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【Designship2018】ロンドン歴18年の日本人が学んだ 欧米のデジタルデザイン

2018 12/1、2の二日間、東京ミッドタウン日比谷で開催されたデザインカンファレンス「Designship」でお話しした内容をまとめました。

こんにちは、難波です。
「ロンドン歴18年の日本人が学んだ欧米のデジタルデザイン」をテーマに、日本のデジタルデザイナー、デザインマネジャー、またはデザイン・IT会社の経営者の方々を対象にお話したいと思います。

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サクッと経歴を。
そもそも自分がイギリスに渡ったキッカケは、小学校から没頭していた野球が終わった高校3年の夏にもらった親のふたことだった。
「将来やりたい仕事はあるのか?」
「無いならアメリカにでも行ってこい」
アメリカは銃が危ないということで、結果イギリスに。英と米の違いがわからない自分には特にこだわりはなかった。

当時はインターネットも無く、神奈川の田舎で育った僕らには学校の図書館で手に入る程度の情報しか身近になかった。なので、洋画と英語が好きだった息子を海外に送ればなにか見つけてくるだろうという親の期待と共に、単身でイギリスへ渡った。偶然、通っていた語学学校の先生が僕が小さいとき絵を描くのが好きだったことを知って、デザイン学科長を紹介してくれたのがデザイナー人生の始まりだった。

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デザイン学科卒業後、ロンドンでグラフィックデザイナーとして就職し、2年ほど紙媒体の仕事をこなした後、すでに盛り上がっていたweb業界に苦戦しながらもなんとか潜りこんだ。Flash全盛期に「つくる」マッスルを鍛え、後ほどリードとして「仕切る」ポジションでものづくりをしていた。同時に、デザインマネジャーとしてチームを拡大、運営、育成を担った。

AKQAをご存知ない人は少ないと思うが、フリーランスADとしてナイキサッカーのプロジェクトチームにジョインした。一方、Collectiveは30人程度の会社で、元AKQAのクリエイター数人が独立して立ち上げたブティックエージェンシー。そこのデザインチームを統括するポジションを2年ほど担った。そして、Digitasはボストン発祥の米国会社で世界中にオフィスを構えている。そのうちのロンドンオフィスで同じくデザインチームのマネジャーとして採用され、2人から16人チームまで拡大した。そしてそれがロンドン最後の仕事となった。

そして今年2018年の春にグッドパッチさんから声がかかり、「デザインの力を証明する」というビジョンに共感し、デザイン組織の事業強化に向けてアドバイザリー兼CDとして共に歩んでいる。

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そして、この様な企業のグラフィック・ブランディング・インタラクティブデザインワークに携わってきた。

その中からふたつほどピックアップして軽くご紹介。

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ひとつめが、英国ホンダの自動車サイトのリニューアルプロジェクト。各車種の個性を活かしつつ、ホンダブランドのイメージを一新することを目的とした大規模デジタル案件。クリエイティブディレクターとしてブランド戦略からコンテンツ企画、設計、デザイン、実装まで、多種多様なクリエイターを統括し、約1年かけて完成し2009年にリリース。翌年、複数のデザイン賞を受賞。
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そしてふたつめが、ASUS&Intelのブランドキャンペーン。ASUSの新ノートパソコン「N シリーズ」のリリースを機に、ブランドスローガンを世界16ヶ国に展開したグローバルプロジェクト。世界中から Incredible なストーリーを集め、発信していくwebプラットフォーム。
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まず、これが自分が今日このステージに立っている理由であり、個人的に掲げているミッションである。
運にも恵まれ、海外で積むことができた経験・体験を何かしらの形で活かしたいというおもいと、これから業界を引っ張っていく多くの若いデザイナー達の背中を押す存在でありたいから。

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そしてこれを実現するにはひとりのミクロのちからでは限界があるので、同じミッションを掲げている組織と組んでやっていくこと。

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では、デザイナーの役割とは何か?

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とよく思われがちだけど、デザイナーの本来の役割は:

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ことだと自分は考える。

だがしかし、日本のデジタル業界を見ていると:

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一方、欧米では:

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なぜこれができるかというと、企業側の人たちが、マス広告デジタルチャネルの役割をしっかり見分けているから。

例えば、英国カーメーカージャガーの新車ローンチプロジェクト:

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当時ジャガーの社長であったBibiana Boerioと、次期社長Mike O'Driscollに自分が対面でプレゼンする機会があった。web案件に大手企業のトップが踏み込んでくる理由は、広告キャンペーンのデジタル版ではなく、デジタル独自のアイデアを求められているからである。マスにどれだけ寄せるか離すかは我々の提案次第であり、広告代理店との連携にもよる。

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ここで、日本と欧米の違いについていくつか。
まずひとつめは、デジタルデザイナーのキャリアパスについて。日本で働き始めてすごく違和感を感じたのが、組織構造の中のデザイナーの位置付けだった。

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デザイナーのキャリアパスになぜかディレクターというゼネラリスト職がひとつ上のレイヤーに置かれている。このディレクターの役割は組織によって多少異なるが、デザイン経験が無い人でもデザイナーをディレクションし、デザイナーより上流で動く存在である。クライアント・プロジェクトマネジメントなども担い、幅広い役割を持つ職である。
そしてさらに上に行くとユニットを統括するマネジャーがいる。この人は担当ユニットの売上げ目標を持ち、職種問わずユニットメンバーのマネジメントを託される。
このキャリアパスに不満を抱くデザイナーの声を、よく耳にする。

一方で、欧米のデジタルや広告業界の組織構造は、職能別体制であることが一般的である。

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デザイナーにとってこの構造の主なメリットは、クリエイターとしてキャリアアップできること。デザイナーがデザインワークの品質担保をし、デザイナーがデザイナーを育て、デザイナーが組織の上層に立てる。要するにデザイナーがつくることに専念できるという仕組みである。

そしてクライアントマネジメントと売上責任はアカウントチームに委ねられ、プロジェクトマネジメントはプロダクションチームに。それぞれ職能別パスでキャリアアップできるように設計されている。

この他にもエンジニアチームはもちろん、ストラテジストやコピーライターなどスペシャリティーチームも並行して存在する。

ちなみに「キャリア」の意味を調べてみると:

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つまり、向上できる可能性をもたない職業はキャリアと呼べないということ。

ふたつめの違いは:

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日本では、デジタルブランドが接することが少ないことにも違和感を感じている。

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一方、欧米ではこのふたつは切っても切り離せない関係であり、ブランドは常にど真ん中に存在する。ブランドを意識せずにものづくりすることはありえない。サイトをデザインする際にも、ブランドの本質に目を向けずにつくられたものはただの情報設計でしかない。

そこで、Digitas時代にイギリスオリンピック委員会の仕事をしていた時の失敗エピソードをひとつ。

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自信持って提案したサイトデザインが「空っぽだ!」と、オリンピック委員会のCMOにひっくり返された。そこで言われたのが、「戦略もコンセプトも無い、ただそれっぽいデザイン。そんなものいらんから手書きで良いからアイデアを持ってこい!」と。

ゼロに戻り必死にアイデアを出し、数日後の再プレゼンにはデザインではなく、白紙のスケッチパッドとペンだけを持っていき、CMOの前でストーリーを描きながらコンセプトを一歩一歩丁寧に説明した。

それが形になったものがこちら。

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その時はデザイナーとして本当に恥ずかしい経験をしたが、今となってはとてもありがたい教訓であった。
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そして3つめの違いが:

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デジタルを越えたブランドエクスペリエンス。

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👆こちらのさっきの図を更に広げると:

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デジタル案件とは言え、ユーザーとのタッチポイントはデジタル領域を越えて良い。むしろ越えるべき。

AKQAで受けたナイキ案件、世界のトッププロサッカープレイヤーが作り上げたトレーニングプログラムを提供する「Nike Football+」。
価値あるコンテンツをつくり、ウェブサイトとアプリを通してユーザーとつながり、ロングランでブランドと商品へ引き寄せた。

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他にも、Digitas時代に受注したスナックバースニッカーズのデジタル案件では、そもそもwebバナーをつくってほしいという依頼であったが、我々は「世界一長いサッカーゲーム」というコンセプトを提案した。一般選考でベストプレイヤーを集め、サッカーイベントを開催し、結果42時間05分でギネス世界記録を達成した。二日間にわたるネットライブ中継を通して拡散し、イベント終了後もメディアに取り上げられ、1000万人リーチを遂げた。

デジタルは何かしらのタッチポイントとして活用されるのは言うまでもなく、広告目的のウェブサイトやバナーだけつくっても本質的な解決策にならないという証である。

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というわけで、日本のデジタルデザインの価値を証明するために、まず我々デザイナーがやれること。

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❶ 今このUXの時代、ものをつくる上でユーザー思考になりすぎている傾向がある。モノが飽和している時代であるからこそユーザーファーストだけでは差別化できず、もっとブランドの本質的な価値を伝えていくことも大事
❷ バトンタッチではなく、デザイナーも上流から関わることによってデザイナー視点でのアイデアも抽出できる。また、制作に落とし込む際に起こりがちな認識のズレなど無駄なロス防止にもなる
❸ 提案は確実にクライアントに削られるので、そもそもデカくいく!
❹ デザイナーが前に出て企画を語れる様にならないと現状は変わらない。欧米と違って、特に日本では前提としてデザインの価値をクライアントにきちんと伝えなくてはならないケースが多いので、その一番の適任はデザイナー自身である。クライアントはデザイナーの生の声を聞きたいし、議論しながら形にしていきたい人も多くいる。

次に、デザインマネジャー・デザイン会社ができること

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❶ 先ほどにもあったように、職能別パスをつくることによって品質の向上やメンバーの成長を促す
❷ 各々が持つ得意スキルを伸ばしつつ、他分野の知識を広げる。いわゆる、T型人材を育てること。その人の専門性を活かしてプロジェクトアサインすることも大事。T型人材が広い領域で増えれば増えるほど全体のレベルが上がる。
❸ 考える機会を与え、デザイナーの持つ思考を最大限にアウトプット化する
❹ パスを作っても指揮者がいないと成り立たない。そもそもデジタル業界にADが少ない、と言うか、今のところひとりも会ったことがない

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そしてこれらを実行していくことによって、「デザイナーのキャリア」「業界全体のデザインクオリティ」そして「デザインの価値」の3つがアップすると自分は考える。

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最後にまとめると、
この現状を少しでも変えるには、他ではなく、我々デザイナーたちが変えていくしかない

もっとクリエイティブで、もっと自分の持つパワーを発揮できて、毎日吐きそうなくらい楽しいデザイナーというキャリアの土台を、みんなでつくっていけたらと最高だと思う。

長くなりましたが、最後まで読んでいただいてありがとうございました。もし何かデザイナーとしてのキャリアなどについてお話したい方がいたら、お気軽に一報ください。

それでは、今年も更に盛り上げていきましょう 🌅

@kentanamba

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