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気象予報士試験 体験記の・ようなもの

令和4年度第1回試験(2022年8月実施)に、バリバリ文系の自分が53歳で合格し、気象予報士として登録された。

予報士試験について、いずれnoteに書いておこうと思いながら怠けていたところ、ドンドン記憶が消去されていくのを感じたので、慌ててここに記録しておく。


1.受験ヒストリー

受験履歴は下記の通り。

第41回(2014年1月)一般× 専門×
第42回(2014年8月)一般× 専門×
第43回(2015年1月)一般× 専門×
第52回(2019年8月)一般× 専門×
第53回(2020年1月)一般× 専門×
----------- ここから本気出す -------------
第54回(2020年8月)一般〇(11点)専門〇(12点)実技受験せず
第55回(2021年1月)学科免除 実技×
第56回(2021年8月)学科免除 実技×
第57回(2022年1月)一般〇(13点)専門〇(14点)実技×
第58回(2022年8月)学科免除 実技〇

第41回はそれなりに勉強したものの、ほとんど歯が立たず終了。その後は「まぐれで学科に通ったら真剣に勉強しよう」というぐらいの気構えで臨んでいたので、当然といえば当然の結果。

半ばあきらめていたものの、2020年1月の53回試験でやや手応えを感じ、またコロナ禍で在宅時間も増え、この機会に再挑戦しようと本格的に準備を開始。同年8月の54回で学科合格したが、その後2回連続で実技不合格。心折れそうになりつつも57回で再度学科を突破し、58回で実技に合格できた。

2.教材について

<主に利用したもの>

41回~52回まで:

・ユーキャンの気象予報士講座(テキストと過去問題解説集。通信添削は受けず)

53回:

・中島俊夫「よくわかる気象学(第2版)」
・ユーキャンの気象予報士講座(過去問題解説集のみ)

54回:

・中島俊夫「よくわかる気象学(第2版)」「よくわかる気象学【専門知識編】」
・ユーキャンの気象予報士講座(過去問題解説集のみ)
・気象予報士試験 模範解答と解説(東京堂出版)

55回以降:

・「藤田真司の気象予報士塾」実技試験対策講座、後に学科試験対策講座も追加

<評価>

・ユーキャン

テキストは4冊に分かれており、1が一般向け、2が専門向け、3・4が実技向けという構成。1・2しか利用しなかった。ボリュームがあまりないため勉強の対象範囲を全般的に把握するのに役だつ。とっつきやすい構成ではあるが、具体的に理解するには必要な情報が欠けている印象。
一方、過去問題解説は細かい説明がなされており重宝した。ただ年々解説が淡泊になってきている印象があり、近年のものはあまり使わなかった。

・中島俊夫「よくわかる気象学(第2版)」「よくわかる気象学【専門知識編】」
 
座学の解説書としては最強の2冊と思う。実際、この2冊のおかげで54回試験の学科は一般・専門同時に突破できた。親しみやすいマンガやイラストのおかげで無理なく入っていくことができ、難解な箇所や試験に出やすい箇所は実に丁寧に説明されている。本書に出合わなければ恐らく受験を継続することはできなかった。

・藤田真司の気象予報士塾

結論から言うと、合格への最短ルートは「藤田真司の気象予報士塾」だと思う。実際、令和4年度は58回、59回合わせて98名もの合格者を輩出しており、数字でもその実績は明らかだ。

本塾が優れていると思われる点は数多いが、自分が特に強みを感じているのは下記2点だ。

①動画視聴に特化したコンテンツ

スクーリングを録画したものではなく、動画視聴を前提に作成されている。話すペースや1回の長さなど、動画視聴を徹底的に意識しているため、観ていてストレスを感じない。

少し古い動画教材と、最近収録された教材を比較すると、常に試行錯誤を繰り返し、教材や解説方法をブラッシュアップさせているのが分かる。

またテキストの該当箇所を画面に大きく映して解説してくれるので、手元のテキストにいちいち目を落とさず画面に集中することができる。自分は机に座ってPCを凝視するのではなく、大画面テレビに映し、少しリラックスした姿勢で視聴した。これは学習の継続に大いに貢献したと思う。

②分かりやすく、ツボを押さえた解説

高い話術、聞き取りやすい柔らかな関西弁、余計なことは語らず、核心を突いた平易なワードでの解説。頭にすっと入り、そしてすぐに理解に結び付く。観ていて「?」ということはほとんどなかった。ユーキャンや東京堂出版の過去問題解説を読んでいると「何故そうなるのか」分からないことが多く、そこを自分なりに理解するまでかなりの時間がかかっていた。それも大事な勉強とは思うが、限られた時間で効率的に準備をするなら最初からすっと理解できたほうがいい。

・おすすめのコース

上記のような感触から、自分がおすすめする試験対策は「藤田真司の気象予報士塾」と中島俊夫「よくわかる気象学」の組み合わせである。「藤田真司の気象予報士塾」一本でもいいと思うが、全く情報がない状態で、それなりに費用のかかる通信講座に申し込むのも勇気が要ると思うし、テキストだけで比べれば読みやすさの面で「よくわかる気象学」に優位性があるからだ。電車や寝床でゆっくり読むのにもいい。

3.勉強法について

<実施内容>

学科:
・「よくわかる気象学」の熟読
・過去問演習
 →最初の突破(54回)のときは回答→採点→ユーキャン過去問解説集を読む
 →再受験(57回)のときは回答→採点→「藤田真司の気象予報士塾」解説動画を視聴
・暗記すべき項目をスマホのテキストメモにベタ打ちしてときどき眺める

実技:
・「藤田真司の気象予報士塾」基礎編を視聴
・過去問演習
 →回答→採点→「藤田真司の気象予報士塾」解説動画を視聴
・暗記すべき項目をスマホのテキストメモにベタ打ちしてときどき眺める

実技の過去問演習は7~8年分(14~16題)を次回試験までの半年で3周することを目標に実施。3.5週ぐらいできたときもあれば、学科と並行準備したときは2周そこそこしかできなかったことも。

勉強時間は平日は60~90分ぐらい、土日は3~4時間ぐらい。実技準備期間で言うと平日は1題分(80分)を解く日と採点・解説動画視聴の日を交互に、というイメージ。土日は回答→採点→解説動画視聴をセットで当初は1ターン、慣れてきてからは2ターン実施(動画視聴は慣れてきてからは1.5倍速で視聴)。

仕事が忙しい日や、体調の悪い日は無理しないようにしていたので、手つかずの日も結構あった。全体的に勉強時間は人より少なかったかもしれない。だから本腰入れてから2年半かかった。

<演習の方法>

できるだけ試験当日と同じ環境にするため、過去問のPDFを入手してプリンターで印刷して臨んだ。問題用紙は問題文ページは両面印刷してホチキス止めし、図表部分は片面印刷(さすがにミシン目は再現しない)。回答用紙もホチキス止めした。
問題用紙・図表も毎回印刷したので(書き込みをするのでリサイクルできない)、印刷量は膨大になり、用紙もトナーカートリッジもネット通販でまとめ買いした。

当初は時間を気にせず実施したので1題分で2時間ぐらいかかっていたが、繰り返すうちに何とか時間内に収まるようになってきた。繰り返し解いた問題でもようやく時間内に収まる、というぐらいなので、制限時間との戦いについての不安は最後までぬぐえなかった。

4.受験当日

<学科試験>

どちらかというと「専門」より「一般」のほうが苦手意識が強かった。1~2問、高度な計算や物理の知識が求められる問題が入っていることが多いからだ。何しろ自分は共通一次試験(当時)すら受けていないスーパー文系人間である。これらに対応するため、高校の数学や物理を一からやり直そうともしたが、それは諦めた。つまり「捨てた」。

15問のうち11問できればいいのだ。仮に2問落としたとして、残り13問で11問正解すればいい。法律関係の4問を全部取れれば、9問中7問正解できるかの勝負になる――と皮算用していた。褒められた発想ではないが、気休めにはなった。

<実技試験>

自分が実技試験を受け始めた54回以降、毎回「見たこともないような問題」が最低でも1問は出されている。最初は面食らい、動揺もしたが、何度か受けるうちに「これはそういうものだ」と受け入れられるようになった。見たことないのは他の受験者も一緒、慌てる必要はない。自分は最後まで「時間との勝負」に勝てる自信がなかったので、びっくり仰天している時間も惜しかった。

5.道具の工夫

当日、試験会場で机の上に置いたのは鉛筆、消しゴム、パイロットフリクションボール4(消せるボールペン。黒・赤・青・緑を1本で出せる)、定規、ルーペ、クリップ(使わなかった)、時計。

フリクションボール多色を使ったのは、図表に赤や青で書き込んだあと、消して修正したくなる場面が多かったのと、あまり何本も机の上に置きたくなかったため。

定規はかなりの数を試してみたが、最終的にクツワの算数定規(15センチ)に落ち着いた。小学生向けのもので、ベルマークもついている。透明なので下の図表が見透せるのと、目盛りが大きくて見やすいのが良かった。

ルーペは昔の探偵が使っていたような大きめのものを使った。直径は7.5センチほど。

あと、年齢が40代後半以降の多くの人が苦労している点だと思うが、眼鏡にかなり気を使った。

学科試験のみ受験のときは、眼鏡をはずして回答していたが、これだとどうしても机に顔を近づける形になる。80分×2の長丁場になる実技試験でこれをやると腰に来るし、図表全体を正確に見渡すのにも適さない。

そこで、実技試験の準備をしながら「遠近両用眼鏡」をあつらえた。何となく老人の仲間入りをしたようで気恥ずかしかったが、そんなことを言っている余裕はない。

かなり慎重に調整して作った遠近両用眼鏡だったが、普段使いにはとても便利なものの、問題用紙を読むにはややピントが甘く、結局細かいところを見るときは眼鏡をはずすことになってしまった。

そこで思い切って「近くだけ見る眼鏡」を別に作ってもらった。平たく言えば老眼鏡である。老舗の眼鏡専門店でかなり丁寧に調整したこともあり、試験以外では使い道がないほど受験に特化した一品となったが、これは非常に役立った。よほど細かい作業以外は眼鏡をかけっぱなしで受験できたので、体への負担を極端に減らすことに成功した。

6.受験地について

自分は茨城県在住なので、普通に考えれば東京で受験するところだが、54回、56回、58回は福岡で受験した。茨城空港が家から近いので時間的にはさほどかからないこと、もともと頻繁に行っている土地で親しみがあったことが理由だ。

いたずらに緊張感を高めず、テンションだけが上げる、でも上がり過ぎない、という環境は人によって違うと思う。自分にとっては「福岡に泊まる」というのがぴったりのコンディションづくりだった。

なお福岡で受験した3回とも、前日から当日朝の行動が判で押したように全く同じだった。

朝、茨城空港から福岡空港へ→昼、「吉塚うなぎ」に行く→中洲川端商店街を少し歩いて「川端ぜんざい」で冷やしぜんざいを食べる→博多駅で「やまやの特駅弁」を購入→ホテルでテキストをざっと復習→お弁当を食べて就寝→早めに起きて朝風呂(大浴場のあるホテル)→ホテルで朝食

意識してそうなったというより、何となくそうなった感じ。他の人には全く参考にならないと思うが、これが自分の「試験前にテンションを上げるルーティーン」である。

7. なぜ気象予報士試験を受験したか

実は、特に明確な理由や目的があったわけではない。それにしては長続きしたと思う。

ただいくつか、そのきっかけになったことはあった。

・昼の仕事(?)で、地域活性化に取り組む人々と交流することが多く、地域コミュニティーの維持が防災と密接に関係していることを知った。もともと地域課題には興味があったが「防災」という視点から何か貢献できないか、と考えるようになった

・同様に昼の仕事で環境問題にも触れる機会があった。気候変動の実態やそのメカニズムをもう少し掘り下げてみたくなった

・これも昼の仕事で、ずばり気象情報サービス会社とやりとりする機会があった

・テレビ朝日「土曜ワイド劇場」の人気シリーズ「千の資格を持つ女」を何作か見て、気象予報士に限らず資格を持っていると人生楽しくなりそうだな、と感じていた

こんな感じだ。

もともと気象には強い興味、というほどでもないがそれなりに関心はあった。これは自分が呼吸器系に持病を持ち、「低気圧が来ると調子が悪い」など気象に自分の体調が影響を受けやすかったせいだろう。

かようにふわっとした「自分とお天気」のかかわりだが、自分がいつから気象に興味を持つようになったか、ということについてだけは、明確に特定できる。

それは小学校2年生のときだった。

その日、担任の先生がお休みか何かで、別の先生が教室に来ていた。「ウスイ先生」という年配の男性で、正確な年齢は分からないが、教頭や校長でもおかしくないような年恰好だった。しかし実際には教頭でも校長でもなく、かといってどのクラスの担任というわけでもなく、どういう立場なのか子供には謎の先生だった。

そのウスイ先生が、なんでも答えるから聞いてくれ、と質問コーナーを始めた。自分は手を上げて「風はなぜ起きるのか」と質問した。おそらく、その前の別の生徒とやりとりを聞いていて、ふと疑問に思ったことを聞いたのだと思う。

ウスイ先生はこう答えた。

「ああ、これはいい質問だ。みんなテレビで天気予報を観るだろ?そこに出てくる『低気圧』とか『高気圧』とかいうのが、押し合いへしあいして風は起きるんだ」

ものすごく簡潔だが、実に本質的なところを言い表している。そして自分にとって「質問して褒められた」初めてのケースだった。

あのやりとりがなかったら、自分は気象予報士を目指したりはしなかったかもしれない。

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