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ティーンエイジャー・アレルギーの私と聴く『或ル少年少女ノ「シ」』

ごきげんよう!今日も元気なインターネット中年・賢ニです。突然ですが、みなさんは「10代に戻りたい」と考えたことはありますか?私はごめんです!

周囲の人間の名誉のために補足しておくと、私が「暗黒」と呼ぶ10代、黒かったのは私の心の中だけです。クラスメイトはみんな優しかったのに、私はだんだん口をきくのが億劫になってしまったのです。一方で、なぜ私は皆みたく過ごせないのかと苦しみました。生きるのが、本当に下手くそでした。そんな10代を送ってきた私は、まず、学園もののドラマ、アニメも見れません。10代を思わせる歌詞のある曲も聴けません。10代の人間で構成されたグループのパフォーマンスを見ていると辛くなります。それを、ババアの嫉妬と言われればそれまでですが、悔しいので、「ティーンエイジャー・アレルギー」を自称することにしています。

さて、前置きが長くなりましたが、ここで曲を紹介します。本日の一曲はユキニフルの「或ル少年少女ノ「シ」」です。

おいおいおい話が違うじゃねえかとお思いですか?思いっきり10代ソングじゃね〜かと。ボカロ曲の良いのは、例え時代の顔となった名曲も、おバズりあそばすナウ曲も、“聴かない”という選択ができるところ。しかし、その反面、運命の出会いを見逃す可能性があります。今回だって、キューピッドがいなければ、ずっとこの曲を聴かずに過ごしていたことでしょう。

私が「“語りパート”のあるボカロ曲」が好きだと知ったボーカロイド有識者・バーチャルボカロリスナー御丹宮くるみさんが、ささっと数曲、私のためにピックアップしてくれまして(推しが神すぎる)、その中の一曲がこちらでした。

ちょっとSFっぽい世界が広がっています。「人工太陽」というからには、どこか広いシェルターのような場所で暮らしているのかもしれません。主人公はふたり。男の子と女の子です。一人二役、演劇っぽくて大好きです。

淡々とした語り口で、物語は進んでいきますが、ここで私の大好きな“語りパート”が引き金となって、曲に大きなうねりがやってきます。一つ目のきっかけは、「ぼくらの未来」。この語りが終わった直後、歌と叫びの間のような、こちらへ向かって爪を立てるような、言葉の津波がやってきます。彼女の死を確信している「僕」に、「僕“ら”の未来」はこない。冷めたような語り口と、心に渦巻く激情に、私はすっかり圧倒されていました。

女の子は結局死にました。私は彼女の「シ」は、比喩でなく「死」だと思います。「少女」から「女」になった=“少女”の死?とも考えましたが、そこまでいくと私の忌み嫌う「考察と称した二次創作」になるので、却下。ページをめくるように、唐突に死んだのです。そんなことあるのかよ、と思うでしょうか。私はあると思います。死は突然やってきますし、それは実際本人の意志とは関係なく起こる、現象のようなものだと思います。男の子は、その現象を目撃したのです。で、曲のタイトルは「少年少女ノ「シ」」です。少年も死んだのです。その形は少女とは違うかもしれませんが、僕“ら“の未来は断たれましたから、たしかに「シ」んだのだと思います。

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私が身につまされたのは「十年ちょっとの日々も命と呼べる長さ」のところ。30代の私は10代の私を、未熟で醜い、卵の中にいる生成途中の生命を見る気持ちで思い出しています(その点では「十年ちょっとの日々を命と呼ぶには短くて」と言う「私」と気が合います。少年と少女の決定的な違いがここにあると思います)が、実はそんなことはないはずなのです。美しいものを見て泣き、馴れ合い、金切り声を上げて騒ぎ、くだらないことで笑い、荒削りな毎日を必死で生きていました。初音ミクの声に乗っかって、そんな10代の私が殴りつけてくるようでした。十年ちょっとしか生きていない人間の、命のきらめきが見えました。私にも、たしかにあり、そのことに気づいて、少し救われました。

曲を聴き終えて、しばらく打ちのめされた後、猛烈に反省しました。ティーンエイジャー・アレルギーを言い訳に、こんなに素晴らしい曲を耳にするチャンスを棒に振るところだった。同時に、勧めてくれたおにくるさんへ感謝し、その勧めに応じた自分のファインプレーを讃えました。だって私はこの曲のことを完全に“好き”になってしまったのです。意固地にならずに受け入れの間口を広げて、おおらかに物事を摂取していく姿勢が、今の私には必要なのかもなと感じました。そりゃあ、好みは人それぞれですけども、その方が多分好きなものに巡り会える確率が上がるんですよね。ことボカロ曲については。

ところで「ユキニフル」は、作詞を担当されている方が小説も発表されていますね。ただ、私が曲から受けた感情の答え合わせをしてしまうのが怖いので、未読です。もし小説を読んだ方がこの記事を見て「作者の意図と違う」と思われたとしても、どうか心に留めておいてください。私のボカロの楽しみ方は、こんな感じです。

賢ニ

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