「子ども食堂」閉店に思うこと

 

<徳島とかいうところの、子ども食堂>

 これまで寡聞にして知らなかったのだが、海の向こうに徳島という県があるそうだ。これまで一般的には香川・高知・愛媛しか知られていなかった離島に四つ目の県があると知った時は、リビングストンもかくやと思われるほどの興奮に襲われたものだが、なんでも、すだちしか産出せず郷土の誇りは板東英二、住民は常に踊っているらしい。その踊りも高円寺のパクりだというのだから、本当に驚くべき県である。

 で、その徳島で、「子ども食堂」を開設・運営するという試みがあった。近年すこしずつ各地で普及してきているが、子どもたちに無料もしくは安価でメシを提供し、居場所を提供する試みだ。

 背景には、貧困やネグレクト等により、結構な数の子どもたちが「食ってない」と発覚した社会情勢がある。いま思わず「食ってない子どもたちの増加」と書こうとしたが、比較対象が無いというか、昔からおそらく存在したのだろうけれど目に見えなかったのだ。しかし貧困について調べる中、一見これといって問題なく見える子どもたちの中に、さまざまな事情により「食ってない子」がいることが分かったのだから、その子たちを支えようじゃないか、という話である。

 そもそも「貧困」ってのは「貧乏」とは違う。

 「4日後にバイト代が入るまで200円しかねーわー、ちっとメシおごってくれよ」と仲間と笑いあえる学生の「貧乏」と、「手元には僅か1000円、こんな生活がいつまで続くのか…」と悲嘆にくれる人が感じる「貧困」は性質が異なるので、数字だけでは判断しにくい。ましてや子どもの場合、極端な話をすれば「親父はベンツに乗り、母親はシャネルで全身を固めているが、子どもに満足なメシ与えることすらしてない」「おなかがすいたと言うと虐待される」みたいな事例すらあるので、外から見てもわかんねぇのよ。だから駆け込み寺のように「食える場所」「安心できる場所」を作ろう、というのが子ども食堂の(おおまかな)理念である。


<ヒト・モノ・カネ・場所>

 さて、子ども食堂を開設するにあたり、当然ながら必要になる物が「ヒト・モノ・カネ・場所」である。飲食店の開業となると信用金庫あたりから数百万円の資金をゲットして返済計画を立ててバイト雇って厨房機器を準備して、となる。


 この「ヒト・モノ・カネ・場所」について、件の「東新町子ども食堂」では商店街の制度(開業前に試験的営業できる制度。新規事業者を誘致して活性化を図る商店街などでは、こういうシステムがあったりする)を活用し、バーを居抜き状態で借り、有志のボランティアスタッフ10人ほどで挑戦したようだ。開業は週1回、運営するための資金や食材手配は善意の寄付などに頼る形。

 つまり、「ヒト・モノ・カネ・場所」は、手配できたのだ。これは大したもので、東京で同じことをやる苦労(店を開く場所を確保するのが大変!)を考えれば偉業である。また、たとえば地元農家から寄贈される野菜など県産品で食材を賄うなど、かなり理想的な形で運営出来ていた模様。

 が、しかし。

 別に倒産したとかそういうわけじゃないが、「このままでは運営困難である」と判断し、今年9月末の時点でいったん閉店するはこびとなったようだ。

   東新町子ども食堂閉店のお知らせ

はて、これはどうしたことだろう?




<飲食店と同じ悩みがあるらしい>

 閉店の判断に至る理由は、件の子ども食堂運営メンバーとして携わっていた森哲平さんの記事に詳しく書いてある。

 

  子ども食堂を失敗させる方法


 要するに飲食店と同様、マネジメントの難しさが原因である。

 まず「ヒト」の要素において、あれだけ完璧にシステム化された外食産業だって「バイト君が風邪で休みたいそうです」「うぎゃ~っ!店長である俺が休日潰してシフトに入るしかないか……」と地獄のような労働がある中、ボランティアスタッフ(つまり、ほかに本業がある中で時間をやりくりしている)だけでは人繰りが困難であったようだ。

 これはおそらく、誰か一人「専任」が必要である。あとはボランティアでもパートでも良いから、調理と運営(スタッフのシフト交渉含む)を仕事とする人がいれば大きく改善したはずだ。その給料をどうするかは「カネ」とからんでくるのだが…

 次に「モノ」の面において、均質化された品の安定供給、つまりマクドナルドやセントラルキッチン制のファミレスのような「1分15秒温めれば誰でも同じ料理を作れる」「Aを3センチに切り、Bを掛ければ完成」という形ではなかったため苦労があったとのこと。

 毎度、直前になるまで何が来るか分からない食材、それぞれ調理法が異なったり味付けが異なったりする料理だと、難易度が高い。

 これは「ヒト」の項と関わって来るのだが、チンパンジーでも同じ事が出来る程度にマニュアル化できない業態の場合、「腕のある人」でないと対応できないのだ。心意気に共感した高校生や、料理は苦手だけど応援したいと思ってるオッサン等は、「手伝いたいけど何も出来ない…」となり、人材確保の難易度があがる。100人で100kgの重荷を分担する方が10人で100kg背負うより楽なのだが、100人集められなくなってしまうのだ。




 そして「カネ」の面。

 森さんに転載許可をいただいたのでアップロードするが、このような入出金履歴であるようだ。



 寄付的な物はともかく、運営事業費としては毎回固定費が3000円で、フードコストが2000〜3000円。入ってくるお金(子ども100円・大人300円で食わせてた)が、2000〜4000円だったとのこと。

 これを普通の事業として見たとき「カンボジアの食堂かよ」って話である。利益率ではなく、動いてるカネのケタが小さすぎる。2000円使って3000円入って来るのと、20万使って25万入って来るのとでは、利益率は前者が大きいが利益自体は後者の方が大きいのだから、普通の経営では、そちらを目指す必要が出てくる。

 問題は、営利事業ではないと位置づけた時(実際、そうでなければタダで野菜くれる人も寄付する人もいないだろう)、単に千客万来で売り上げ伸びてバンザイバンザイという形には出来ない点。商店街にある他の飲食店にしてみたって、そこに毎回3000人の客が集まるなら「ウチの客を奪う商売敵め」としか見えないだろう。つまり「飲食店なのに、派手に客を集めまくって儲けまくる方針は憚られる(ダメとは言ってない)」という、非常に中途半端な状態になってしまうのだ。

 しかしながら、「専任」を1人手配するためのカネ、莫大な利益は要らないけど安定運営するための資金、これを捻出する程度の、月10万とかそのぐらいは何とかしたいところだ。


 最後に「場所」の件。

 GoogleMapなどで見る限り、おおむね、いい場所に見える。商店街の中でアクセスも良く、たとえばアパートの一室や怪しい雑居ビルの402号室まで来い、と言うのと違って、子どもでも大人でも入りやすい。

 ただ、車社会の地方部における駐車場需要に対応できないことと、子どもが来ることを前提とした内装(テーブルの高さなど。もともとバーなので“大人向け”のつくりになっていたようだ)になっていない点などがネックだった模様。また、本格的飲食店ではなくバーだったことから、コンロの数など調理環境もベストではなかったみたいだ。

 で、この辺はもう、「テーブル使わない」って方式がベストだった気がする。ゴザ敷いて、ちゃぶ台で食って、食い終わったら寝転がってもいいよという形。そうするとバー的な所よりも、極論すれば体育館のような、クラブのような、「だだっぴろいフロア」が良かったのかも知れない。もっと言えば河川敷とか公園とか。天候に左右されるけれど。


<食堂ではなく「メシつきの何か」など>

 これらは全て、果敢な試みを経て、すべてを公開されたからこそ語れる結果論であり、しかも具体的な処方箋があるわけではない。しかし社会的な意義のある取り組みだからこそ持続可能な形を考える必要がある。誰かが超人的な苦労を耐え忍ぶ形よりも、誰でも気軽に出来る形を模索したほうがいい。

 そもそも「子ども食堂」とは何なのか。

 メシを食う場所か、楽しく過ごす場所か、街を活性化させる店か、地産地消などを推進する場所か。おそらく全てだ。全てだけど、全てをやるのは難しい。メシだけなら屋台で良いかも知れないし、場所だけなら食い物を出さず「子どもルーム」でも良い。活性化ならイベントでも良いし、地産地消なら高い料金を取っても良い。それぞれ方向性の異なる目標を如何に成立させるか考えた時、なんとなくではあるが、駄菓子屋がそれに似ていたのだろうなと感じたりはする。


 放課後に30円持って行けば、お菓子を食べながら3時間は楽しめる場所。食うだけでもなく、遊ぶだけでもなく、なんとなく商店街も明るくなる。少し大きくなると500円持って、もんじゃ焼き屋に。あるいはサイゼリヤのミラノ風ドリアとドリンクバーで3時間。

 そういう「何か」が必要なのだが……これって、食堂以外からのアプローチもあるのではないだろうか。つまり「メシも食える公文式の教室」みたいな、あるいは「食事つきのリトルリーグ」みたいな……

 遊びにおいで、もしくは宿題の勉強ちょっと手伝うよ、メシも食えるよ、100円だよ。……なんかできそうな気がする。何ができるか分からんけど。



「東新町一丁目こども食堂」のエントリは非常に興味深かった。

これを機に様々なアイディアが生まれ実践されていくことを願う。



なお、通帳以外の画像はフリー素材です。

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コメント5件

あ、なんでも、「食堂ではない遊び場を用意して、そこで軽く食べることもできる」って形を模索してるそうです。そちらの方が子供も立ち寄りやすく、運営的にも色々(営業許可みたいな物とか)適しているようで。
おっしゃるとおりで、ゴザにちゃぶ台がベストなんだけど、もうそれがはばかられるような「衛生」上のあれこれのある場所だったんですよね。で、次の会場にしようとしてるのは、ゴザも何も、最初から和室。畳、襖。築50年の古民家ですらないオンボロ長屋で、意識してたわけではないですが、駄菓子を売ってます。というので、最初からそっちでやっていればよかったのだけど、まあ、人生、何事も回り道、ということで。
「商店街でやってます」というと、皆が顔をしかめるのも、徳島ってリビングストン、すごいと思いませんか?
衛生問題がある店舗を貸すとか、商店街への反応が微妙とか、なんか色々すごい。
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