原口さんは88歳の今も雪冤を果たせずにいる。

 この福岡高裁宮崎支部の再審取り消し決定は問題が色々指摘されているが、とくに有名なのが以下の一節だ。

このような判断のあり方は、判決が確定したことにより動かし得ないものとなったはずの事実関係を、事後になって、上記のとおりそれ自体としては証拠価値の乏しい新鑑定や新供述を提出することにより、安易に動揺させることになるのであり、確定判決の安定を損ない、いては、三審制を事実上崩すことに連なるものであって、現行刑訴法の再審手続とは相容れないものといわなければならない。>(TKC法律情報データベース掲載判例)

    つまり、この決定を出した裁判官たちは確定判決で認定された事実関係が「動かし得ないもの」と決めつけ、再審制度の存在自体を否定しているわけである。大崎事件を冤罪だと信じる人たちがあちらこちらで批判しているが、それも当然の酷い判断だ。

   そして実を言うと、この有名な一節はほぼ丸ごと転用により書かれていたのである。転用元は、東京高裁が2001年10月29日、別の再審請求事件の即時抗告審=事件番号は平成9年(く)第170号=で出した決定文である。その東京高裁の決定文の該当部分を示すと以下の通りだ。

判決が確定したことにより動かし得ないものとなったはずの事実関係を、事後になって、それ自体としては証拠価値の乏しい新証拠を提出することにより、安易に動揺させることになりかねない。そのような事態は、確定裁判の安定を損ない、いては、三審制を事実上崩すことに連なるものであって、現行刑訴法の再審手続とは相容れないものといわなければならない。>(裁判所ホームページ掲載判例)

  2つの決定文のうち、同じ記述の部分を太字にしたが、福岡高裁宮崎支部の再審取り消し決定が3年早く出ていた東京高裁の決定文をほぼ丸ごと転用しているのは一目瞭然判。事実上、<新証拠>という記述を<新鑑定や新供述>と変えただけである。決文や決定文には著作権はないが、「パクリ」と言われても福岡高裁宮崎支部の裁判官たちは否定しようがないはずだ。

◆パクリ裁判長はあの有名冤罪にも関与

 この問題の決定文を書いた福岡高裁宮崎支部の裁判長は岡村稔氏といい、現在は東京で弁護士をしている人物だ。東京高裁に所属していた頃には、あの有名な冤罪・足利事件の控訴審で右陪席裁判官を務め、高木敏夫裁判長と共に菅家利和さんの控訴を棄却したこともある。そして実を言うと、転用元の東京高裁の決定を書いた裁判長がこの高木裁判長である。

 このパクリ行為からは岡村氏がかつて上司だった高木裁判長を大変信頼していたことが窺えるが、いずれにせよ、めったなことでは出ない再審開始決定を取り消すにあたり、こんな手抜きをする感覚は理解しがたい。なお、筆者はこの件について、岡村氏に取材を申し入れたが、事務所の女性職員を通じ、取材を断ってきた。

 コピペ決定により、雪冤の希望を一度絶たれた原口さんは、年齢的にも現在の第3次再審請求が雪冤の最後のチャンスになる可能性が高い。今度こそ真っ当な司法判断が下されて欲しいと思う。

〈2022年6月22日追記〉
 この記事を配信後、原口さんは第3次再審請求も実らず、そして本日、第4次再審請求を鹿児島地裁に退けられたのである。

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