kentarotakahashi

文筆家/音楽制作者 OTOTOYプロデューサー レーベル&スタジオ Memory Lab主宰 NPO APAST理事 評論集に「ポップミュージックのゆくえ〜音楽の未来に蘇るもの」http://tinyurl.com/2g72u5e

マイ・フューネラレル・ミックス3

全員の焼香が終わって、聖苑の職員が「お別れの時」を宣言した。あずみとまだハタチそこそこの息子の文陽(ふみはる)の手によって、棺の中に沢山の花束とレコードバッグが入れられた。蓋を閉めた棺は火葬炉の中に入っていく。火葬には約二時間がかかる。その間に参列者には会館の上にある部屋で食事が振るまわれる。食事の間、昨夜と同じように「マイ・フューネラル・ミックス」がプレイされた。ただし、今日はごく小さな音量で。

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マイ・フューネラレル・ミックス2

ザ・ロフトに通い詰めながら、礼文は恐ろしい勢いでレコードを買い始めた。ザ・ロフトでプレイされるようなダンス・ミュージックをすべてコレクションしようと。
 さらに同じ頃、礼文はさらにフランスから移り住んできたフランソワ・ケヴォーキアンという男と出会う。フランソワはドラマーとして成功するべく、ニューヨークにやってきたのだが、ダンス・ミュージックの胎動に触れて、DJへと転身した。ドラマーとして培った精

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マイ・フューネラル・ミックス

その棺桶は最近、流行しているコラボ・コフィンだった。棺桶そのものはイギリスのエコ・コフィン社がデザインしたものだ。
 棺桶の側面には空に向けて細い茎を伸ばしていく植物のイラストレーションがぐるりと描かれている。蓋の部分には円盤を組み合わせた幾何学模様が。このデコレーションを施したのはイラストレーターのアルフォンソ北岡。こうしたアーティストとのコラボレーション棺桶を生前にオーダーしておく人々も増え

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ハース・マルチネスの『ハース・フロム・アース』 ~ Hirth From Earth - Hirth Martinez

2015年10月6日、ハース・マルチネスが死去した。あの名盤『ハース・フロム・アース』のハース…と書けば、一定数の人には話が通ずるはずである。1975年にロビー・ロバートソンのプロデュースで、ワーナーから発売されたそのアルバムは、こと日本では伝説的な名盤として語り伝えられきた。1992年にCDリイシューされた後は、いわゆる渋谷系のミュージシャンに少なからぬ影響を与えてもいる。その人気を受けて、19

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高橋悠治『エリック・サティ 新ピアノ作品集』

昨年、発表した小説『ヘッドフォン・ガール』の読者から、こんな不満を寄せられたことがある。主人公が聴いているエリック・サティがパスカル・ロジェのCDだったのが通俗的で、残念だったというのだ。通俗的というのは確かにその通り。だが、主人公が聴いているサティは物語の進行とともに演奏者が変わっていく。最初に登場するのが90年代にポピュラーだったパスカル・ロジェで、それは時代背景と合せて、入門用になりやすいC

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コカコーラの泡

コカコーラの泡の中にティーンエイジ・ドリームを見る時代は、二十世紀とともに終わりを告げた。新世紀の始まりに人類は新しい悪玉を見つけ出した。二酸化炭素という奴だ。

 大気中の二酸化炭素濃度を徐々に押しあげてきたのは、毎日毎日、炭素を燃やし過ぎている人類自身に他ならなかったが、そんなことはこの際、どうでも良かった。
 分かりやすい悪玉を見つけ出して、指差すこと。重要なのはそこだ。たいていは小学校のク

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