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BFF ベタ・フラッシュ・フォワード[4] 久保田沙耶 美術家【握りしめる山脈】

           *『建築ジャーナル』2019年4月号の転載です。 
       誌面デザイン 鈴木一誌デザイン/下田麻亜也 

テンプル・グランディンという研究者の開発した、自閉症患者を落ち着かせる効果をもつ、ハグ・マシーン❖ 1と呼ばれる器具がある。

元はと殺場で動物を落ち着かせるために用いられ た器具が参考にされているそうだ。マシーンは、うつぶせになった体を両側から板で挟みこみ、全体に圧をかけるつくりだ。抱きしめられているような、まるで大きな何かに握られるような感覚 になるという。

治療に用いる上でなされた大きな改変は、その圧力操作を圧される人間自身で行えるようにしたことだ。


似た原理から、重量のあるベストや体に巻き付ける器具や布団といったものが自閉症患者、特に児童の心理 負担を和らげる効果をあげている。

患者が安心する理由の説明はいく通りでも可能だろう。例えば、母体内で感じていた圧力への近似と安心、自身の輪郭がはっきり感じられることで世界 への鋭敏すぎる感覚から距離を取れること。

いずれにせよ、きわめて即物的な治療が、精神的な効果に接続している点は興味深い。

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久保田沙耶は油絵から制作を開始し、メディウムを問わず精緻な作品を多数 発表している。

各作品に共通することに、 作品を手にとれることへの意識があげられる。
幼少期から今に至るまで、旅行先や近所、どこかへ行く度何かを拾って握りしめてきたという久保田。朝から晩まで握り続け、ときには風呂にも入れてやる。

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