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McKinseyの提唱した"The Eight Essentials of Innovation"(1)

前回の記事の反応でも頂いたのですが、言うまでもなくオープンイノベーションはあくまでイノベーション戦略ひいては成長戦略の一部であり、目的ではなく一つの手段でしかありません。ですので今回はあえて広めにイノベーション全般に関わるトピックからオープンイノベーションの要素を抽出するということをやっていければと思います。

オープンイノベーションにおいては「プロジェクトをポートフォリオ管理することが必要です」とか「Aim Highしましょう」とか「法務とか管理部門の方の巻き込みやプロセスの整備が必要です」といったことが言われがちですが、細切れで何か手落ちになっている気がして腑に落ちない...という雰囲気を感じていたので、ここに一気にまとめたいと思います!

この領域において情報の鮮度は1-2年が限界だと思う中で2015年の情報を引っ張り出してきて恐縮なんですが、McKinseyが"The Eight Essentials of Innovation"という形でイノベーションに必要な要素をまとめてらっしゃるんですね。こちらをオープンイノベーションの目線から見てどう解釈できるかまとめることにチャレンジしたいと思います。以下、内容の翻訳ではないので可能でしたら先に元リンクの内容にかるーく目を通してからご覧ください。(原典の日本語訳を自分は見つけられていないのでもしあれば教えてください)

まず、イノベーションを起こすことはexecution/operationに優れた大企業にほど非常に難しいことです。ただそのような状況においても自己変革を推し進めてイノベーションを創出してきた企業は世界中に多々います。McKinseyのこのレポートではそんな企業の成功の要諦を詳らかにするために300社2,500人を超える経営者へインタビューした結果をまとめているそうです。その中で出てきたイノベーションに必要な8つの要素がこちら↓

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1つ1つにオープンイノベーションでの解釈を書き足していくとべらぼうに長い記事になりそうなので、自分の体力的にも数回に分けて書かさせていただきます!

1. Aspire

これはまさに前回の記事でまとめた内容なのでオープンイノベーション的な解釈はそちらを読んで頂ければと思いますが、John F. Kennedyのムーンショットのようにまず壮大な目標を打ち立てることが重要です。無謀とも思われる目標に真剣に取り組むことで非連続な成長を実現します。

このレポートによるとCEOの多くがインスパイアするような言葉を何度繰り返し伝えてもそれだけでは足りず、具体的なアクションに繋げるためにしっかりとイノベーションによる成長目標を中長期戦略として社内外に明示し、自社においてイノベーションがいかに重要であるか説明責任を果たす必要性を感じています。この目標設定ですが社やチームをしっかりと動かすためには「十分に大きい目標であること」が必要です。十分に目標が大きければ既存の低リスク施策だけでは足りないことは明らかなので、チームはイノベーションへのリソース投下を実行に移すことができます。

このレポートの中で触れられている事例としては北欧の農協であるLantmännenで、経営陣がフラットな成長カーブを危惧し、コアビジネスにおいて6%成長、新事業において2%成長を実現すると経営計画の中でフィナンシャルターゲットとして具体的に明示したケースが出てきます。この目標を達すべくチームは具体的なアクションを取り、結果としてそれまで4%にとどまっていたフラットな年間成長は13%にまで拡大し、新たなブランドも複数生み出されました。参考までに彼らのOur Innovation Effortsというかなり気合いの入ったページに実際この取り組みから生まれたブランドなども記載されているのでぜひご参照ください。

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前回の記事で触れた際には明示していませんでしたがここでいうAspire(=Aim High)は経営、部署、チーム、個人など様々なレイヤーで設定し多重構造になっている必要があるように感じています。全て揃っていればベストですが、どこかが歯抜けになっていたとしても諦めずWANTすることとそれを周囲にコミュニケーションすることは非常に重要です。

2. Choose

最先端の情報を収集することは非常に重要ですが、多くの企業がより悩んでいるのは「新しいアイデア・情報の不足」というよりもむしろ「どのアイデア・情報を有用と定義して選択し、次のステップに繋げるか」です。オープンイノベーションの観点からも同じで「スタートアップとの協業は百発百中はありえないのでリスク許容度に応じてプロジェクトをポートフォリオ管理しましょう」ということを推奨しているのですが、McKinseyさんズバッと「イノベーションは本質的に不確実なものであり高リスク。重要なのはそのイニシアティブをポートフォリオとしてリスク排除するのではなくリスクマネージしながら管理することである」と仰ってます。言いっぷりがかっこよくて痺れますね...

イノベーションはいつどこで形になるか予測不可能であり、全てをカバーすることは現実問題不可能です。なので市場分析などを通じて探索領域を各社設定し、キーワードに一定のプライオリティをつけそこにリソースを投下しますが、レポート曰く、企業はここで実際に予算をつけ実働に持っていける以上のプロジェクトを興す必要があると言います。そこから可能性の低いものを切っていく方式です。例として英国RELXグループは主要顧客セグメントにごとに$200,000ほどの予算を10-15件ほどの実験プロジェクトに毎年投下しているそうでその内、実際に次ステップのための予算投下に進めるのは1-2件ほどとのこと。かなり絞ってますね。打率という意味でいうとかなり低いです。

上記の例はあくまでもイノベーション全体の話であり、スタートアップ連携などのオープンイノベーション文脈においては1) リレーションマネジメントと2) プロジェクトポートフォリオマネジメントの2つのレイヤーでリスクマネージすることが重要だと感じます。

1) オープンイノベーション活動を進めていけばいくほど、外部企業と会えば会うほど情報は溢れていきます。いかにこの関係のパイプラインの線を正確に把握・管理できるか、新たな課題・技術ニーズが高まった際に瞬発的に開けられる引き出しがどれだけあるか、取り組む際にどれぐらいのリスクとリターンが見込める関係性かを把握しておくことは非常に重要なポイントに感じます。「弱いつながりの強さ」がオープンイノベーションには大切だとよく言われますが、これを個人の記憶を頼りに管理するのではなく、組織として体系化するためのCRMも絡めた管理体制の構築が重要です。

2) プロジェクトポートフォリオにおいてはPoC実施を単発単発の案件として判断すると「失敗の可能性が高すぎる」ということで却下されがちなのですが、ここで大切なのは全体の取り組みとしてリスクマネージすることです。この捉え方って意外と軸がずれがちだと思うのですが「単発単発の案件の成功打率を上げる」という成功打率思考(=どうやって進めるか/HOW)ではなく、「社全体プロジェクトとして期待するリターンをどう得るか」という最終成果思考(=WHY&WHAT)の目線で見ることが重要だと考えています。この詳細については読者の皆様興味あればぜひ別記事でも触れたいと思います。

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ここまで読み返してみて、上述のことはなんとなく把握したんだけどじゃあ具体的なアクションとしてはどうすればいいの的なところに全然触れれておりませんので(汗)そちらについてはまた別途書きます。今日はかなり分量が多くなってしまったので一旦ここで一服。全部やると4回シリーズぐらいになりそうで思ったより超大作になる予感が!!!

また第2回の記事も近々公開する予定ですので気になる方いらっしゃればぜひフォローをお願いしますー!皆様の反応が励みになります!

中井 健太


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