暴力的な映画は、犯罪を誘発するのか?

このnoteは、『誰もが嘘をついている ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性』という本を読んだ感想です。

第1回:「ビッグデータ」って、なんで注目されてるの?
第2回:100年前の卒業アルバムの写真が、真顔な理由
第3回:インターネットは、本当に人々を分断したのだろうか?
第4回:ひとはいつ、政治的価値観を形成するの?

今日のテーマは、「模倣」です。


暴力的な映画は、犯罪を誘発するのか?

未成年への犯罪などがニュースになると、よく「そのひとはとあるアニメ(もしくはマンガ)が大好きで、それを真似した可能性があるから、その作品を規制しろ!」なんて議論が起こりますよね。

それに対して、規制反対派は「そんな極一例を取り出して、わけわからん規制をするな!」などの反論をするわけですが......

本当にひとびとは、「フィクションから影響を受けて、現実世界の行動に影響する」ことはあるのでしょうか?

本中では、「暴力映画」を題材に、その研究が行われました。


心理学の分野では、昔から似たような状況での研究が行われている

ぼく、いま大学では社会心理学を勉強してるんですが、授業で似たような状況の実験を紹介されたことはあります。

バンデューラというカナダ人の心理学者が行った研究なんですが、まず子供たちを「実験群」「対照群」の2つのグループに分けます。

「実験群」の子供たちには、おもちゃの部屋で1人の大人が風船のように膨らませた「ボボ人形」に乱暴しているのを見せます。

「対照群」の子供たちには、普通に大人が遊んでいるのを見せます。

その後、各グループの子供たちを1人ずつおもちゃの部屋の中に入れ、その様子をフィルムで撮影します。

結果、「実験群」の子供たちは、「対照群」の子供たちに比べて目に見えて攻撃的でした。

この実験から、子供は明らかな強化を与えなくても、モデルの行動を自発的に模倣することが分かりました。

ウィキペディアより)

この実験は、人間全般というより「子供の学習」に焦点をあてたものなので、この結果をそのまま全員に当てはめるのは難しいのですが、少なくとも子供にはそういった「模倣」の要素が多分にあるとは言えそうです。


映画と犯罪のビッグデータから、謎を解き明かす

冒頭でぼくが紹介した本は、ビッグデータを活用して世の中の本性を暴き出していこうという趣旨のものです。

今回の例では「映画」と「犯罪」のビッグデータとにらめっこしながら、ことの真相を探ります。

エコノミストのゴードンとステファノは、1995年から2004年までの3つのビッグデータセットを用いました。

①FBIの毎時間別犯罪データ
②興行収入データ
③キッズ・イン・マインド・ドットコム(米国の映画情報サイト)上の全映画内の暴力の度合い

つまり、米国の全都市の分ごとの全犯罪と、公開されたすべての映画のデータということです。

彼らが特に注目したのは、「暴力的な映画がヒットした週末」「非暴力的な映画が当たった週末」があることでした。

そこで彼らは、前者と後者のタイミングで起きた殺人、レイプ、傷害事件の数をそれぞれ比較しました。

結果は、人気のある暴力映画が公開された週末には、実際にはなんと犯罪は減っていたのです!

よし!フィクションと現実世界の犯罪は、やっぱり関係なかったんだな!と結論づけるのは、まだ早計です。

ここからさらに細かい分析ができるのが、ビッグデータの強みです。


なぜ人気のある暴力映画が公開されると、犯罪が減るのか?

彼らは、映画が公開された週末の、時間ごとの犯罪発生の推移を調べました。

その結果、暴力的なヒット映画の公開中に、犯罪が他の週末よりも減り始めるのは、夕方からであることが判明しました。

つまり、暴力シーンが始まる前である、観客が映画館に足を踏み入れたタイミングから、犯罪は減っていたのです。

増えるどころか「減る」というのは、なんとなく直感に反します。

ここで彼らは、新しい仮説を立てます。

「現実で犯罪を起こすのは、映画館とは違う場所なのだから、人気の暴力映画が公開されたタイミングと、現実で犯罪が増加するタイミングには、ズレが生じるのではないか」というものです。

しかし、この仮説もうまくハマりませんでした。

犯罪率低下は上映時間とともに始まりますが、上映が終了したあとも、翌朝6時ごろまで犯罪は減ったままなのでした。

もし彼らの仮説が正しければ、映画が終わって攻撃的な気持ちになっているひとたちが、夜中や朝方に犯罪を起こすはずです。しかし、そういうわけでもなさそう.....


「暴力映画」と「犯罪」の関係を、直接的に示すのは難しい

そこで彼らは、違う角度からの考察を始めます。

目をつけたのは、「アルコール」でした。

米国では、ほぼどこの映画館でもアルコールを提供していません。

実際、暴力絡みの犯罪が、暴力映画公開週末の深夜に激減することも確認されたそうです。

ただ、本研究で明らかにできた結果は、ここまででした。

より長期的に研究すれば、なんらかの関係性を見いだせた可能性もあります。

しかし、今回の研究自体の目的が「暴力映画と犯罪の直接的な関係性」についてだったので、そういう意味では「直接的な」関係性はありませんでした。

冒頭で紹介したバンデューラの実験のように、暴力映画を見ることによって、攻撃的な気持ちになるひとも、もしかしたらいるかもしれません。

しかし、それ以上に、直接的に人間を犯罪へと導くのは、「アルコール」だろうと、本中では締めくくられています。


ここまで細かやかに調べられるのが、ビッグデータ研究の強みのひとつ

この感想連載の第1回『「ビッグデータ」って、なんで注目されてるの?』でも書きましたが、ビッグデータの特徴のひとつは、名前の通り、その圧倒的なデータ量です。

世の中はとても複雑です。

だから、状況に応じた細かい分析を行うことが必要です。

ビッグデータであれば、それができます。

結果自体はすこし歯切れの悪いものになってしまいましたが、今回も「映画の公開時間」と「犯罪の発生時間」を分単位で分析することによって、世の中の真相に少しでも近付こうとしました。

こういった事例を、note中であと1~2個くらい紹介していきます!



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最後まで読んでくれて、ありがとうございます! いま、世の中には1ゼタバイト以上の情報が溢れているらしいです。ちなみに、1ゼタバイトは「世界中の砂の数」に匹敵します。 そんな中からぼくのnoteを見つけてくれたって、もうこれは運命以外のなにものでもないぜ?!?!

表現者に最も必要な力は「再起する足腰」だ!
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