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機械に命はあるのか。

もしあなたが非生物に愛を感じることがあっても,それは勘違いではないし間違いでもない.

オリジナルメディアBoomBoomには今回の記事の他に数々のディープテックな記事が掲載されています.


1.情熱との出会い

2018年11月11日ー.この日の東京の空は曇り空だった.
その日は母の誕生日で,私の25歳最後の日でもあった.

そんな特別とも言える日に足を運んでいたのは,お台場で開催されたサイエンスアゴラ2018だ.
科学と社会のこれからをともに考え,互いの考えを尊重して未来を創っていく,そんな場所づくりをテーマにしている催しだそうだ.

のちに知ったのだが,サイエンスアゴラは科学に関心がある者に非常に有名な催しのようだ.

当時の私は,生まれて初めて会社法人を立ち上げたばかりだった.
しかしサービスのプロトタイプどころが構想の最中にいた.
そんなわけで,「何か面白いものが見られるかも」という動機で行動することが多く,サイエンスアゴラもそのうちの一つだった.

会場に着いて數十分.訪れたブースで,目から鱗がどばどばと零れ落ちた.

望山 洋先生.

望山先生は「機械に命を与える研究者」だった.
研究成果であるロボットを見せてもらいながら,先生は初対面の私に様々な話をしてくれた.
聞いた話は,大まかに言って以下の3つだった.

・機械がまるで生きているかのように見える秘密の技術がある.

・社会との接点を積極的に持つことの意義を信じて,このようなブース出展を行なっている.

・この技術をもって,いずれ事業を立ち上げたいとも考えている.

若者にとって希望になるのは夢を語る大人だ.
夢を語るのは若者の権利ではなく,大人の役目だと思う.
私が何気なく行ったあの場所で得たものは,インスピレーションだった.

それは他の点と結びつき,次第に大きくなり,ついには産声をあげた.

ーサイエンスアゴラから4ヶ月後,私はあるE-mailをつくっていた.

「望山先生,私のリリースするサービスの初期ユーザーになってくださいませんか?」

2.柔軟ロボットの研究者

2019年4月20日.関東バスで揺られること90分,私は筑波大学に着いた.

そして構内西方に位置する第3エリア3L棟の3階へ.そこは,知能機能工学域の研究室が並ぶ領域だ.

何年か前に機械工学を専門的に学んでいたことを振り返りながら,学生の間をすりぬけ,先生のもとへ歩いた.

「先生,さっそく,撮らせてください!」

出し抜けにそう頼んだ.
先生は快く色々なものを見せてくれ,奥深い研究の世界を教えてくれた.

私は知った.サイエンスアゴラで見たものは,先生の研究のごく一部に過ぎなかったことを.

そして一番驚いたのが・・・

「水谷さん,水谷さんは昔,名工大にいたんですよね?私は昔,名工大の研究者だったんですよ.佐野研究室に2008年までいたのです」

望山先生は,私の学部時代の母校,名古屋工業大学の機械工学科で,在学当時一二を争うほど人気だと噂されていた”Robotics Lab”の佐野明人先生が教えていたトヨタ自動車の寄附講座に所属されていたという.

望山先生はもともと制御工学の専門家だったが,佐野研究室で触覚に出会い,生物学を機械工学に取り入れ始めた.その末にソフトロボティクス(柔軟ロボット学)に行き着いた.

触覚テクノロジーとは,力学の原理を用いて人の触覚に差を生み出す技術だ.上の動画は,先生の研究成果のひとつ.
プラスチック製品においても触覚テクノロジーを使えば皮のような触り心地を生み出すことが可能だという.
「これは,触覚の錯覚と言うんです」

と望山先生はにっこり.
先生は研究のことを話すとき,本当に楽しそうに見えた.
とりわけ,名工大時代の上司にあたる佐野先生について語るとき,ひときわ輝いて見えた.
佐野先生もまた,夢を語る大人の一人だからだろう.
「佐野先生は,アイデアの出し方がすごい」「現象を見る,ということの大事さです」と教えてくれた.

こうして受け継がれていくものが沢山あるのだろう.


と望山先生はにっこり.
先生は研究のことを話すとき,本当に楽しそうに見えた.
とりわけ,名工大時代の上司にあたる佐野先生について語るとき,ひときわ輝いて見えた.
佐野先生もまた,夢を語る大人の一人だからだろう.
「佐野先生は,アイデアの出し方がすごい」「現象を見る,ということの大事さです」と教えてくれた.

こうして受け継がれていくものが沢山あるのだろう.


ふと見ると先生の傍らには,研究室に所属する学生たちがいた.

彼らはいわば研究者の卵.

だがその実,彼らと話すことで,すでにその頭角は現れていることがわかった.

3.機械に愛はあるのか?

跳ぶロボットの説明に移ると,その研究テーマで活動しているある学生が大きく乗り出した.
「僕,メカがやりたいから,この研究室に入ったんです」

詳しく聞くと,知能機能工学域の研究室では,ハードウェア(=メカ)を設計制作することは少なくなってきたという.彼は高専出身ということもあってか,メカ設計も手がけたいという想いから,専攻の情報を丁寧に調べ上げ,望山先生の柔軟ロボット研究室を選んだ.

話をしてくれたのは翠 健仁さん.
なんと彼までもが,もともと名古屋周辺の出身だという.
名古屋からはるばる400kmの場所で,偶然にして驚きである.

「じつは,この跳躍するロボットは,もともと『階段を登ることもできるロボットの開発』という名目で,実用性に特化した研究だったんですよ.今もその道は続いていますが,途中で『これは可愛い』と気づいたんです」

そこから彼らは,ロボットが可愛がられる秘密を追究した.

1980年代より認知科学的に「跳ねる動作」が「人間性として知覚される」ものとしてみとめられているという.

完成した枠の中にひとつひとつ丁寧にピースをはめ込み,
跳躍するロボットの動きは不気味の谷を越え,ついに愛を獲得した.

4.世界を変える研究者

機械に命はあるのか.ーそんなテーマで,昔からSFが描かれてきた.

命とはなんだろう.
たとえば生物の定義は,自ら複製していく機能を持つものだという説がある.
しかし,人間を主体として,対象物に対して愛を感じるとき,そこには命があると呼んでもいい.

ということは,ついに革命が起きようとしている.

「望山先生,世界には,柔軟ロボットの研究ですごい方々がいらっしゃるんですか?」

「いますよ.すごいのはやっぱり,コミュニティを立ち上げたイタリアのグループです.そのリーダー的な存在はチチェリア・ラシーさんという女性なんですが,彼女らはタコに注目しているんです.柔軟で,かつ知性がある.タコとイカは知性に大きな違いがあると知っていましたか?」

調べてみると,出てくる出てくる.

機械工学が人間工学や生物学,情報工学や材料工学,認知科学と融合する.

男女問わず研究の世界では活躍する者が生まれ,国と国の境界線も突破してリスペクトが循環する.

そしてついに,人間と機械の間でさえも,愛が交換されはじめた.

そんな理想的な未来が,柔軟ロボットの分野で先進的に描かれている.

望山先生,そんなビジョンを見させていただき,ありがとうございました.

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