『祭り』

今年、中止になってしまいそうな祭りをどうにか決行しようとする貞男のお話です。

『祭り』

 雨の中、貞男が鳥居に下に立っていた。長い階段の下から数人の村人が見上げている。雨に濡れた鳥居の朱が美しかった。

「あいつ本気か?」
「バカなやつだ」

 村人は口々に貞男を悪く言った。しかし貞男から目を離せずにいた。

 貞男は祭りのために生きてきたような男だ。もうじき五十になるが、年を感じさせない身体付きをしている。

 今年の祭りは今日のはずだった。しかし連日台風やら地震やらが続き、村人はそれどころじゃなかった。ひと昔前なら、むしろ進んで祭りをやっただろうが、もう神を信じる時代ではない。祭りは遊びであり、災害続きの今、無理して祭りをやる必要はない。村の決議の末、今年の祭りは中止となった。

「また来年やればいい」
「1度途絶えたらダメなんだ。きっと変わってしまう」

 貞男だけは最後までそう言い張り、祭りの決行を主張した。そして最後には「ひとりでやる」と神社の宮司を説き伏せ、神を宿した榊の枝を持って、村を回ろうとしていた。

 雷が鳴った。神社からは宮司が、階段の下からは村人達が、貞男の出発を見守っていた。2度目の雷が鳴った。近かった。村人も宮司も爆音と光に目が眩んだ。鳥居から煙が上がっていた。雷が落ちたらしい。

 その鳥居の下で貞男はまだ立っていた。身体から湯気が昇っている。

「大丈夫か!?」と駆け寄る村人に応えず、貞男は黙って村を回り歩いた。誰の言葉にも耳を傾けなかった。村人はその貞男の後ろをついて歩いた。最初は数人だったのが、うわさを聞きつけ、神社に戻る頃には村人みんなが静かに歩いていた。

 貞男は聴力を失っていた。しかしこの後、祭りは途絶えることなく何十年と続いたという。

 《NO.167 お題:祭り》


あとがき――好きな行動食

極めてたわいもない話なんだけど、ここ数年で変化した自分の好みのひとつが山に行くときの行動食。

前はお菓子が好きだった。スニッカーズとか、その他のお菓子。個包装されたちょっとしたお菓子を山に行く前にコンビニで買うのが定番だった。

最近はそれが変わった。事前に買っておいたミックスナッツやレーズンをジップロックに入れて持っていくのが定番だ。

ナッツだけだと乾燥したものばかりで飽きるのだけど、レーズンを一緒に混ぜておくと適度に両方食べられて便利だ。

前は行動中にお菓子を食べ過ぎて、昼食時になんかバシッと空腹にならないことがよくあった。それもナッツとレーズンだとお腹いっぱいになるほど食べずに済むから、気持ちよく昼食を迎えられる。

なんか大人になったなぁ、と先日山に入ったときに思ったものだ。

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ケン

小説書いてます。『池内祥三文学奨励賞』受賞。世界旅を終え、作家活動中。ブログ『日刊ケネミック』→ http://kenemic.com | Amazon著者ページ→ http://amzn.to/1sh7d1f

原稿用紙1枚の物語

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