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急成長の電子タバコメーカー「JUUL」というデカコーン企業の動向に注目が必要な2つの理由

米国の尋常じゃない急成長の電子タバコ企業Juul無双はTwitterで度々取り上げてきたのですが、その実態が非常に興味深かったので整理します。

このように米国では電子タバコメーカーとしては新興企業のJuul Labsがわずかの期間でキャッシュリッチな大手タバコ企業のブランドを駆逐して圧倒的なシェアを獲得している。

<要旨>
1. デカコーン企業になるまでの成長スピードがテック企業の多くよりはるかに早かった。電子タバコなのに(と思ったが市場規模がデカイ)。
2. 既存タバコ大手企業の電子タバコを駆逐し、シェア70%超えまで圧倒
3. 米国タバコ最大手アルトリア・グループが自社製品をあきらめて撤退してまでJuulに出資
4. SNSで共感を得たブランドが伸びやすい"マイクロブランドの時代"が来た象徴の1つでもあった。
5. しかしそのシェアの中身を見てみると驚くべき実態、若者への驚異的な訴求力問題。

大きくわけると、成長力がモンスター級、社会インパクトもモンスター級、という2点で、それぞれ具体的に紹介していく。

このDecacornというのは企業価値が100億ドル以上(およそ1兆1000億円)と評価されたベンチャー企業で、デカイ・ユニコーン企業(10億ドル以上の評価額)ではなく「deca=10倍」のユニコーン企業なので100億ドル以上の評価額…というもの。

マネーがジャブジャブだった地合いということもあるが、Juulはわずかの期間で評価額が急成長していることがわかる。そして実際に米国タバコ最大手の企業アルトリアがJuulの評価額380億ドルの株式35%を128億ドルで取得。

最初にJuulを紹介したのが7月だったのを忘れるくらいのスピードで大手タバコ会社アルトリアが自社製品(Markten)にタオルを投げ込んでJuulに出資しディスラプトされる側からカニバリを覚悟してでもディスラプト側に片足つっこむ潔さはダイナミックな経営判断。

これが一番ダメージとしてキツイのが英国タバコ大手のBAT(ブリティッシュ・アメリカン・タバコ)だろう。BATは電子タバコに強かっただけに、Juulのバックにアルトリアがつくのは過酷な戦いになりそうだ。

では、Juulにはバラ色の未来が待っているのか?という点については、これもまたよくわからない。このBATの株価チャートを見ての通り、11/10に株価がそこそこ下落しているのは米国の規制当局であるFDAがメンソールタバコの販売を禁止すると表明したからだ。

メンソールやフレーバータバコというものはタバコ本来の独特のフレーバーを消す添加物によってIQOSなど加熱式タバコ(タバコ葉を加熱するタイプのタバコ)でも人気ジャンルとなっている。メンソールやフレーバーがなければうけつけないという人もいる。

それだけにメンソールへの規制をして、フルーツ風味などフレーバータバコへの規制をしないということはあまり想定できそうにない。

ついでに、世界のルールを基準に日本がどうこうというわけではないが、読者にはタバコ株投資家も多くいらっしゃるようなので、現状認識がてら、興味深いTweetを発見したので紹介したい(引用は許可取得済、ありがとうございます)。

日本のコンビニにおけるプルームテックの販促、さすがにこれは私もやばいなと感じた。

東京オリンピックにむけて海外の目を気にして色々うるさくなりそうな中で、JTのこのPloom Techのやりかたはリスクとって攻めているなという印象。もちろんPMIのIQOSやBATのgloもえげつない販促合戦をしている。そもそもIQOSなんてTVの人気番組(アメトーク)で企画(IQOS芸人)くんでもらったくらいのありえないブーストを獲得しているわけで、日本はゆるい。

で、何がやばいかというと、Juulのやばさは若者への圧倒的な訴求力で、日本のこの菓子のようなフレーバー押しの販促は大丈夫なのか?という点。

Source: https://www.motherjones.com/kevin-drum/2018/12/the-juul-fad-is-far-bigger-than-i-ever-would-have-guessed/

この資料によるとせっかく若者の従来型喫煙率が下落トレンドだったのにも関わらず、明らかにJuulの登場で電子タバコの喫煙率が急上昇してしまっているのが分かる。(記事冒頭の資料の電子タバコの成長率とJuulの成長状況から) 問題はフレーバーなのかSNSとの相性の良さなのかは分解してみないと分からないので、また掘り下げていきたいところ。

このようにJuulの従業員は「従来型のたばこをやめるのを支援するというJuulの使命」を意識しているようだが、実際は若者に対する訴求力が強力で新たな若者の喫煙者を増やしてしまっているように見える。

シェアでは圧倒的に70%だが、その中身をみると若者への普及に支えられていて、もはやJuulは若者の間で"Juuling"という動詞にまでなっているほど。

その状態に危機感をもったFDAが電子タバコをコンビニで販売できないよう規制するなど規制強化の動きを示し、そしてこれまで"規制するする詐欺"だったメンソール規制やフレーバー規制の検討などに動き出したわけだ。

そもそもIQOSはまだ米国で認可されていない。これから米国上陸するわけだが、その時IQOS vs. Juulはどうなるのか?というのは興味深い。どちらもアルトリア影響圏なので。そしてタバコ会社大手は加熱式タバコにリソースをかなり割いたところで、Juulの方が世界で流行ったりすることはあるのか?等、ウォッチしていく価値がありそうだ。

まとめ
JUULやばいよやばいよ

追記

Source: Altria IR資料

米国外でも無双しはじめたJuul (日本は電子タバコが規制されているのではいってくることはない)

——— ✂ ——— おわり(と見せかけておまけ有) ——— ✂ ———

上場企業分析を期待されていた方、いきなり未上場企業ネタで申し訳ない。ただ、Juulは調べれば調べるほど面白い企業で、なぜここまでヒットしたのか?を掘り下げていくのは価値があると思う。まずは、Juulの状況説明記事を書いておきたかった。

新興スタートアップが巨人を倒した」という点ではJuulは注目すべき事例だと思われる。

このnote「米国企業決算から見る世界経済とビジネス最前線」(自分でもタイトル覚えられない)の方向性としては上記の通りで、いきなりはみだしてる気がしますが、新興のJuul伸びてて、米国の巨人企業のプロダクトが倒されたというのはかなり注目のトピックだと思うのですよね。フードスタートアップですらそうだけど、ゼネラル・ミルズみたいなレガシー企業はもはや自社でブランドを開発するよりスタートアップに投資したほうがいいまであるので、マイクロブランド台頭時代の中、ビジネスチャンスを模索したいところです。

自己紹介がてら↓

追記: Juulがなぜ流行ったのか?という点で補足。

1. JUULは1回の充電で1日使える、使い捨てのPODの手軽さ
2. 従来の電子タバコのニコチンは3mg/ml〜8mg/mlだがPODの場合は、30mg以上が当たり前
3. ソルトニコチンが重要な要素だった(濃い・なめらか・早い・コスパ)
Source: https://japanese.engadget.com/2018/10/01/iqos-glo-pod-vape/

このEngadgetの記事は非常によくまとまっており、知らないこともワラワラでてきた。ソルトニコチンとやらの解説はググっていただくとして、なるほど電子タバコも従来型のタバコユーザーが満足するほど進化したということか。

実際、BATのIR資料をみても従来の電子タバコはコンバージョンレシオが低く、それゆえ従来型タバコからのコンバージョンレシオが比較的高いIQOSのような加熱式タバコが受け入れられてきたのかなと思っていたが、こうやって強いニコチン・早い吸収・使いやすさ・コスパと揃ってくるPOD型の電子タバコだとわりとゲームチェンジャーなのかもしれない。

あ、いやタバコ業界でゲームチェンジャーとかいうとフラグになる運命だからやめておこう。

今のPMIの株価は…

せっかく加熱式タバコに投資してきたフィリップモリスからすると、JUULが流行って加熱式タバコがオワコン化するのは避けたいところだろうか。IQOS用の工場も増えてきたし。肝心の米国市場ではパートナーでありもとは同じ企業であるアルトリアがJUULにBetしてしまったし。

ただ、なるほどPODスタイルの電子タバコは従来とは違うのか、と分かったところでなぜJUULだけがここまで伸びたのかはやはりまだはっきりと分からない。引き続きウォッチしていく。

追記: どうやらJUULはニコチン送達システムで特許をとっているらしく、そのあたりに違いがあるのかもしれない。後述するようにNPSが57とブランドとしても強力。

FDAがニコチン量規制なども検討しているように、JUULのような低ニコチンへの取り組みが弱いプロダクトは規制によって弱体化(中毒性の減衰で)していく余地はあるという点に注意が必要だ。

追記: NPSが驚異の57

Source: Altria IR

JUULのNPSってAppleと同等の57もあるのか…

NPS(Net Promoter Score)=顧客ロイヤルティ(企業やブランドに対してどれくらいの愛着や信頼があるか)を数値化

とにかく高濃度ニコチンで吸いやすく中毒性あるとなると10代への影響が心配。FDAが焦燥感もってぶち切れているのも納得の勢いだ。

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