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アクアリウム23

力亜はニコニコしながら、知香子が座っていた席に着いた。

「あのさ、力亜。頼みがあるんだけど。」

「珍しいね。俺にできることなら、なんでも。」

「一緒に水族館行ってほしいんだけど。」

「時速60キロで?」

「いや、そっちがメインじゃなくて。
実はさ、物凄い美人に会ったんだ。水族館で。」

「ほぅ。どんな塩梅の。」

「儚げというか、華奢というか。繊細な美しさなんだ。
あの人はもしかして、人じゃないかもしれない。」

「何言ってるんだよ。」

「なんとなくね、もう一度水族館へ行ったら会える気がするんだ。
見たいだろ?絶世の美女を。」

「うーん。美女ねぇ。」

この手の話題に、すぐ食いつくはずだったのに
今日の力亜はなんだか、乗り気じゃない。どうしてだろう。

眠れない夜に考えた、彼女に近づく方法はこうだ。
力亜と二人で水族館へ行って
運良く、彼女に再会できたら、もうしめたものだ
誰とも垣根なく話しかけられる力亜の事だ
美しさに好奇心を刺激され、挨拶せずにはいられないはず。
僕は力亜が打ち解けたところで、彼女に話しかける
という寸法だ。

我ながら、酷い。親友を利用している気がして
なんだか自己嫌悪になるも。それでも やっぱり
彼女を知りたい。

それが今、力亜の逡巡によって崩れようとしている。
僕はあわてて拝み倒す形になった。

「頼むよ、力亜。一緒に行ってくれよ。一生のお願い。」

「裕ちゃんの一生のお願いをそんな所で使っていいの?」

「どうしてもね、その娘のことが知りたいんだよ。」

「うーん。」

「お願いだよ。ね、力亜。」

「仕方がないなぁ。裕ちゃんの頼みだからなぁ。」

「…ありがとう。」心から感謝した。

「デトマソパンテーラがいい?ランボルギーニカウンタックがいい?」

「何の話?」

「水族館へ行く車の話だよ。両方ともスーパーカーだよ。」
後で調べたら両方とも都内のマンションが軽く買える値段だった。
無免許なのに、そんな車を何台も所有している力亜の家庭環境は
おそらく想像を絶する裕福さなのであろう。

「バスで行こうよ。」

つまらなそうな、力亜を宥めるのに苦労したが
とにかく、僕の願いは受け入れられたわけだ。

知香子が戻ってきたので
また、賑やかになった。
僕は安心した表情で、天才 対 魔性を眺めていたに違いない

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