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勤務医が医療アプリをリリースした話

DESIGN-Rの評価が面倒くさい。褥瘡回診中にそう思ったことが「褥瘡ナビ」を作ろうと決めたきっかけである。当時は、褥瘡経過用紙に記入した評価をもとに総点を計算し、写真はプリントアウトしたものをはさみでカットして貼りつけていた。

DESIGN-Rは、日本褥瘡学会が公開した褥瘡を評価するツールである。深さ、滲出液、大きさ、炎症/感染、肉芽組織、壊死組織、ポケットの7項目について評価し、深さ以外の6項目の点数を合計した総点がその褥瘡の重症度を反映する。

そんな時に登場したのがiPhoneであった。カメラを搭載しアプリを追加できるiPhoneは、褥瘡診療に理想的なツールに思えた。自動的に総点を計算してくれて写真で経過を確認できるアプリがあれば神なのに…と回診中いつも考えていた。

ところが、当時はスマホ自体がまだ珍しかったこともあり、利用者が極端に少ない医療系のアプリがリリースされる気配は全くなかったのである。そこで、喉から手が出るほど欲しかった褥瘡アプリを自らリリースしようと決心したのであった。

とは言っても、プログラミングの知識はないため、誰かに開発してもらう必要があった。iPhoneアプリを開発できるプログラマーをGoogleで検索したところ、医学部に在籍していた経歴をもつ医療アプリにうってつけのエンジニアが見つかった。

ダメもとでメールしたところ、快く開発を引き受けていただいた。それがトライテックO氏との出会いである。早速、すべての画面のUIデザインと画面展開のフローチャートをKeynoteを使って作成し、それをもとに開発をすすめてもらった。

アプリの試作版が完成してからは、実際に褥瘡回診で使用し、不具合が見つかったら修正してもらうという作業を繰り返した。試用中に思いついた機能も追加してもらい、最初のバージョンが完成したのは、開発をはじめてから7ヶ月後であった。

アイコンは、iOSのデザインについてのブログで以前から注目していたデザイナー(現hey株式会社リードデザイナー)に作成してもらい、レンタルサーバーも契約してアプリを紹介するウェブサイトも立ち上げた(アプリ譲渡により終了)。

当初の予想通り、アプリの売り上げは微々たるもので、開発費を回収することはほとんど諦めていた。ところが、褥瘡学会でこのアプリについて発表したことがきっかけとなり、ある製薬会社がこのアプリの買い取りを打診してくれたのである。

広告なしの有料版を継続販売するという条件で、アプリはその会社のものとなり、開発費も戻ってきた。その後、アプリは広告つきの無料版がリリースされ、データのバックアップと評価の修正ができるようになり、とうとうiPadにも対応した。

もともと自分のために作成したアプリであるが、褥瘡学会でその有用性が報告されたこともあり、今では全国的にも知られるようになった。当然勤務先でもこのアプリを連日使用しているが、便利すぎてもうアプリなしの褥瘡診療は考えられない。

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