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ブータン、知られざる牛王国

写真:つい車の進行を妨げてしまう牛

ブータンの道を車で走っていると、必ずある動物が進行を妨げる。車が目の前にきても彼らは微動だにしないし、のそのそとマイペースで自分の道を進む。首都から田舎まで、人がいるところには必ずいる彼ら。そう、それは牛だ。ブータン王国全人口を軽く超える頭数である。ブータンは牛王国でもあり、やはり世界でも指おりの「牛幸福度」が高いことでも有名だ。

写真:どこにいっても牛に出会う

ブータンの人々は牛と共に生きてきた。伝統的な民家は2階以上の造りになっていて、1階は家畜、つまり牛が住み、2階に人が住む。牛の熱気が2階に上がってくるので、さながらエコな床暖房のようなしくみのつくりだ。

写真: 乳搾りは村人達の毎日の日課

雌牛から搾った乳を撹拌し、脂分が多いところはバターに、それ以外をチーズにする。残った液体はダチュと呼ばれ、食事の時に飲む。ブータンの代表的な料理は、唐辛子とチーズをベースにする。だから、チーズは欠かせない食材のひとつだ。さらに雄牛は田畑を耕す動力とし、糞は肥料にする。牛からいただいたものは何一つ無駄にしない。農耕が主な生業のブータン人の生活にとって牛はなくてはならない存在なのだ。

写真:搾りたての牛乳で作ったブータン式チーズ(ダツィ)

ブータンの人々は自分たちの飼っている牛を基本的には殺して食べない。なぜなら多くのブータン人は仏教を篤く信仰しているため殺生を嫌うからだ。ただ、年をとって死んだ牛や不慮の事故で死んでしまった牛の命はありがたく頂く。ブータン人と牛はそうやって何年も何百年も生きてきた。

 農村に赴けば、牛の面倒をみるカウボーイの存在を多く見かける。牛たちに新鮮な草を食べさせ、面倒をみるのか彼らの仕事だ。ぼくがブータンを滞在する際、必ず訪れるイスナ村というところに、おそらく現役最年長になるであろうカウボーイ、プブ・サンドゥルップさんが住んでいる。92歳の彼はヒマラヤ山脈の乾いた風が作り上げた深いシワ、長く伸びた白い髭、頭にはいつもお気に入りのベージュ色のハットが目印だ。

写真: 92歳のカウボーイ、プブ・サンドゥルップさんと牛たち

村一番の長老でありながら、今でも現役バリバリのカウボーイ。働き者で偉ぶらない姿勢は、村人から愛され、尊敬され、信頼を集めている。

ぼくはこの村と関わりをもって10年になるが、いつ訪れてもプブ・サンドゥルップさんはそこにいて、毎日お決まりのルーティン(牛の世話)をしている。牛の特徴によってつけられた名前や愛称がそれぞれにあり、まるで家族のように接している。サンドゥルップさんがそろそろ帰ろうかなと支度をしはじめると、牛たちも自然と小屋へ帰っていく。牛達の方もサンドゥルップさんを慕い、家族のように思っているかのようだ。長年ブータンを撮り続けているぼくでも「これぞまさしくブータンだ」と腹の底から思えるブータンがそこにはある。
大切にされている環境にいる動物達からはなんだか独特の穏やかな佇まいがある。牛たちが作り出す雰囲気がブータンをより一層のんびりな国にしている気がした。

写真: 牛の面倒をみるプブ・サンドゥルップさん

ブータンの旅を開催します⬇️

お盆の里帰りのような、そんなツアーにしたいと思っています。
ポプジカ谷でホームスティ、里山でのお散歩あり。
子供たちや村人たちと触れ合うディープな旅です。
参加者募集中です。

第7回 写真家・関健作と行くブータンの旅
2019年8月18日(日)~8月24日(土)
タイ・バンコク発着 7日間
詳しくはこちらから:
https://gnhtravel.com/photographer/kensakuseki_bhutan2019/

この記事は昨年株式会社ぎょうせいから発行された雑誌「リーダーズライブラリ」の連載を修正、写真を加えたものです。
雑誌「リーダーズライブラリ」についてはこちら↓
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9699
現在、同じく株式会社ぎょうせいから発行されている雑誌「学校教育・実践ライブラリ」で「Hands 手から始まる物語」という新連載を書いています。こちらもご注目ください。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9948

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