見出し画像

勤務医が医療アプリをデザインした話

前回の投稿で紹介した「褥瘡ナビ」は、実際に褥瘡診療で使っている場面を想像しながら、自らUIデザインと画面展開を設計した。使いやすくて便利なアプリにするために色々と工夫をこらしたので、その中のいくつかを紹介したいと思う。

1 患者のグループ分類

電子カルテでは、患者リストに表示されるのは受付した患者や入院中の患者だけである。しかしながら、このアプリは患者を登録するデータベースであるため、使用期間に比例して患者リストが長くなり、患者選択が面倒になることが予想された。

実際に褥瘡回診の対象となるのは、治っていない褥瘡がある入院患者だけであり、転院したり褥瘡が治癒した患者は診察する必要はない。そこで、治療対象の患者を素早く選択できるように、登録した患者をグループに分類することにした。

まず、現在褥瘡を治療している患者と新たに登録した患者を「治療中の患者」グループとしてまとめた。それ以外は、転院したり褥瘡が治癒して評価する必要がなくなった患者であるが、彼らをまとめて「過去の患者」と呼ぶことにした。

次に、褥瘡回診の際に診察する患者がすぐに選択できるように、「本日の診察患者」グループを作成した。また、明日以降の診察予定を確認したい時のために、次回診察日を設定した患者をカレンダーで確認できる「診察予定」も用意した。

画像1

最後に、アプリに登録した患者が該当するグループに自動的に振り分けられるようにアルゴリズムを考た。そして、アプリのトップ画面に患者グループと「診察予定」を表示させることによって、目的の患者が素早く選択できるようにした。

画像2

ちなみに、「本日の診察患者」と「治療中の患者」のリストは、病棟を順番に回診することを考えて病棟別に表示させているが、「過去の患者」リストはあいうえお順に表示させて、スワイプ操作だけで直ちに削除できるように工夫している。

2 変化する患者画面

最も頻回に操作することになるのが、患者画面である。当時はまだ現在ほどスマホが普及していなかったため、スマホに触ったことがないユーザーでも迷わずに操作できるように、画面上には必要なボタン以外は表示されないように配慮した。

患者登録は、さくっと入力できるように、必要な情報をIDと名前、病棟だけに限定した。患者を登録したら、次に行うのは褥瘡部位の入力であるが、連絡を受けた当日に診察できないことも想定して、次回診察日を設定するボタンも用意した。

画像3

「新規褥瘡」で登録した褥瘡部位は、目立つように患者画面の中央に表示させた。褥瘡部位が登録されると、転帰(退院・転院など)を入力する「転帰」ボタンと褥瘡の治療経過を見る「経過」ボタンも画面上に出現し、使用できるようになる。

画像4

転院したり褥瘡が治癒した「過去の患者」は、新しい褥瘡を登録したり、次の診察日を設定する必要はない。そこで、「過去の患者」リストの患者画面では「経過」ボタンのみを用意して、その他の不要なボタンは表示されないようにした。

3 簡略化した評価入力

褥瘡の評価はDESIGN-Rというアセスメントツールを用いて行う。深さやサイズなど7つの項目をそれぞれ評価して点数を決め、最後に合計点を出すわけだが、この面倒な作業を簡単にしたいと考えたのが、アプリを作るきっかけでもあった。

画像5

その入力方法であるが、最初からピッカービューで選択する方法に決めていた。大きさとポケットの項目だけは、長径と短径の値をテンキーで入力してもらう。定規がなくても困らないように、サイズを入力する画面にはスケールも表示させた。

画像6
画像7

最後に、入力した評価を見直すためのページを用意した。もし評価に間違いがあれば、この画面で修正することができる。問題がなければ、写真を撮影することになるが、カメラアプリであらかじめ撮影していた写真も登録できるようにしてある。

画像8

写真登録後に完了をタップすると患者画面に戻ってくるが、自動的に算出されたDESIGN-Rの総点は評価日とともに褥瘡部位の横に表示される。さらに、褥瘡部位をタップすれば、評価時の褥瘡写真が点数とともに確認できるように工夫した。

画像9

4 写真で確認できる褥瘡経過

DESIGN-Rの総点を算出することによって、褥瘡の重症度がわかるようになったが、その点数から創の状態をイメージすることは不可能である。そのため、治療経過を把握するためには、やはり写真で創の状態を確認しなければならない。

そこで、治療の経過を見る経過画面では、DESIGN-Rの評価の横に登録した写真も表示させて、点数と写真の両方を一目で確認できるようにした。なお、評価の点数だけでは創のサイズ変化がわからないため、長径と短径の値も表示させている。

画像10

個人的に、褥瘡の経過を写真で確認できることが、このアプリで最も素晴らしい点であると思っている。以前から、ベッドサイドで褥瘡の経過を写真で確認する方法はないものかと考えていたため、このアプリによってついに長年の夢が実現した。

5 データの二次利用

アプリのデータがカルテでも利用できれば、その価値はいっそう高まるはずである。そこで、紙カルテと電子カルテのいずれでもアプリの情報が利用できるように、"写真つきの経過表"と"評価入りの写真"をアルバムに保存できるようにした。

アルバムに保存した画像は、PCや電子カルテの端末に転送できる。PCに転送した経過表をワープロに取り込んで印刷すれば、褥瘡経過表用紙として利用できるし、電子カルテであれば、”評価入りの写真”を取り込んでカルテに保存すればよい。

画像11
画像12

ユーザー目線で考えたアイデアを実現してもらうことができたため、とても使いやすくて便利なアプリにすることができたと思う。このアプリの開発のために協力していただいたトライテックと科研製薬には、この場を借りて感謝を申し上げたい。