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ウェルビーイング系スタートアップの終わり方|感謝で終えることの希望

Nestoの2020年の年明けから始まった約四年間の挑戦は2023年12月で幕を閉じました。
終わり方にこだわった私たちは、これまでの活動をコレクティブに編纂したNestoブックと、終わりの経験をみんなで収穫するためのNestoセレモニーを最後のプロジェクトと位置付けてここまで進めてきました。

三時間程度のセレモニーでしたが、一つの挑戦が終わるという時に心からこの場を開いて良かったと感じています。
文章に落とし込むのが難しいですが、組織の終わらせ方として一つの型が出せた気もしており記録として残そうと思います。 


プロジェクト概要

本式典はNesto Graditude Ceremonyというタイトルで、2023年12月9日に、Nestoの本社機能があった旧Nagatacho GRiD・現MIDORI.so NAGATACHOの2Fのエンゲージメントスペースにて開催されました。
このエンゲージメントスペースはNestoのイベントに間に合わせることを期限として、急ピッチでリニューアルを進めてくれました。感謝。
空間は光と緑と多様な家具に囲まれて心地よく、コロナ禍を経て「なぜ人は物理的に集まる必要があるのか?」という問いが出てきた私たちに対して、外側の行動管理ではなく、内側の意識共有にコンセプトの重きを置いたエンゲージメントスペースという概念に共感しています。
Nestoはずっと遠くのご近所としてオンラインで繋がってきたコミュニティで、こうして最後に60名強の人が一つの場に集まったゆえの喜びがありました。

物理的に集まるからこそ繋がれる質感がある


このセレモニーの目的は大きく二つです。
これまでNestoに関わっていただいた感謝の想いを伝えさせていただくことと、これからの一人ひとりの活動へと繋がるご縁が育まれることです。
抽象的なイメージとしては、卒業式と結婚式を掛け合わせたような、軽快な一つのイベントというよりかは重厚感のある節目のセレモニーのような質感を目指しました。

このセレモニーへの招待は、僕がその人とのNestoとの思い出を振り返りながら感謝を伝える手紙を書き、末尾にセレモニーの招待案内をさせていただきました。
Nestoにはメンバー、ホスト、チーム、株主と様々なステークホルダーがいて、全員と個人的な繋がりがあることに感謝すると同時に、これだけたくさんの人を巻き込ませていただいたことにも自分で驚きながら、感謝修行とも思えるくらいに250名ほどの人たちに2週間かけて丁寧に言葉を紡ぎ続けました。

結果的に当日参加してくださったのは60名強となりましたが、手紙に対しての返信を通して関わってくれた皆さんへの挨拶と感謝を伝えさせてもらうことができたと感じています。

参加は無料での招待として、フードやドリンクについてもこだわり、Nestoブックを一人一冊ギフトさせていただきました。
予算は人件費を除いて100万円とし、ブックの印刷とセレモニーのおもてなしを合わせて余裕を持って納めることができました。

今まで関わってきた人への感謝の想いを場に込める


Nestoブック

ここでNestoブックについてお話します。
NestoブックはCXOの横山がディレクター兼デザイナーとして本プロジェクトを担当してくれました。

通常の本の制作は、最初に完成イメージを構想し、それに向けてコンテンツを作っていくものです。
しかし、期限もリソースも限られていて、多様な関係者からの言葉を集めたい私たちの環境において、トップダウンでコントロールするのは難しいと判断しました。

横山の方針は、個人の想いでそれぞれNestoブックに載せたい内容を担当して、期限までに出来上がったものだけをそのまま掲載するというものでした。
また、Nestoの活動が少なくなっている中で毎週2時間はNestoブックの作業をするもくもく会を設定してくれたのも制作のリズムを掴む助けとなりました。

結果的に経営陣の藤代・横山・高橋が中心となってそれぞれがNestoを閉じるにあたって綴じたい内容にコミットした結果、400ページ弱のボリュームがある本が出来上がりました。

2ヶ月の急ピッチでNestoブックは作成された


肝心の内容は以下の13のコンテンツになりました。
経営陣三人以外への寄稿文は任意にも関わらず、誰も無理をしない形でたくさんの言葉が集まりました。

  1. Nestoの軌跡 by 藤代健介

  2. 事業の振り返りと感想 by 高橋理志

  3. Nestoがつくったもの図鑑 by 横山詩歩

  4. リズムとホストの紹介

  5. メンバーにとってのNesto

  6. 投資家の紹介

  7. 私のウェルビーイングがどう変化したのか? by 高橋理志

  8. ウェルビーイング、コミュニティ、資本主義の間で。 by 横山詩歩

  9. メタなNestoについての対話 by 冨田貴史、藤代健介

  10. ウェルビーイングを巡った対話を振り返る by 山崎繭加、松本紹圭、藤代健介

  11. ウェルビーイング系スタートアップの中間報告 「よけいわからなくなった」 by 藤代健介

  12. ウェルビーイング系スタートアップの中間報告2 オンラインコミュニティこ多拠点居住者向けプラットフォームへ by 藤代健介

  13. ウェルビーイング系スタートアップの最終報告 挑戦の終幕、社会OSごとの卒業 by 藤代健介

本全体の流れを眺めてみると、2020年のニューヨーク構想から立ち上がり、オンライン習慣プラットフォームへのピボット、ベータ版としてたくさんのリズムが生まれ、事業として伸び悩み苦悩しながら、2023年に終わる決断をする過程がまとまるものとなりました。
横山の尽力があってこそですが、結果と管理を手放した上で、このクオリティの本ができることに驚いています。

Nestoの物語が本という形で結実し、僕たちの経験価値を誰かへと渡していくためのパッケージングをやりきれたことに満足しています。

僕たちの挑戦が記録として結実されたNestoブック


Nestoセレモニー

Nestoセレモニーの話に戻ります。
セレモニーは大きく三つのコンテンツを計画しました。

一つ目は、卒業式の授与式を思わせるNestoブックの贈呈式です。
経営陣の3人がアイドル握手会さながらに皆さんを机越しにお迎えして、一人ずつ感謝を伝えながらNestoブックを渡していきました。
こうすることで、一人ひとりの縁に全集中することができました。
普段は冷え性の僕ですが、60人強の参加者と握手をさせていただいて手があたたかくなっていたのが印象的でした。

これまでの感謝を一瞬に込めて感謝しながら一人づつNestoブックを手渡しをする


二つ目は、Nestoコミュニティのコア要素でもあった対話です。
ここでは、参加者から自発的にテーマを持ち出してもらいたいという意図があったので、Open Space Technolgyの手法を参考にしました。
オープンマイクでボランティアを募集して、会場からテーマを出してくれる10人を募ります。
ボランティアが中々出ないで沈黙が続く時もありましたが、その沈黙の時間をみんなでホールドする間が僕には尊いようにも感じました。
どうしても自由な懇親会の形式だと、見知った人たちとの近況報告や、初めましての人との概略的な自己紹介から始まってしまいます。
すでに遠くのご近所として、同じ世界観を共有している参加者たちだったからこそ、テーマごとにグループをつくり深いところで対話をする豊かさを謳歌できました。

その場でボランティアを中心にした小さいコミュニティたちが10個誕生した


三つ目は、結婚式の両親への手紙を思わせる感謝の手紙とスピーチです。
僕はNestoに関わっていただいたほぼ全員に個別の手紙を書かせてもらいましたが、共にここまでつくってきた最も身近な存在である高橋と横山には手紙を書いていませんでした。
自分がスピーチするという最後のコンテンツの中で、サプライズで二人への手紙をみんなの前で読ませていただきました。
そしてそのまま集まっていただいた皆様に向けて僕からスピーチをさせていただきました。

経営陣の三人で準備を進めてきたが手紙は僕からのサプライズだった


内観療法との出会い

実は、Nestoセレモニーの2週間前に長野・安曇野にある信州内観研究所というところで1週間の集中内観というものに参加してきました。
10年越しの人生の大きな棚卸しをするタイミングで、信頼する複数の友人から推薦されたことが参加のきっかけでした。

内観療法は、吉本伊信という方が「身調べ」という浄土真宗の修行法をもとに開発した自己洞察法です。
自分と関わりの深い他者に対して、「してもらったこと」、「してさしあげたこと」、「迷惑をおかけしたこと」の3つの観点について1週間ずっと時期と対象を細かく分けながら客観的に事実を調べます。
自分の心を直接掘り下げるのでなく、他者を鏡として外から自分を客観視する点が特徴です。

僕の世界観的としては、死に際の走馬灯や三途の川で人生を振り返る臨死体験だと捉えました。
生きながらにして死に際の感情に出会えることは素晴らしい機会です。
集中内観を経て、生かされる感謝をもって人生が大きく変わる人がたくさんいるのも納得です。

いかに自分が自惚れていたか、それによって他者を振り回して迷惑をかけてきたということを内観を通して心の底から感じました。
僕の人生が物心ついた時から同じパターンを続けてきた事実に驚愕したのですが、Nestoについても同じです。
自分の夢や信念と言えば聞こえはいいですが、それは言い換えれば自分のエゴから出てくる野望や野心とも言えます。
エゴの野望や野心を社会的な意義として上手く頭を使ってコンセプトでコーティングして、自分も他者も騙しながらその渦に巻き込んでいたのだと気づきました。
この事実に気づいた時に、迷惑をかけたことへの謝罪と、それに付き合ってくれた感謝を伝えたいと心から思いました。
セレモニーでスピーチをすることは元々決まっていたのですが、その直前に内観療法に出会えたご縁に心から感謝したいです。


迷惑をかけたことへの謝罪

横山や高橋への手紙、皆さんへのスピーチの一貫したメッセージは「迷惑をかけたこと」についてでした。

二人への手紙では、「自分の行動がいかに迷惑をかけたのか」ということについてできるだけ具体的に一つずつ列挙して謝罪しました。
その上で「相手が何を自分にしてくれたのか」ということについても具体的にも列挙して感謝を述べました。

不思議と二度目の結婚式みたいな気分になった


一人で話したスピーチはライブで言葉を紡ぎました。
何を話したのかは正確には覚えていませんが、自分がNestoの中心で旗を掲げて皆さんのエネルギーを搾取してきたことへの謝罪がメッセージのエッセンスでした。
大事なのは、言葉よりも姿勢、内容よりも声色だったのだと感じます。

スピーチが終わると半ば放心状態になり座り込んでいると、「確かに巻き込まれたけど、それが喜びだった」という旨のメッセージと共に時に抱擁しながらたくさんの人が優しく声をかけてくれました。

今思えば、このスピーチではCEOというハットを被らないで、一人の人間としてこの場に向き合い言葉を紡いでいました。
日常の政(まつりごと)ではそれぞれの役割を求められるのでハットを被ることも必要でしょうが、非日常の祭(まつり)ではハットを外して人間として付き合うことの大事さを感じます。
僕だけじゃなくて、参加者みんながハットを外して人間としてその場に確かにいました。

内観療法で観たあの世に行く前の風景に重なって見えた


Nestoセレモニーの最後には、みんなで二重の輪をつくりました。
このワークは、レイキの一つの手法として拡散・収束・拡散のエネルギーの輪をつくります。別で共催している対話のリトリートでも最後に輪をつくり素晴らしい繋がりを感じていたので、そこから学び自分で応用しました。
手を繋ぎながら、それぞれの人生を歩んできた私たちが、何かの縁でNestoという場で共になり、そしてまたそれぞれの人生を歩んでいくということを静かに共に感じるひとときでした。
合掌しながら一人ひとりと目を合わせる時にNestoというひとつの活動体が終わったような感覚を持ちました。
円の中心の空から天へと何かがかえっていくのを感じたのです。
ふと気がつけば、この二重の円はNestoのロゴにも似ているなと感じました。

何かの縁で出会ってしまった私たちの繋がりを感じる最後の輪


終わらせ方の大事さ

以上が僕たちがスタートアップとして始めたひとつの挑戦を全力で終わらせることにコミットした活動の記録です。

スタートアップの9割は失敗すると言われています。
その中で、これまでの軌跡を丁寧に振り返り、その収穫をみんなで味わい、祝祭的な喜びの中で終わらせることができた挑戦や組織はどれほどいるのでしょうか。
そういう意味で、このような終わり方ができた僕たちは幸せであると感じます。

終わらせることは始めることよりもずっと難しいものです。
正直に言えば、この終わらせることに対してめちゃめちゃエネルギーを使いました。
でも、今は終わらせることにコミットして本当に良かったと思っています。

たくさんの人と金とエネルギーを集めた挑戦を終わらせる決意には勇気がいるし、終わらせる過程では素直さと誠実さが問われます。
それでももし自分の真実から逃げていたずらに延命しているのだとしたら、自分の意志で終わらせることはとても大事な選択肢の一つだと思うのです。

法人は死んでも個人は死にません。
むしろ法人が集めたエネルギーを個人へと還元することが迷惑をかけた法人の最後の責務なのかもしれません。

始まりがあれば必ず終わりはあります。
この僕たちの終わりの体験が誰かの終わりに少しでも役に立てたら嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

法人に集まったエネルギーは再び個人へと還元されていく


撮影:本永創太

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