自己紹介

[おまえはだれだ?] 自己紹介いたします vol.3

 中学・高校とある種のアンダーカルチャーで育つ中でも、やはり学生。色恋沙汰がないわけじゃない。
 僕がはじめて(初恋とか曖昧な線じゃなく記憶に残るという意味で)大きな恋をしたのは、高校2年の時だった。ハッキリとしたはじまりは、単純なひと目惚れ。これが運命なのかというほどのインパクトだった。すぐに「好き」という感情が湧き出るのは、これが初めてだった。
 でも、この「好き」がこれほどまでに、自分を高揚させ、そしてジェットコースターに乗った時のような、下半身をすぼめさせるような苦しさが伴うとは思いもしなかった。それが若さゆえというのは、大人になってからである。でも、それが実ることはなく、むしろ仲の良かった友人と彼女がつきあうことになるのは、ほどなくしてである。
 別段、ドラマチックな成り行きもなく、ごくありきたりな結末であるにも関わらず、未だにこうやって思い返せることができるのは、人を好きになることの人間的な美しさなのだろうと、今は思う。
 そこから、高校・大学と時は経ち、社会人になるまで、いくつかの恋をしたが、やはり最初のイメージは良くも悪くも印象が深いのである。
20歳前後になると、文学にも大いに興味を傾け、三島由紀夫や安部公房などを読み漁り、さらに自分の中の中二病的な女性観を蓄積していくが、体と心は自然と大人になってゆく。そして、20歳の時に出会った女性が今の伴侶となるのはもっと先だが、いつしか、子どものような心は、僕のどこかの引き出しに追いやり、こうやって知らぬ間に40歳を目前としている。

就職氷河期の人間が最底辺なのか
 大学を卒業したのは2002年。のちの世間は、「失われた世代(ロストジェネレーション)」などと一括りにするが、あの頃は、就職が人生の目標ではなかった。就職課も特段就職を勧めてはこなかったし、就職したければ手伝うよくらいのゆるやかな態度だった。僕自身は、少し就職活動をしたけれど、就職のはじまりがOB訪問だったり、結局は自分の力のなさ(やる気のなさ)から、コネにすがる方針となり、OB訪問を主軸にして、試験や面接の対策をするが、働きはじめることがこうも人の力に左右されるのか……という思いになり、諦めることにした。フリーターの身で卒業することになったが、ひとりで何にも頼ることなく生きることには、そこまで不安はなかった。親元から離れ、一人で暮らすことを決め、あまり連絡を取らなくなった。
 「人は、今の状況より悪くなることをおそれると同時に、よくなることにもおそれる」なんて言った人がいたが、あの頃は、これ以上悪くなることはなかったから、なんでもやっていいという思いがあった。
 出版社の倉庫でアルバイトをしながら、ボロくて安い一軒家に暮らす。そんな日々を側から見たら、最底辺の生活と思われるだろう。本を読み、紙にまみれた1日は、案外楽しかった。バイトが終われば、どこかのライブハウスにライブを観に行ったり、古本屋を巡ったり、女の子と食事に行ったり、それなりの生活ができた。そして、2〜3カ月休みをとって海外にも行った。
 もちろん年金や税金なんて言葉を知らぬ存ぜぬであるため、今になって後悔することはそれなりにあるが……。とにかく、僕の人生の中で、この数年間は一番思うように生きた時間であったことに間違いない。就職できなくて残念ねとか、いい仕事が見つかるといいねとか、他人には言われたけれど、それになんの意味があるのか、正直どうでもよかった。
 仕事と時間と拘束は、社会の枠にいる限り他者によって決められ、自分で決断できることは最悪を回避することだけだと思う。そこから排除された僕たちは、その枠外で後先を考えずに生きていた。むしろ考えたら生きてゆけなかったかもしれない。だけど、これを最底辺であると思ったことはない(もちろん苦労はあったけれど)。でも、そこから多くの経験を経て、今は普通に働いて生きることを選択している。仕事の苦労より、生きる苦労は、なんとなく誇らしくも思える(これは個人的な感想)。
 その選択には、誰かのためということが加わったことだからだろう。結婚するため、子どもを育てるため、親のためなどいくつかの理由がそうさせる。でも、根本はあの頃と変わらない気がする。
 2019年に、「就職氷河期世代支援プログラム」なるものが発足した。僕もそれに含まれるのかと思うと、なんとも言えない気持ちになる(実質的に僕にその資格はないのだが)。選択は、誰にでも訪れる。自分の選択が結果的に今に連鎖しているのであるなあらば、自分をほめてあげたいが、選択を放棄していたのならば、やはりこの支援プログラムに該当していたであろう。
 人の10年は、集約すれば一言で済ませるような短い時間である。ただそこに分岐を作ることがバリエーションを作り出す。はて、僕の22歳からの10年は、そんな分岐がいくつあるだろうか。
 もう少し考えてみよう。
 なんだか途中から、自己紹介というよりも、人生観みたいな話になってしまいましたが、それはそれでいいでしょう。

つづく

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