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卒業研究「エビ中とは?」③




歌姫と青










2021年11月末。

9月のライブ『ちゅうおん』を最後に休養期間に入っていた柏木ひなたが久々の生配信を行った。

内容は年末の大学芸会での復帰の発表だったが、配信開始からファンのコメントでは「こわい」というものがあった。それを見た柏木が「こわくないよ」と言って復帰を発表したのだが、当時違和感を覚えたのを忘れられない。
実際に数ヶ月後に柏木はグループ卒業を発表することとなり、実はファンの不安は的中していたのだった。


柏木はこの配信の数日後にはメンバーに卒業を伝えている。
それを聞いた真山が「すっきりした表情をしていた」と言っていたように柏木の中では考えが整理されていたのだろう。

その2年ほど前から柏木はチーフマネージャーの校長こと藤井ユーイチに卒業の意思を伝えていた。「グループでやれることはやった」ということだったが、この時は藤井が「待ってほしい」と引き留めた。
ただ当時と違うのは柏木の体調で、卒業理由には「グループに迷惑をかけないため」というものが加わることとなりそれは柏木自身も悔いの残るところだった。
以前からソロシンガーとしてやりたい意志はあったのだろうが、タイミングが体調によるものとなってしまったということだ。



柏木はずっとエビ中というグループが大好きだというのを隠さない。そんな大好きなグループを去る理由は前向きなものだけにしたかったはずだ。




その無念さとは裏腹に卒業発表から卒業公演までの八ヶ月を柏木は前向きに過ごしていたように思う。
卒業までに期間を設けたのがその一因でもあるが、それは廣田あいかが同様に卒業までの準備期間をファンと共に有意義に過ごしていたのを見たからのようだ。

廣田あいかが卒業を決めたきっかけの一つが自身の生誕ソロライブだった。今思えば柏木も自身の生誕ソロライブでやりたいことをやって満足そうだった気がする。
廣田あいかの卒業ライブ翌日に同じステージで6人となったエビ中がライブをやったように、柏木ひなた卒業ライブの翌日には10人のエビ中がライブをした。
ただ違うのは廣田が抜けたまま6人でやったかつてのエビ中に対して、柏木が抜けたエビ中は桜井えまと仲村悠菜を入れた10人だった。

柏木は2015年に突発性難聴により一度休養を経験している。
その時にはアルバムの発売予定が延期されるなどのことがあり「グループに迷惑をかけるから辞める」と考えていた。だが柏木は本当は辞めたくなかった。結果的にグループを続けることとなったが「次休養するようなことがあればグループを辞める」と決めていたのだ。
そして今回の卒業に至った。

こうして短く文面にするだけでも柏木の苦悩は相当なものであり、本人は相当苦しかったはずだ。2度目の休養となる前の『ちゅうおん』で親御さんが公演の合間に心配になり呼び出したのも頷ける。

きっと柏木はいろいろと背負い過ぎるところがあるのだろう。本人が言うようにちょっとしたことを共有して話せる同期がいない等難しい面があったことに加えて、何かを背負ってやらなければいけない局面が多かったのも事実だ。『ebichu pride』からずっと背負い続けてきた柏木のグループへの愛情と誇りがエビ中を確実に前へ進めてきた。

だからこそ誰もグループを離れることに反対せず、誰もが彼女との別れを惜しんだ。
卒業までの8カ月。春ツアー、ファミえん、ちゅうおん、柏木企画と噛みしめながらも前向きに楽しんでいた姿は、背負っていた苦悩から解放されたのがわかるものだった。2021年の休養前のような思い詰めた表情はなかった。




そんな柏木の背中を押していたのはある人物からの言葉だった。

2015年の1度目の休養から復帰後にその人物からかけられた言葉をずっと忘れていないと、事あるごとに言っていた。



松野莉奈と柏木ひなたは対照的だった。
背の大きな松野に小さな柏木。歌が苦手な松野に得意な柏木。

個人的には松野莉奈に対して多くを語らずただただ青を掲げるスタンスのエビ中のスタイルはかっこいいし好感が持てる。しかしその反面でどこかもどかしさもある。

そんな中で柏木は割と松野莉奈に対しての想いを隠さずに真っ直ぐに表す。

卒業前に本人が企画した『柏木企画』では真山りか、安本彩花、星名美怜との『10年選手』、小林歌穂、中山莉子との『いそきんトリオ』、桜木心菜、小久保柚乃、風見和顔との『BOSSと子分』とそれぞれのメンバーとのコンセプトライブを行った。
そして最後のソロライブでは2人のユニット曲『盆栽ガール』を歌った。

パフォーマンスに定評のあるエビ中において松野莉奈という人物は突出したメンバーでもなければ、むしろ目立たない方だ。
エビ中のパフォーマンスの主力を担う柏木とは真逆にいる。

だがエビ中のボイストレーナーである西山恵美子は「歌心がある」と松野を評価している。同様に松野のパフォーマンスに一目置いていたのが柏木だった。

つくづく松野莉奈という人物は不思議な人物で、その松野と柏木は不思議な関係性だと思う。



2010年に私立恵比寿中学に転入した柏木ひなたは、極度な人見知りの松野莉奈とすぐに仲良くなった。

隣り合わせの出席番号9と10が表すように、少し松野が先輩で同級生ユニット『くっつきぶんぶん』を組んでいる同い年。

早生まれで背の小さな柏木は、同学年の中でも身長の高い松野によくおんぶしてもらっていた。


松野のメンバーカラーは青。
柏木のメンバーカラーはオレンジ。



青空のように澄み切った性格の松野と、ステージで太陽のように輝く柏木。

柏木は「12年間エビ中を続けてこれたのは莉奈の言葉がすごく大きかった」と言う。





松野莉奈はまっすぐな人物で、思ったことを表情や身体全体で素直に表す。

大好きな『全力☆ランナー』のことを語り出すと熱くなって止まらないし、当時8人だったエビ中で「この8人が最高か?」と問われれば満面の笑みで「うん!」と即答する。

エビ中に迷惑をかけると悩んでいた柏木に松野がかけた言葉は




「ひなたがいなかったらエビ中じゃないでしょ」



今でも苦しい時は空を見上げて深呼吸をしている。


あの言葉が今までもこれからもずっと、まっすぐに柏木の背中を押し続ける。



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