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芸備線と木次線に乗ったら色んな意味で"終わり"を感じた

2022年11月。少し前に芸備線と木次線に乗って広島から米子まで中国地方横断してまいりました。この時気付いたことを挙げていこうかと思います。


1.えきねっとで発券できる

今回は広島市内〜芸備線〜備後落合~木次線〜宍道〜山陰本線〜米子という複雑ルート。広島〜米子をまともに検索すれば岡山で新幹線から特急やくも号に乗り換えるよう案内されますし、9割はその通り乗るでしょうね。

実はJR東日本のインターネット予約えきねっとを利用すると、このようなJR他社の普通列車だけの、しかも遠回りな変態発券も可能です。最近はみどりの窓口が各所で削減が進んでいることもあり、なかなか面白いです。但し、きっぷの受取りは基本JR東日本の駅に限られるので注意が必要です。

えきねっとでも発券できる
  • 乗車駅を広島、降車駅を米子、経由駅を宍道とする

  • 新幹線を利用、指定席を利用のチェックを外す

  • 乗車券のみ購入にチェックを入れる

として購入できます。但しきっぷの受け取りがJR東日本エリアの駅に限られるので首都圏在住でこうして地方へ遠征する場合向けです。


あらかじめJR東日本エリアで発券が必要です


これを解説したのには意味があって当日乗って気付いたことがあった訳です。


2.広島周辺は対向車多くしかも国鉄天国

出発は広島駅。まずは11:05発の三次行きに乗ります。実はこの最初の区間にしてハイライトかも知れません。

三次行き列車が到着
キハ47

多くの人が行きかい新しめの電車が多い広島駅で芸備線ホームに来たのは国鉄時代から残るキハ47。既にJR東日本&JR東海からは絶滅し、JR四国&JR九州では少数が塗装変更の上で残っていますが、JR西日本ではこの芸備線や山口線等で未だに主力車種です。窓のサッシ交換やエアコン後付けはされているものの、塗装はオリジナルに戻されています。


車内はボックスシート

車内は昔ながらのボックスシート。出発後も人影はまばらで古き良きローカル線の雰囲気は十分です。


安芸矢口駅で交換
下深川駅で交換

芸備線も広島市内ではそこそこ運行本数が多く周囲も住宅地。対向車とのすれ違いも頻繁にあり、限界ローカル線のイメージは薄いです。そこに来るのが国鉄型ばかりだからこそ、雰囲気を楽しむには広島近郊で十分かも知れません。


志和地駅で交換しかも1両

三次駅に近付くにつれ青空と山々が拡がり、のどかな雰囲気になります。1時間半ほどの乗車で5~6本の列車とすれ違うので、結構忙しい路線です。


3.三次以北が16m車1両で間に合う意味

三次駅で備後落合行きに乗り換えます。芸備線は広島近郊では毎時2~3本、三次までは毎時1本程度あるのですが、ここから備後落合まで行くのは1日5本と随分少なくなります。

キハ120カープ塗装

JR化後に登場したキハ120しかも1両。いよいよヤバさが伝わります。

1990年前後にトレンドになった全長16mのミニ車体で軽量化やコストダウンを狙った小型ディーゼルカー。同様のコンセプトは黎明期のJRや第三セクターのローカル線で見られました。
ただ西日本以外のJR各社ではJR北海道のキハ130は全廃、JR東日本のキハ100はその後の量産はキハ110系列以降20m級車体にシフトし、JR東海のキハ11も多くが廃車されています。
結局2両以上で運用されることや、朝ラッシュ時の輸送量を考えると20m級の車両の方がコストパフォーマンスが高いようで、最近は姿を消しつつあります。

つまり輸送量の小さい16m車1両で間に合う路線だということ。バスや旅客機の世界でもダウンサイジングはあるけれど、これ以上小さくはならないサイズで運行しても経費削減には限界があると。


西城川の渓谷美

元々乗客は数人なのに備後庄原を過ぎると住宅地は皆無。この辺からJR西日本のローカル線でよく見られる路盤のメンテナンス軽減を目的とした徐行区間が多発します。景色が良いから徐行してくれてる訳ではありません。



4.自分以外誰もきっぷを買ってなかった理由

終点備後落合駅に到着。ここは芸備線新見方面と木次線が分岐する駅ですが、無人駅なので運転士できっぷを見せるようです。

が、乗客6人しかいないのに精算がやたら遅い。

聞けばきっぷを買っていない。

そして木次線で最終的に宍道まで行くとか、
さらに芸備線で新見まで行くとか、

かなり長距離なので整理券を持ったまま下車駅精算を案内されていました。

結局自分以外の5人全員きっぷを購入していない。

うち1人は無人駅の塩町から乗ってきたのを見たのでまぁ良しとして、

結局2人が芸備線新見方面へ
自分含め4人が木次線宍道方面へ通り抜けるようだけど

きっぷを買ってないというより買えない模様。


そりゃそうだ。芸備線も木次線も通り抜けると片道100kmを超えるので多くの券売機では買えない。
三次駅もみどりの窓口が廃止されて、テレビ通話方式のみどりの券売機プラスしかない。それも駅の混雑具合とリンクしてないから呼び出しに思いのほか時間がかかる事もあるようです。

ローカル線乗りつぶしの旅はきっぷを買う時点で難易度が十分高い。

そしてこの備後落合駅で降りた6人は廃線も議論されている限界ローカル線の貴重な乗客なのですが、彼らに運賃を支払わせる仕組みが無い。駅は無人、ICカードは圏外だし券売機でも届かない。

つまり運賃徴収の仕組みが機能不全。終わっているのです。


岡山の橙色と広島の紫色の列車が集合

備後落合駅は山間の小さな駅。ここからの列車は更に少なく、木次線も芸備線新見方面も1日たった3往復。
それでもこのように1日3回、岡山、広島、島根の3色の列車が揃います。

備後落合駅で3方向の列車が集合すると撮影会に

青春18きっぷの時期は混雑するらしくオフシーズンを狙ったのですが、当然のように乗り鉄100%で乗り換え時間はちょっとした撮影会になります。


5.木次線は80㎞を3時間しかも木次まで乗車なし

20分ほどの乗り換え時間で14:41発木次線宍道行きの乗り換えます。もちろんキハ120の単行、乗客は先ほどの三次発の列車から自分含め4人と、新見方向から乗り継いできたと思われる2人の計6人。

この木次線備後落合~出雲横田も1日3往復、25㎞制限の必殺徐行ありの限界路線。ただ芸備線以上に車窓は魅力的。


国道314号奥出雲おろちループ

並行する国道の車より遅い…と言いたいのだけど国道すら車が殆ど通っていません。三次から宍道までトンネルでショートカットする中国横断道(いわゆる無料高速)ができた為、国道314号すら無用の長物に。
中国横断道で三次~松江が1時間半で行けるのに、列車は三次~備後落合で1時間半、備後落合~宍道に3時間かかるので輸送機関として木次線や芸備線は完全に役立たずに。

そして例によってきっぷの買える駅も限られているのでますます終わっているわけです。


左から来て折り返し右下の出雲坂根へ

ただ交通手段としての無能ぶりを補って余りある車窓はまだまだ広がります。島根県に入って2つ目の出雲坂根駅はまず雪除けのドームに入って折返す強制スイッチバック。1両なので前方から運転手が来て方向転換し坂を下ります。


出雲坂根駅でスイッチバック。ここでまた後ろへ進みます

出雲坂根駅は方向転換もありちょっとした名所なので見物人の姿も。まぁ現実は米子か松江からレンタカーでしょうね。


木次駅でようやく初めての途中乗車客

備後落合駅乗客6名でスタートして、木次駅でようやくお客さんが数人乗ってきました。つまり途中駅は停まるだけで乗り降りが無いまま。

木次線や芸備線北部に限らず存廃の危機にあるローカル線は数多いです。しかしこれが現実です。

沿線地域が過疎地、極端に少ない本数、80kmを3時間も掛ける自動車以下の遅さ、かろうじて物好きが乗り通そうにもきっぷ売り場不在…機能不全です。

地元の人にもっと乗ってもらうとか、観光客を誘致するとかが、いかに現実離れした絵空事か思い知らせれます。地元の足ですらないのも見て分かります。


ちなみに冬が来る前に乗りに行ったのにも理由があって、冬季には積雪があると除雪車を出すまでもなく1週間単位で全列車運休となるので冬の青春18きっぷシーズンなど待ってはいられないのです。特に木次線は毎年のように積雪で数日間に渡る運休が発生しており、冬場の訪問が難しいのも確かです。

加茂中でもすれ違い

ただ木次を過ぎると帰宅時間帯とあって対向車含めそこそこ利用者はいました。


宍道到着。折り返し列車はそこそこ乗ってます

17:37宍道到着。広島から6時間半に及ぶ中国地方横断の旅が終わります。次の山陰本線は久しぶりのICOCAエリアです。


はっきり言って芸備線の三次以北、木次線の木次以南は交通機関として終わっています。需要が少なく、貴重な鉄道ファンを迎えようにもきっぷの販売すら困難な状態。

昔は陰陽連絡路線として急行列車も走っていたようですが、それも山陽新幹線や中国自動車道が開通する前で山陽本線だけでは供給不足だっただけなのかも知れません。

本当に乗る人がいない、そもそも周囲に家がない。
深刻な廃線危機のローカル線でも地元の足として不可欠…というよく聞く論調も虚しいです。

具体的に木次線や芸備線が、という訳ではありませんがローカル線の淘汰は今後かなり現実味を帯びてくるように思うのです。


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