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チャマ活動再開で見えたバンプの覚悟

2020年9月から9カ月間に渡って活動を休止していたBUMP OF CHICKENの直井由文氏(以下「チャマ」)が、復帰して活動を再開するという。まずは、純粋に活動再開できてよかったね、という気持ち。

不祥事とメンバーの活動休止という難局にありつつも、僕が一貫して感じてきたのは、バンドのフロントマンである藤原基央氏(以下「藤くん」)の覚悟だ。

復帰のタイミングに早いも遅いもない

2020年9月18日付の文春オンラインにて、チャマの不倫報道が明るみに出た。これを受けて、メンバーとスタッフからチャマに対して活動休止を提示し、本人がこれを受け入れたと公式にアナウンスされた。
バンド結成25周年の記念日にあたる2021年2月11日に発表された「Flare」と、同年5月18日に配信を開始した「なないろ」は、藤くんがベースを担当し、レコーディングは3人で行われた。

復帰のタイミングをどうするかというのは、メンバーやスタッフが本人との話し合いを通じて決めればよいことで、リスナーを含めた周囲が許すも許さないもない。
ただ、非難ということではなく率直に、僕が予想していたタイミングよりは早かった。

この一件でチャマが活動を休止する発表がなされた時点で、再開するとしたら2年くらいかかりそうだなというのが僕の勝手な見立てだった。というのも、バンドの作詞作曲を手掛けているボーカルの藤原基央氏(以下「藤くん」)が、たしか彼らがパーソナリティを務めるラジオ番組「ポンツカ」で、「どんなにカッコ悪くても、どんなツラ下げてでも、みんなに会いに行かなきゃいけない」という意味のことを話していたからだ。
この発言は、メンバーを1名欠いた3名でライブをやって、いつもと違う「カッコ悪い」姿を観客の目に晒すことを意味するものと考えていた。

具体的な時間軸でみると、前回のツアーが2019年。不倫報道が2020年。翌2021年は記念すべきバンド結成25周年。ここでツアーか何かの記念ライブが組まれるものの、演奏は3名で行われ、その後に復帰というシナリオなのかなと見ていた。
今のタイミングで復帰すると、2021年2月27日に音楽番組「SONGS」へ3名で出演したことを除けば、チャマの休止中は一度もライブがなかったことになる。リスナーからすると、2019年の「Aurora Ark」ツアー後、次のライブで彼らに出会ったときに、編成上は何の変わりもなかったようにしか見えない。
もちろん、感染症の広がりで中止になった企画やイベントもあっただろうし、開けなかったライブもあっただろうから、一概に言えない部分はあるものの、この整合が取れていない感じには、多少の引っ掛かりがある。カッコ悪くてもいいから、その姿をおれたちに見せに来てくれよって思う。

「Flare」と「なないろ」 という3人で制作した楽曲を発表することで、自分たちの今の姿をリスナーに見せたということにするのは、僕の目から見ると、ちょっと綺麗すぎるというのが正直なところ。

ただ、先に書いた通り、復帰のタイミングは1リスナーがとやかく言う問題ではないし、9カ月が長いも短いもない。メンバーの間で変な空気が流れていなければいいなと願うばかりだ。(ただし、この考えは、復帰を伝えるラジオを聞いたら単なる杞憂と分かった。)

スキャンダルをどこまで問題視すべきか

個人的には、女性問題のトラブルは当然に推奨されるものではないものの、基本的には当事者(本人と女性、家族)間の問題であって、殊更に取り上げてゴシップ的に扱ったり、第三者が怒ったり謝罪を要求したりといった行為は筋違いだと思っている。

ところが、これまでの活動と幼馴染の4人組による成功という奇跡のストーリー、そして弱さを受け入れ包み込む歌詞を持つ普遍的な楽曲によって、リスナーは彼らの日常生活に対してすら、仙人のような純粋さを求めるようになってしまった。
それがこの問題をより厄介にし、不倫という汚らわしさとのイメージのギャップにより、彼らの音楽まで素直に聴けなくなってしまったという声の大きさに繋がっていったのではないか。

僕自身は、今までのところ彼らの音楽への抵抗感は全く持っておらず、過去にリリースされた音楽も大好きなまま、2021年になってリリースされた「Flare」も「なないろ」も聴き続けている。今後のライブでチャマの姿を見たときに自分がどう思うか、どう感じるかは未知ではあるけれども。
本当は、これらの楽曲の素晴らしさについてもっと触れて伝えたいし、本来そこにこそ僕は文字数を割くべきと思っている。

輝くシリウスが3つの星を従えている

BUMP OF CHICKENという4人組のバンドは、「赤い星並べてどこまでも行くんだ」という「リボン」の歌詞に象徴される通り、4つの星に例えられることがある。
ただ、実際の姿は、単なる4連星とは異なる配置をしていると思う。
藤原基央というひときわ明るい星があって、そのシリウスが3つの星を従えている並びというのがより正確なところではないだろうか。(従えているという言い回しが正しくない感覚があるのと、バンドのメンバーからもリスナーからも怒られそうではあるけれども。)

2020年11月号の「ROCKIN’ ON JAPAN」のインタビューは、例の報道が出る前に行われたもので、掲載された写真も4人組のものが使われていた。ところが、その後の新曲が出た際のインタビューでは、2021年3月号「MUSICA」、4月号及び7月号「ROCKIN’ ON JAPAN」のいずれも、写真も語りも藤くん1人だけで、チャマどころか、升秀夫氏(以下「秀ちゃん」)も増川弘明氏(以下「ヒロくん」)も登場していない。
実のところ、藤くんが作る楽曲とその背景について本当に語れるのは藤くんだけで、少なくとも僕はどこまでも藤くんが生み出すものたちを見ている。その音楽が、その歌詞がどのように生まれ、育ち、僕らの手元に届けられているのか。藤くんが何を見て、どう感じ、いかに行動してその楽曲が生まれてきたのか。
それらの言葉の中に、音楽に対するひたむきで真摯な姿勢と、BUMP OF CHICKENとして生きていく強い決意を感じ、共感しているのだ。

チャマ復帰のポンツカで流れた楽曲から見える強い意思

活動休止中に、藤くんからチャマに繰り返し連絡があったという。詳細は本人たちにしか分からないものの、前後の文脈から察するに、憔悴し復帰への行動を躊躇うチャマに対し、彼を支え、再起を促すものであったことは恐らく間違いない。

復帰に際して、チャマが2021年6月7日の「ポンツカ」で話した。僕は、ここで話された内容そのものよりも、同じ場にいて鼻を啜るメンバーの息遣いに彼らの気持ちの強さを感じたし、その後に流れた選曲に藤くんの覚悟と鉄の意思を感じて、胸が熱くなった。
流れたのは、「メーデー」、「ギルド」、「ファイター」の3曲。

たとえば、「メーデー」で語られる歌詞の一部はこうだ。

君が沈めた君を
見つけるまで潜るつもりさ
苦しさと比例して 僕らは近付ける
再び呼吸をする時は 君と一緒に

一度心覗いたら
君が隠した痛み
ひとつ残らず知ってしまうよ
傷付ける代わりに
同じだけ傷付こう

一度手を繋いだら
離さないまま外まで
連れていくよ 信じていいよ

また、「ファイター」ではこう歌われる。

ここにいるためだけに
命の全部が叫んでいる
涙でできた思いが
この呼吸を繋ぐ力になる

決して、メンバー一人を置いていくことはしないし、切り捨てることはない。それが藤くんでありバンドの意思。たとえ過ちがあったとしても、だからといってその後の人生すべてがNGではない。
「君が沈めた君を見つけるまで潜る」と言い、「一度手を繋いだら話さないまま外まで連れていくよ 信じていいよ」と重ねて言う。
このタイミングでこの楽曲。
このバンドのリスナーでよかったと心から思った瞬間。彼らの活動をこれからも追っていくし、聴いていく。

(2021/6/20 追記)
後日、2021年6月15日発売の「MUSICA」7月号で、チャマ復帰に際して藤くんのインタビューを読んだ。それについて思ったことを別記事で書くことは現時点では予定していないので、少しだけここに追記。

復帰したからには、チャマはもう誰にもどこにも遠慮せずに活動してほしい。もし次のライブを観たときに、チャマが一歩引いた立ち位置でリスナーに対して遠慮気味に振る舞っていたとしたら、すごく幻滅すると思う。
チャマを含めた4人は、どこまでもBUMP OF CHICKENであってほしい。
時系列的には、「なないろ」は報道が出る前に書かれた曲とのことだけれど、歌詞が持つ世界観はチャマのことを含めた彼ら自身に向けているようにさえ思える。
彼らが生んだ彼らの楽曲で、どうか彼ら自身が前に進む足掛かりとしてほしいと、おこがましくも願っている。

「なないろ」とインタビュー記事の感想は次の記事をどうぞ。


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