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写真のことと文章のこと。

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  • 読んでよかったテキストたち

    わたしがその月に読んでよかったテキストたちをまとめています。小説、評論、エッセイ、インタビュー、詩歌、WEB記事なんでもあり。

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    わたしが書いた文章をまとめています。主にエッセイ。

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叶うなら、父のご馳走をもう一度

わたしが高校に進学した頃、父方の祖母が施設に入った。認知症が進行してきたからだ。 幼い頃は、月に一度は祖母の家に遊びに行っていた。祖母の手料理が何より楽しみだった。少し味付けの濃い、わたしたち孫が好きそうな品々が食卓に並ぶ。いつも食べきれないほどたくさんで、どれもが美味しかった。 正月には仕込みから三段のおせちを手作りし、お盆にはお手製のおはぎを用意してくれた。両親と3人兄弟の5人家族の中で、あんこが好きなのは父とわたしだけだったので、おはぎはいつも2人で食べ、残りはお土

    • 短歌連作『五月のプライド』

      忘れたいことを数える まだ生きていたい理由が数えられていく 僕の名を忘れた祖母が僕の名を抱きかかえている春の陽だまり 入院をしたら見舞いに来てくれるだろう友らの序列をつくる 五巡目のジェンガ静かに抜くような愛の伝え方で精いっぱい 前提として君の持つ正義には僕とは違うきらめきがある っぽいと言われたことのある服でなるべく遠い海に飛び込む 剥がせないガムのようだとプライドを定義してから履き替えた靴 蓋付きのごみ箱を買う 見たくないものはごみって決めてしまった 週末

      • 短歌連作『四月のコイントス』

        旬があることの残酷 春雨で落ちた花片を避けるひとびと 今月になって一度も見ていない同じ号車にいたサラリーマン 雑草という草はないみんなっていう人はいる ひとりぼっちだ 裏表ないコイントス介入のできない意志が埋め尽くす街 「悪い人じゃないんだけど」と目の粗いやすりで撫でるような先輩 浴槽を繭に見立てて泣くことの権利きみにもわたしにもあり 本当のことを話す気のない人が主催の自己紹介のくるしさ やり込んだパズルゲームを消去して初夏に真顔を覗かれていた 火曜日に観るレ

        • 短歌連作『三月のはなむけ』

          掲示物すべて取られた教室は春の空気を蓄えだした 伸びすぎた枝が切られた通学路むかしはもっと冒険だった もこもこのダウンを着ない選択が次の季節を引き連れてくる 言い訳のように春だしねって言う 春なら仕方ないねと笑う あたたかくなった町では全員がスキップするのを我慢している きみだけが川面を見てるきらきらと揺れる車窓を独り占めして 終劇のあとの何より雄弁な沈黙みたいに話していたい はなむけの言葉がぜんぶ嘘っぽい 嘘っぽいってことはほんとだ 明日から来ない主任に渡さ

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        叶うなら、父のご馳走をもう一度

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        記事

          短歌連作『二月の夢』

          自由ってほんとうに気持ちいいものか聞く人がたまに夢に出てくる これも損、これも損って決めつけて何度も流れ星を見逃した 利己的という感情のない町で手前から取られていく牛乳 さみしさは色の濃い水 湖にくろい同心円がひろがる 全身を峰打ちみたいに叩かれて情けばかりのひかりを進む このくらい(私一人が泣かないでいれば)全然大丈夫です 重力に指を沿わせてエリンギを裂く 言えなかったことを数えて 夢でだけ心の底から笑えるという人を抱きしめて眠りたい 〈同じ夢 もう一度見る

          短歌連作『二月の夢』

          短歌連作『一月の積乱雲』

          どの人も冬になにかを期待して息が白くて泣いたりもする 持っているマッチすべてが濡れていて闇は意外とあかるいと知る ひび割れたグラスに水は溜まらない 素晴らしいってときどき呪い 心にも少しいびつな場所があり金平糖のとげを舐め取る どちらかのコードを切れば本当にきみは爆発しないのですか こうやって冬を味方にしていくの、ってきみが何度もはく白い息 久しぶりだねって言わずこないだの積乱雲の話をしよう 船を出す つまりここから先にある波止場すべてが私の味方 最後にはちっ

          短歌連作『一月の積乱雲』

          採用短歌まとめ

          短歌を投稿するようになり、いくつか採用していただけるようになったので自分の備忘録的にまとめておこうと思います(随時更新)。 1.新聞歌壇ちょうどいい綺麗さだから盗まれるビニール傘も人の心も 読売歌壇 俵万智選 2021/3/1 深夜二時、律儀に赤信号を待つ Hey Siri, 生まれた意味を教えて 読売歌壇 俵万智選 2021/4/13 失恋のエンドロールに「この恋はフィクションです」と書いて強がる 読売歌壇 俵万智選 2021/5/3 ああこれはきみが最後に辿り着く

          採用短歌まとめ

          2021年の桜

          遠くへは行けないご時世だったので、近所の桜を撮ってきた。 PENTAX 6×7に、Kodak PORTRA 400のフィルムを詰めて。 現像はいつもお願いしている山本写真機店さん。 学校の近くに桜が生えているの、とてもとても良いことだと思う。 こういう町の中にぽつんと一本ある桜に惹かれる。 用水路沿いの桜並木が多いところで良かった。同じ構図で何枚も撮ってしまうのが悪い癖だが。 この日は3月末。 新1年生と思われる、眩しいピンクのランドセルを背負った子。 桜の名所

          2021年の桜

          「ここじゃない世界」という幻想を捨て「普通じゃない私」という仮面を外して

          塩谷舞さんの初の書籍、『ここじゃない世界に行きたかった』を読んだ。 塩谷さんのことは、タイトルにもなっている「『ここじゃない世界』に行きたかった アイルランド紀行」というエッセイで知った。公開が2019年7月とのことなので、ちょうど1年半ほど前だ。誰かのリツイートで回ってきたこのエッセイを何となくタップして読み、その文章に心を鷲掴みにされ、以来すっかりファンになってしまったのだ。 (「アイルランド紀行」、著書に収録されているので紙の本で読むのも味わい深いのだけれど、mil

          「ここじゃない世界」という幻想を捨て「普通じゃない私」という仮面を外して

          けんず的 2020 色々ベスト

          Twitterで少し前から仲良くさせてもらっているフジイコウタさん(@repezen0819)が年末に書いている「色々ベスト」という企画に乗っかったのが本エントリです。ちょうど雑記が読みたい&書きたい気分だったので、えいやと筆を執っています。 「色々」の内容は本当に何でもよいとのことなので、思いつく順に、思いつく限り。 フジイさん、12月にお茶の定期便サービスを始めたそうで、お茶好き読者の方はぜひチェックしてみてください(わたしも年明け、急須と一緒に買う)(まじで美味いと

          けんず的 2020 色々ベスト

          2020年に読んでよかったテキストたち

          2020年も終わりということで、今年読んでよかったテキストまとめを。 春〜夏にかけて月ごとにまとめていたけれど、途中で力尽きてしまった。その時期の分も含めて、1年分をまとめて。 今回は、本や雑誌などの【書籍編】と、個人ブログやnoteなどの【Web記事編】で、それぞれ5つずつ紹介していきたいと思う。 わたしが2020年に読んだものなので、出版/公開が2019年以前のものもありますのであしからず。 1.『わたしを空腹にしないほうがいい』2020年のわたしに最もインパクト

          2020年に読んでよかったテキストたち

          空腹より、「美味しい」の一言が最高のスパイスだと思う話

          「けんずくんって、ご飯美味しくなさそうに食べるよね。栄養補給って感じ」 よくこんなセリフを面と向かって言ってきたなと思うけれど、5年以上経った今でも、一言一句鮮明に覚えている。言い放った彼女の少し残念なものを見るような目も、言われて上手く笑えなかった、わたしの顔が引きつる感覚も。 「年の瀬にうまいもん #食べたっ隊 Advent Calendar 2020」なんていう、ご飯を作ることや食べることが大好きな人たちが文章を書き連ねるイベントに参加しておきながら本当に申し訳な

          空腹より、「美味しい」の一言が最高のスパイスだと思う話

          カメラロールに無い写真

          幼い頃の写真は、よく両親が撮ってくれていたらしい。 実家のリビングと玄関の目立つ位置には、幼いわたしたち三兄弟の写真が飾られている。ぎこちないピースをするわたしと対照的にはにかんだ笑顔の姉、そして毎回カメラ目線を盛大に外す弟。それよりもう少し古い隣の写真立てに目をやれば、姉に負けじと無邪気に笑うわたしもいる。 写真立てに収められている以外にも、両親はわたしたち三兄弟の成長の記録をたくさん撮ってくれていた。10歳のときに「二分の一成人式」という学校の課題で、子どもの頃の写真を

          カメラロールに無い写真

          バケペンが欲しい気持ちを整理するためのnote

          バケペン(PENTAX 6×7)が欲しくてたまらなくなった。 7月にCONTAX RXという新しいカメラを買ったばかりで、そちらもお世辞にもまだ全然使いこなせていないのにも関わらず。 これまでも何度か、中判への憧れや写りの魅力はありましたが、なんというか、急速に大きくなっているのを感じている。 ということで、自分の気持ちを高めるためにも、バケペンが欲しくなる素敵な写真を撮られている方を紹介しようと思います。 ニシムラタクヤさん(@takchaso)たくちゃそさんの写真

          バケペンが欲しい気持ちを整理するためのnote

          秋色を纏った彼女を探すためひとつ手前の路地を曲がると | 今月の短歌 #3

          高架下で電車が通る瞬間を狙って耳打ちするような恋 醜さを塗りつぶすための醜さを見ないふりする醜いわたし こういうの好きでしょなんて言わないでわたしは泣きたい時に泣くから 秋色を纏った彼女を探すためひとつ手前の路地を曲がると 羽織るには少し汗ばむそれさえも愛しいじゃじゃ馬みたいな秋だ 挟まれたレシート裏の「午後一時新宿駅で」を思い出せない 夕焼けを登場人物に例えて橙に染まるページをめくる リズムよく並ぶ街頭を通る時だけ霧雨が見えて冷たい 車窓から見える灯りと水垢

          秋色を纏った彼女を探すためひとつ手前の路地を曲がると | 今月の短歌 #3

          まだ会ったことがないのに、また会いたい友人の話

          今朝、とんでもない記事を読んだ。いてもたってもいられなくなり、仕事を終わらせてすぐこのnoteを書いている。 友人の三浦希さん(@miuranozomu)が、自分自身のことと自身にまつわる洋服のことについて語ったインタビュー記事。 はじめは、感想を付けてツイートしようと思ったのだが、とてもじゃないが140字なんかに収まりそうもなかった。 正直、この記事が素晴らしすぎるので、わたしが書くべきことなんてひとつもないと思うのだけれど。どうしようもなく書きたくなってしまったから

          まだ会ったことがないのに、また会いたい友人の話