恐怖と消費が織りなす社会

 唐突ですけどね、マイケル・ムーア監督(デブ)が、学校での銃乱射事件の背景を追った作品『ボウリング・フォー・コロンバイン』で、過激な歌詞やパフォーマンスが犯人の少年たちに影響を与え犯行に繋がったと評されるマリリン・マンソンが、インタビューに答えるシーンがあるんですよ。

 「テレビでニュースを見る。戦争だ、テロだ、殺人だ、災害だ…カットしてCM。車を買え、家を買え、臭い息してちゃ他人に嫌われる、ニキビづらじゃ女はやらせてくれない……恐怖と消費の一大キャンペーンさ」

 マンソンは、犯人の少年たちは社会から「恐怖」を与えられていたのだと指摘する。その後、ムーア監督(デブ)の取材で、学校の人気者でもなく特に優秀でもない(そして、特に不良ですらなかった)犯人の少年たちは、「自分たちは社会に不要なのではないか、このままパッとしないダメ人間になるのではないか」といった恐怖心を持っていたであろうことが描き出されていく……ってなくだりであります。

 これはムーア監督(デブ)が「人口比で言えばアメリカ並みに銃が普及しているカナダで凶悪事件が少ない。暴力的なゲームやアニメが原因なら日本で多発するはずだ。血なまぐさい歴史や戦争なんて大英帝国にもドイツにもある。じゃあ、なぜアメリカだけ、こんなにも“何かろくでもないことが起きた時のために”銃を持つ空気があり、それが犯罪にも使われてしまうのか?」と疑問を持って調べていく中で、漠然とした恐怖を煽られる社会が原因だと気付くキッカケになっていくシーンなのですが、まぁ銃犯罪の件は作品を見ていただくとして。

 今回すこしばかり言及したいのは、「恐怖を原動力にした消費」についてであります。

 ま、基本、「メシ食って暑さや寒さを防げれば生きていける」って真実は、我々が北京やジャワの洞窟で原人ライフを送ってたころからDNAに刻まれとるわけです。しかし同様に「集団生活において見捨てられる恐怖」なる物も川本真琴ばりのDNA情報なのですよ。

 ゆえに消費という物には「生きるための消費」と「社会的な消費」があるわけですが、これも何と言うか、時代によって様相が異なりまして、昨今は、より「恐怖」を煽る消費喚起が行われております。

 三浦展『第四の消費』などに詳しいのですが、生きるための消費段階を超えたあと、日本で言えば昭和30年代ごろから「より良く生きるための消費」が煽られたと。三種の神器(昭和30年代後半:白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫)や、3C(昭和40年代中期:カラーテレビ・クーラー・自動車)などをゲットして、より良く生きようよ、ってな話です。この「よりよく生きる」という概念は当時の特徴でして、CMのキャッチコピーでは「いつかはクラウン」なんてのが時代の象徴だったと。自動車の中でもクラウンは高級車、俺も出世してお金ためてクラウンに乗れるようになろう、みたいな、誰もが同じ価値観の中で階段を一段ずつ登って行こうって時代だったんです。

 しかし1980年代ともなりますと、富が社会に広く行きわたり、選択肢も増えたことで、お金を使ってより良い生活を求める気風ではなくなった。「クラウン?あれは企業の重役なんかが乗る車でダセェから、同じ価格なら別の車を買うよ」とか、「バーバリーを着てる保守的な層と、コムデギャルソン着てる層は、財布の中身は一緒でも価値観ぜんぜん違うよね」とか。つまり同じ階段の中で俺が一段上だとかアイツは二段上だという話ではなく、「より良い人生」から「自分らしい人生」のために消費するようになった……とのこと。ホントにそうかと言われるとパルコとかが煽りまくって「買わなければ!」と洗脳したような面もあると思うんですが、まぁ、いずれにしても多様化したし、自分なりのライフスタイルと消費が結びついて行った。

 当時を彩る糸井重里の名コピー「ほしいものが、ほしいわ。」「おいしい生活。」「僕の君は世界一」なども、より良い生活のために高級品を買うとかステータスを求めるといった視点ではなく、自分の価値観に合うものを自分で選んでいくライフスタイルと消費の姿勢が凝縮されております。糸井さんの場合、そのライフスタイルが「徳川埋蔵金を掘る」という所に行き着いてしまうのでどういう価値観なんだと疑問を感じなくもないのですが、ともかくそういう話であると。出世とか名声より埋蔵金やバス釣りを優先したいんだと。

 しかし、そんな時代も終わりを迎え、今やファストファッションの普及や、猫もひろしも杓子もシャクレもiPhone持ってパズドラですよ。おいおい個性的な消費はどこに行ったんだと。お前のライフスタイルは他人と全く一緒でいいのかと。

 

 実はこれ、消費の様相が「シェア」「ソーシャル」になってきたことに起因するんですが、要するに「みんなと盛り上がるため消費」みたいな形なんですね。かつて他人との交流を優先せず自分だけの価値観を重視していたヲタ層ですら、「ハルヒ」「らきすた」「けいおん」「まどマギ」とか、あるいは「艦これ」「ガルパン」でもいいんですが、なんか、みんなでブヒブヒ盛り上がれる物に集中する。その作品が好きだというのもあるでしょうが、これはワールドカップやオリンピックと一緒で「これは、社交の為に必要な消費だ」という形なんです。「いまさら聞けないiPhoneの有名アプリ!」みたいなのも、今まで使わないで生きて来られたんだから使わないで良いし、いまさら聞かないでいいんですけども、そうなると、みんなで盛り上がることができない。だから社交のために消費してるんです。

 そして、その社交範囲は性別や年齢や経済力によってクラスタ化されており、ツイッター見てても富裕層の若手IT起業家は似たようなのばっかりとつるんでますよね。もはや「いつかはクラウン」と階段を上る自分を夢見られる時代ではなく、「ほしいものが、ほしいわ」と無邪気に個性を主張できる時代でもない。

 自分のクラスタの中で、ひとりぼっちにならないために社交し、一生懸命なかよしごっこをしているのが昨今の消費者であります。ウソだと思うなら、完全に「部族」と化したアカウント見れば、みんな「ともだち(と称する他人)」のご機嫌を伺うために、本心ではない『周りと似たような発言』に終始してることが分かりますよ。

 はーい、おまえら注目―。先生の言葉に注目―。

 えーとですね、こうやって「みんなで盛り上がろう消費」の時代に、もっとも効くのはどういう煽り方ですかー?

 ……うんうん、「これを買って、君もみんなと楽しもう!」ね。いいと思います。でも、それって今まで特に困ってなかった人にはインパクトないというか、特に新しい楽しみなんて要らないやと思われちゃいませんかー?

 ……はい、そう!その逆が正解なの!!つまり「これを買わないと、みんなと楽しめないぜ?」が正解!仲間外れにされる、社会から取り残される、その恐怖を煽ることで、これまで時に困ってなかった層をも「あれ?このままじゃマズイのかな?」と動かすわけですねー。

 昔っからある手法だ。流行を煽り、それに乗らないとマズイと危機感を持たせる手法。

 これを笑って見ている人も、モノが保険や資格学校だったらどうだろうか?「がん保険、入っておかないと…」「ファイナンシャルプランナー講座、いま学ばないと…」。割と効いてくるんじゃないですかね。

 その上でですね、個人的な感覚ではありますけども、かつての流行煽り&危機感による消費煽りと異なるのは、その背景に社会への諦めが見え隠れする点なんじゃねーかなと。「この保険に入らないと、より良い老後は送れません」ではなく「地獄です」、「この化粧品を買わないと、より美しくなれません」ではなく「地獄です」。もはや社会は地獄であるという諦念がデフォなんですよ。

 つまり「恐怖心を煽り、消費を喚起する手法」は昔からあった。しかし今やクラスタから見放されてひとりぼっちになる恐怖や、苛烈さを増した社会で「より良く生きられない」どころか「生きられない」という地獄転落の恐怖を煽ってるわけで、まあ何と言うか、消費者として生きてるだけで、どんどん追い詰められていく時代なのです。

 「25歳になったら、もう女の子じゃない」「頑張っていることを顔に出すうちは、プロじゃない」と、何故だか知らないが、女であること/労働者であることすらも随分と高い資格試験が勝手に設置され、他にも「デキる男はスーツ姿もクール」とか「ファブリーズしなかった松岡修三が電車でクサイと睨まれる」とか、そういったものを乗り越えなきゃ現状維持すら許されないとなると、もはや消費者にして労働者で、男や女である我々は、安穏と生きることすらも困難であります。

 

 っていう話。

 件の化粧品CMについて「女性差別だ!」と怒ってる人は本当に差別に怒っているのか若干疑問だったりもする。自分で自分の気持ちを整理してみると、「英語ぐらいできないと、会社員として二流!」「簿記の知識もないくせに企業で働いてるの?」「男も女も、30歳すぎて賃貸住まいだなんて…」と言われた時のような「これ以上、私を、俺を、追い詰めるんじゃねーよ!」「こっちの勝手だろうがぁ!」「ああああああ!もう!東大出て、せっかく大手広告代理店に入った子まで追いつめられちゃってるし!もう勘弁して!」といった感覚に近いのではないか?

 個人的に、件のCMは差別性より脅迫性が拒否られたと思っている。

 

うんこ。

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コメント2件

すいません突然素朴な疑問が沸いてきたんですが、最近書き過ぎじゃないですか?
いや、なんか月100本書かないと立派なブロガーになれないらしいんで…
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