《原稿用紙1枚の物語》僕のセリフ

謙です。たったひとつの僕のセリフが……。

僕のセリフ

主役の子が舞台で笑ってる

——オススメの魚はなァに?

次の場面で、ぼくがいうはずだったセリフ。“通行人A” として、たったひとつのぼくのセリフ。

「ねぇ、この通行人Aのセリフ、ない方がスムーズじゃない?」

先週の練習中、クラスで人気の女子が言った。

「主役のセリフにスッと入った方が、映えると思う」
「……でも僕のセリフは?」
「いらないんじゃない? 言いたいの?」
「……いや」

毎年やってる文化祭。ぼくの初めてのセリフ。お母さんにも自慢した。

「見に行くからね」

昨晩、僕が好きなハンバーグを作ってくれたお母さん。たったひとつのセリフがなくなったとは言えなかった。

通行人Aのセリフを楽しみに、お母さんが最前列に座っている。

ぼくはこれから舞台に上がり、無言で、向こう側の舞台袖に消える。なにも言わない。その方が主役の子が映えるから……。

お母さんは首を傾げるだろう。

『わーーーー!!』

耳元で声が聞こえた。舞台上の主役の子も、舞台袖にいる他の子たちもぼくを見る。

僕は先生に羽交い締めにされて、外に連れ出された。叫び声は僕のだった。

舞台は僕なしで続いている。

——よかった。これで僕のセリフがなくなったことは誰にも分からない。


あとがき

今日のお題は『演劇』でした。

書きながら「形は違えど、こういう思いをしている人ってたくさんいるよな」と思いました。

自分だってこういう悲しさを味わったことあると思う。

他の人には大事に見えないものが、自分には凄く大切で、それを蔑ろにされる悲しさ。

あなたには思い当たることありますか?


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ケン

原稿用紙1枚の物語

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コメント2件

分かります。その悔しさをバネに、ブログやnoteをしてたりします。
体験したことないことなのに胃がきゅっとしました。
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