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君が隣にいたら夜が明けなかったんだ - 「骨格標本」

ごきげんよう!今日も元気なインターネット中年、賢二です。図らずも連続投稿になってしまいましたが、このペースがずっと続くわけではありません。今回は特別です。だって、時間がないんです。私がこれからお話させて頂くボカロ曲の作者が、もうすぐ活動をお休みされるからです。この方は17歳で、受験を控えていらっしゃるのです。まだ作者がインターネットにいるうちに、なんとかこの想いを知ってもらいたいと思っています。
作者の名前はMiwoさん、私が心奪われた一曲は「骨格標本」です。

私は、ことボカロ曲に関して「考察」とか「解釈」とかに対して斜に構えているところがあります。歌詞に書かれていないことを自分の都合よく"解釈"あるいは"考察"する人たちの中には、飛躍しすぎて「それあなたが書きたい話を、他人の曲をダシに展開しているだけでは?」と思ってしまうんですよね。で、私がこれから書くことは、作者の意図を越えた二次創作になってしまうかもしれません。もしそうなってしまったら、矛盾おばさんと笑ってください。
※以下、字数制限のために語り口を変えています。

この曲の中には「太陽が消えた星」「硝子の囲む部屋」「白い単調の世界」「空が青い世界」「気持ちを持った星」といった状況が描かれているが、話をSFへ持っていくつもりはない。太陽が消えて人類が誰もいなくなった星のシェルターで過ごす僕と君の物語…という二次創作小説は誰か得意な人に任せるとして、私がグッときたのは、「標本箱からひとり出ていく」という描写と、「僕」「君」の関係性である。なお、厳密には「標本箱」という表記はないが、曲のタイトル「骨格標本」と、歌詞の中の「硝子」という言葉から「標本箱」と判断する。

印象的に用いられる「骨になっても大丈夫」という言葉は、「君」の言葉だ。少しおかしい。曲の冒頭、ふたりは「ここから出た時のこと」を話しているはずなのに、「君」は大丈夫大丈夫と言い聞かせ、結局留まることを促しているように見える。そうして呪いをかけている。そんな「君」を振り切って、「僕」は硝子の向こうへ出る。

隣に君がいたら/夜が明けなかったんだ」という歌詞の強さ、残酷さときたら、この曲の中のように、静まりかえって、つららのように刺してくる。「太陽が消えた星」だと思っていたのは、本当に狭い狭い世界の話で、硝子の中に留めておこうとしていた「君」と離れたことで、「僕」は初めて夜明けを知る。

骨格標本として標本箱に収まり、それでよしとする「君」と、まだ先を見ている「僕」。この「君」は、友達かもしれないし、肉親かもしれない。いずれにせよ、たった2人の世界だったのだから、近しい人である。「気持ちを持った時は/ひとりになっていた」と気づいた時の「僕」の絶望はいかばかりだったか。硝子の外は楽園ではないかもしれないのに。本当は「君」と共に、外へ出て行きたかっただろう。

しかし、私には「君」の気持ちが分かる気がする。何を隠そう、私は標本箱に残った人間だからだ。夢に向かう人を、それとなく引き留めたことがある。「そんなことやめなよ」とは言えないから「私はこのままでいいと思う」と、優しく言い聞かせるふりをして、やんわりと行く道を否定したことがある。今となっては、硝子越しに、先へ進む人間を眩しく見ているばかりだ。感化されて外へ出ていくこともせず、夜明けのこない世界で、じっとしている。
誰もが「僕」にも「君」にもなる。曲の「僕」と同じように外へ出て行けた人もいれば、「君」の言う通り標本箱でじっとしていることを選んだ人もいるだろう。曲の「君」のように引き留めた人もいれば、背中を押して送り出した人もいるだろう。「僕」と「君」を交互に行き来しながら、人は人と関わり、生きていく

「骨格標本」には、大きな救いが用意されている。「僕」は、決して硝子の中の「君」を見捨てたわけではない。「骨になって終わりじゃない」という言葉で、たしかな希望を「君」の心に残していった。もちろん、引き留める「君」へ対する反発の意味もあるだろうが、同時に「君」にも、外へ出る資格があると伝えている。

Miwo氏の曲を初めて聴いて、これは大変な人に出会ってしまったぞと、大慌てでTwitterアカウントへ飛んでいった先で、活動休止が目前だと知った時の私の心は、「残念」と同じくらい「曲を作ってくれてありがとう」の気持ちが占めていた。2020年、楽しいことは溢れているし、学生業は多忙を極めているだろうに、数多の選択肢の中で、Miwo氏は初音ミクの手をとった。曲を作り上げ、インターネットにアップロードして、しがない社会人の私の心に希望を灯した。

受験の後、戻ってきてくださっても、音楽以外の道を見つけても、やっぱり休止することをやめて受験勉強の傍ら曲制作を続けることにしても、心から応援する。隣で「大丈夫(だから夢を追うのはやめよう)」と言う人がいるかもしれませんが、どうか、それでも「僕」のように先へ進んでほしい。

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初音ミクと出会ってくれて、私たちにあなたの世界を見せてくれてありがとう。希望をくれて、ありがとう。Miwoさんの行く道が幸せに満ちることを祈っています。

賢二

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