あまり好きでなかった上司がぼくにのこしたもの

万年筆を使い始めて6年になる。当時の上司がR25(なつかしい)の編集長だった人で、マスコミ関係に顔のきく人らしく、博報堂ケトルの嶋浩一郎さんに仕事をお願いすることなり、嶋さんやスタッフと打ち合わせすることになった。ぼくはこういう業界にうといので、博報堂⚪︎⚪︎って会社だから、きっと広告界のなんだかすごい人なんだろうな、とググってこの記事をみつけた。

そこに、嶋さんがドイツのペリカーノ・ジュニアという万年筆を愛用しているとあり、広告の有名人が使うドイツの万年筆というからには、さぞかし高いものだろうと調べたら、1500円ぐらいだったので、どんなものか試しに買ってみた。

このペリカーノ・ジュニアという万年筆は、本来子供が万年筆の正しい持ち方を学ぶためのもので、グリップに親指、人差し指、中指に合わせた凹みがあり、その通りに持つと正しい持ち方になる。

で、Amazonから届いた万年筆を、期待をいっぱいにふくらませて持ってみて、とてつもない違和感をおぼえた。それもそのはず、ぼくは左利きなので、右手で正しく持てるように作られたこの万年筆は正しく持てない。このまま無理やり使おううかとも思ったけれど、1500円ぐらいのものだしな、とすぐに左利き用も注文した。翌日届いた左利き用は、何の問題もなく使えて、晴れて万年筆デビューできた。

しかし、最初に買った右用があまってしまった。せっかく買った初めての万年筆を使わないのはもったいないので、右手で字を書く練習でもしてみることにした(ぼくは、こういうくだらないことをまじめにやるのが好きだ)。初めはうまく力が入らなかったり、逆に入りすぎたり、線もフニャフニャだったりしたけれど、利き手で雑に書く、自分でも読めないような汚い字より、不自由な右手でゆっくり丁寧に書く字は案外綺麗で、こっちの方が伸び代があるなと思い、それからずっと右手で書いている。

6年経った今では、細字の万年筆で小さい字を書くこともできるようになり、次のステップとして、イラストなんかも右で描いてみようかな、とちょこちょこチャレンジしている。

正直なはなし、ぼくはこの上司のことをあまり好きではなかったし、今も会ってみたいとか全然おもわないんだけれど、右手で書けるようになったおかげで万年筆の選択肢がひろがったり、他人が読めるぐらいの字が書けるようになったりで、これらの点についてはとても感謝している。いい影響は、好きな人からだけでなく、そうでない人からも受けるんだなぁ。

ほんとは5年前の、彼の送別会のときに直接言えればよかったけれど、終わってから気づいたので、今さらここに書いておく。


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