Think Smart【bookノートA】

今年こそフィットネスセンターに行こう。

このような新年の抱負を掲げても、実行できたことはあるだろうか。

重要だが厄介な行為になかなか取りかかれない傾向を、

「行為の先送り」または「先延ばし」と呼ぶ。

先延ばしは不毛な行為だとわかっているのに、私たちはなぜ大事なことを後回しにしてしまうのか。

それは、「始めてから成果が出るまでに、時間がかかる」からだ。

その時間を耐えるには強い意志力が必要となる。

ところが、意志力を持続させることは難しい。

エネルギーを消費しきってしまうと、その後しばらくは難題をこなせるだけの力を失ってしまうためだ。

では「先延ばし」を避けるにはどうしたらいいのか。

大事なのは、リラックスしたり、横道に逸れたりするインターバルを設けることだ。

また、横道に逸れたままにならないよう、注意を逸らす要因をあらかじめ排除しておくのもよい。

特に効果的なのは「期限を設定する」ことだ。

外部から期限が設定されている場合、先延ばしを最も効果的に防げる。

自分で期限を設ける場合は、やるべきことをいくつかのパートに分けて、パートごとに期限を設けるようにしたい。

明確な中間目標がなければ、新年の抱負が失敗に終わるのは目に見えているのだ。

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比較し、吟味し、決断をすると、私たちは疲弊してしまう。

こうした状態を「決断疲れ」と呼ぶ。

意志力が消耗した結果、消費者は広告に惑わされやすくなり、衝動買いに走ってしまう。

また、重要な決定を下す立場にある人は、誘惑に惑わされやすくなるという。

意志力を充電するには、休憩をとってリラックスしたり、何かを食べたりするとよい。

血糖値が低いと、意志の力は衰える。

そのことを熟知しているのが、スウェーデンの家具メーカーIKEAだ。

同社は、レストランを順路の真ん中に設けている。

その理由はなぜか。

一万点もの商品が置かれた長い通路を歩いてきた消費者が、レストランでケーキを食べる。

するとそれが決断疲れの解消につながり、再び買い物に向かえるというわけだ。

この「決断疲れ」は裁判所の判決にも影響を及ぼしている。

大胆な判決の出る割合は、時間が早いうちは65%だ。

ところが、時が経つにつれゼロに近くなり、

休憩をはさむと突然また65%に戻るという。

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私たちは、自分を基準にして考え、ほかの人も自分と同じように考えるだろうと、つい思いこんでしまう。

この思考の誤りは「偽 (ぎ) の合意効果」と呼ばれている。

たとえば、技術者の発言権が強い企業ではどうか。

技術者たちは自分たちの凝らした技巧に夢中になりがちだ。

それゆえ、消費者も同じようにその製品に関心をもつはずだと思いこむ傾向にある。

この事実からいえるのは、自分のものの見方が主流だと思いこまないことが重要ということだ。

私たちは、自分と意見の異なる人たちを、簡単に「変わり者」と決めつけてしまう。

まずは意見の異なる人に対してではなく、自分自身に対して懐疑的になるようにしたい。

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ジョージ・オーウェルの古典『一九八四年』に登場するウィンストン・スミスは、政府の「真理省」で働く事務員だ。

彼の仕事は、歴史を改ざんし、政府が決して過ちを犯さないという幻想をつくりあげることである。

ぞっとするような話だが、実はこうした歴史のでっち上げは、私たちの脳内でも頻繁に行われている。

つまり、脳の中にも「小さなウィンストン」がいるのだ。

それは優雅に、やすやすと私たちの記憶を書き換えていく。

そのおかげで私たちは、「自分は常に正しかった」と確信する。

私たちは、自分の過ちを直視しなくても済むよう、無意識のうちに過去の見解を現在の見解に合わせている。

本来なら自分の間違いに気づいたときに、誤った見方から解放されて前進できるのに、そんなふうには考えないのだ。

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あなたがある部署のトップを務めているとしよう。

これから、経営陣に自部署の現状をプレゼンテーションしなければならない。

その際、説明資料の大半を「達成できた目標」に割き、

残りで「これからの課題」を挙げるのではないだろうか。

「達成できなかった目標」については伏せておくにちがいない。

このように、私たちは多くの事例から、自分に「都合のよいもの」だけを並べ立てる傾向にある。

これを「チェリー・ピッキング」と呼ぶ。

実現できた目標は大きく扱われるが、実現できなかった目標については、言及すらされないのはよくあることだ。

「チェリー・ピッキング」を特に見抜けなくなるのが、高尚な分野や社会的な地位のある分野である。

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過去70年間で医学が社会にもたらした最大の貢献は何か。

それは「禁煙」のアドバイスである。

第二次世界大戦以降に行われたどんな医学的研究よりも、

どんな医学的進歩よりも、

社会的な貢献度としては禁煙を勧めることのほうが上回るという。

ところが私たちは、抗生物質など、医学界が重要な発明だと称するものに、より注意を向けてしまう。

そのため、薬の研究者ばかり賞賛され、禁煙活動家はあまり評価を得られないのである。

では、そうした状況下で、客観的な情報を得るにはどうすればいいのか。

もしあなたが、ある組織の監査役をしているなら、「失敗に終わったプロジェクト」など、達成できなかったことを必ず尋ねるとよい。

これは彼らの成功談についての質問よりも、その組織について知るのにずっと役立つはずだ。

注意すべきは、「独自に設定した目標」という言葉を耳にしたときだ。

それでは壁に向けてダーツの矢を放ち、その矢が刺さった場所の周囲に的の絵を描くようなものである。

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パウルとゲオルク、二人の例のうち、感じる「後悔」が大きいのはどちらのほうか。

パウルは、所有していたA社の株をその年のうちに売却し、B社の株を買おうとしていた。

だが結局、株を買い換えないことにした。

いまでは、もしそうしておけば1200ドル多く利益を得られたことがわかっている。

一方、ゲオルクは所有していたB社の株をその年のうちに売って、A社の株に買い換えた。

いまでは、もしB社の株を所有し続けていれば、1200ドル多く利益が得られたことが判明している。

アンケートで後悔が大きいのはいずれかを尋ねると、回答者の8%がパウルと答え、92%がゲオルクと答えた。

客観的には両者とも間違ったほうの株を選んでいる。

しかし、唯一の違いがある。

パウルはA社の株をすでにもっており、行動を起こさなかった。。

これに対し、ゲオルクはそれを購入するという行動を起こしていた。

このことから、大多数の人とは違う行動をとるほうが、感じる後悔が大きいことがわかる。

後悔とは「間違った決断をした」と感じることなのだ。

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後悔への恐怖によって愚かな行動をとりやすいのは、それが「最後のチャンス」という言葉を伴うときである。

あなたがマイホームの建設を夢見ていたとしよう。

売りに出ている土地がどんどん少なくなり、海の見える区画はほんのわずかしか残っていない。

あと一か所となると、「これが最後のチャンス」とばかりにあなたは残った区画に飛びつき、法外な価格で購入する。

本来なら、海の見えるすばらしい物件は、今後何度でも売りに出される。

しかし、後悔を恐れるために、その事実はあなたの頭からすっかり抜け落ちてしまったのだ。

「最後のチャンス」と聞くと、私たちは分別をなくす。

大事な決断をするときは「思考の罠」にはまっていないか、充分考えてみてほしい。

「Think Smart」
ロルフ・ドベリ 著
サンマーク出版

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