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ボーカロイドの深淵を覗こう #38

こんにちは。ボカロが好きです。ボカロはいいぞ

 さて、「アンダーグラウンドボカロジャパン」「感性の反乱β」「POEMLOID」「VOCALOIDよれよれ曲リンク」「ボカイノセンス」の全曲周回を目指して感想を書いていくシリーズの38回目です。第一回はこちら一覧はこちら

 クレジットについて、概要などに表記がなければ作詞作曲を投稿者本人が行ったとして表記します。絵や動画については概要欄/タグ/動画内にクレジットがある場合のみ表記します。

 万が一ですが、クリエイター様御本人で自分の曲を紹介してほしくないということがありましたらご連絡ください。

 それと、このシリーズはあくまで「レビュー」ではなく、「私が聞いた印象録」として受け取ってくださるとありがたいです。聞いてみて全然違う印象でも、各々が各々の内奥に起きた情動を信じてください。そして自分の感動(それは言葉としての「感想」でなくてよい)を大切にしてください。

それではいきます。

0371. 豚と犬~まさに外道~ / 外道さん

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン / VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:外道さん
ボーカル:GUMI
投稿:2010/10/14

 動画とサウンドのクオリティのギャップがすごいGUMIによるテクノ。ミニマルな音型と刻まれたGUMIの声が繰り返されつつ、複雑に重なり合ってとてもかっこいいです。爆音で聞くと気持ちいい、中毒性のあるフレーズです。1:50頃からのハイハットで気持ちを高めつつ、元のフレーズに帰ってきつつそれまでのフレーズが重なり合う展開がクールで好きです。

0372. タンゴのための4人 / 少女P

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
原曲:Four for Tango pour Quatuor a Cordes(タンゴのための4人)
作曲:Ástor Pantaleón Piazzoll
編曲:少女P
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/10/23

 1921年~1992年のアルゼンチンの作曲家、ピアソラによる「タンゴのための4人」という弦楽四重奏曲のミクアカペラアレンジです。ピアソラが追及したタンゴのエッセンスがとてもよくあらわあれています。弦楽四重奏をミク4人で再現していますが、弦楽器の様々な奏法が声だけで再現されており、改めてVOCALOIDの可能性を思い知らされます。「キュイッ」という弦楽器らしい音などがすごいです。ミクだけで弦楽四重奏としての美しさを保存しつつ、新たな価値を提示しているように感じます。

0373. 腐る / salome

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:salome
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/10/23

 大福Pによるネガティブな感情を具現化した曲のコンピレーション企画(今でいう投稿祭ですね)に投稿された曲です。
 「食べ物が腐る」というマイナスな現象を童謡のようにそのまま伝えます。その後「わたしが腐る」と現象が自己と重なり合わさった時のある種の絶望的な解放感がサウンドとなって広がります。とても美しい響きながら確かに憂いを湛えています。最後のブツ切れな終止もまた、やりきれない感情の袋小路のように感じます。美しさと絶望が同時に感じる曲です。

0374. まよなかにおはよう / ARuFa

タグ:感性の反乱β
作詞・作曲:ARuFa
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/10/24

 ARuFaさんのクリエイティビティが十全に発揮している曲ですね。ARuFaさんのTwitterのアイコンは今でもこれですね。もともと個人的に大好きな曲です(100選)。
 まず「寝れない夜の一周回った覚醒」を「まよなかにおはよう」と表現するのがとても楽し気ながらどこか陰を感じさせるようで好きです。
 サウンドもとても好きで、テクノな疾走感が、夜に起きてしまった気の逸りや、寝なきゃという焦燥、あるいはお得だ!というワクワク感を多重に感じさせます。
 MVはさすがARuFaさんというに尽きる、アイデアの連続で感服します。最後は「アアアアアア」だけで表現するのも好きです。

0375. あいの茶番劇場 / タタタタP

タグ:VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:タタタタP
ボーカル:ガチャッポイド / 初音ミク / 開発コードmiki
投稿:2010/10/25

 ほとんどでガチャッポイドと初音ミクと開発コードmikiの声で作られた曲。曲の内容は謎展開ですが、声で作られたサウンドがとても癖になります。音の止め方、重ね方が好きです。全部の音を止めるタイミングやリバーブのバランスがうまくきれいです。現在ではあまり見ない三人組ですが、三人の声の重なりがそれぞれ独自の音域できれいです。

0376. 家庭科倶楽部の幽霊部員 / 不和P

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:不和P
ボーカル:歌愛ユキ / ガチャッポイド / KAITO
投稿:2010/10/25

 お菓子P主催の歌愛ユキ曲投稿企画「かぁいぃユキまちゅり」参加(遅刻)曲です。ユキが理科室でアブない呪術的なことをしています。KAITOのコーラスがいい不気味さをプラスしているように感じます。
 呪術が成功したかはわからないままミステリアスに終わります。
 サウンドは低音が強く出ていて不気味さにとても合っています。理科室というテーマもユキのあどけなさの中にダークさを感じる独特の雰囲気にとても合っています。

0377. カース・オブ・お前ら / 問題児P

タグ:VOCALOIDよれよれ曲リンク
作詞・作曲:問題児P
ボーカル:巡音ルカ
投稿:2010/10/30

 とんでもなく音量注意! な曲。ポップな音やとんでもないノイズ、「エリーゼのために」などいろいろな音がサンプリングされ予測不能です。しかしメインとなるノイジーなフレーズをよく聞くとなかなかキャッチーナフレーズをしていて慣れると癖になります。歌詞もまるで自動書記のように意味不明な内容でそれが、不安定なサウンドと相まって感情をサスペンドするような面白さがあります。

0378. ツギハギツギハギ / スタッフロールP

タグ:感性の反乱β
作詞・作曲:スタッフロールP
ボーカル:初音ミク・KAITO
投稿:2010/10/31

 「ツギハギ」の名前の通り、一音ずつ初音ミクとKAITOが交互に歌う面白く独特の試みをしています。高速で入れ替わりノイズのようになりながらも、重なり合ったようなここでしか聞かないような面白い音が鳴っています。それ以外のサウンドもガチャガチャしつつ面白い音が疾走感を以って繰り出されて気持ちがいいです。後半の不意打ちにも注目です。

0379. 旅に出ようか / AIR田F

タグ:感性の反乱β
作詞・作曲:AIR田F
ボーカル:AquesTone
投稿:2010/11/1

 AquesToneによる素朴なメロディーとそれに合わさった環境音も含んだシンプルなピアノメロディから始まる曲です。そこから静かにしかし力強く「疲れた歌を聴くよ 糞だね歌が死ぬよ」と宣言し、非常に開けたバンドサウンドともに高らかに歌います。
 閉塞的な曲を批判し、「旅に出ようか 勇気はいらない 心一つで十分でしょ?」と歌い上げる様は、寺山修司の『書を捨てよ、街へ出よう』の様です。優し気な、しかしノイズの乗ったアウトロもまた、ノスタルジーと寂寞の狭間をすり抜けていくかのようでとても美しいです。

0380. 道の果てに / P-chick(蛸壺P)

タグ:アンダーグラウンドボカロジャパン
作詞・作曲:P-chick(蛸壺P)
イラスト:時田
アニメーション化:こんぺいとうP
ボーカル:初音ミク
投稿:2010/11/2

ダークなミクによるエレクトロです。同時に高速で歌詞をつぶやくように繰り返していてヒップホップ感もあります。VOCALOIDのヒップホップ、いわゆるミックホップとしてはかなり先駆的な試みだと思います。
「こんな終わりにしたくはなかったこんな最後にしたくはなかった」「道の終わりに道の果てでは」と言っているようです(投稿者コメント)。そこに伝わる悔恨と鬱屈が途中に挿入される荒ぶるパートなどでも表されているように思います。途中で鳴っているピアノもまたダークな雰囲気を醸し出していて好きです。
 すべての音がコンパクトにまとまりつつ全体で一つの世界になっていてとても好きです。


今回はここまで!

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周回の中で特に気に入った曲をマイリストに入れておきます



日記:2022/10/14

お久しぶりです……忘れてない!忘れてないです!!

ボカコレ!! お疲れさまでした!!
投稿者の皆様、全曲チェッカーをはじめあらゆる方法でボカコレを楽しんだ皆様、運営の皆様、お疲れさまでした!!

毎度毎度過去最大の投稿を更新し続けていてそろそろ恐ろしさすら感じるようにすらなってきましたが……

 その巨大さによって生まれつつある歪みも若干見え隠れしだしている気がしますが、まぁ、運営その他各位が考えていきましょう。

 それよりも、個人的にびっくりしたのがボカコレに投稿され、TOPランキングで3位となった椎乃味醂さんの「知っちゃった」という曲!

前回の記事で私はこのように書いています。

 個人的には思弁的実在論(オブジェクト指向実在論Object Oriented Ontology(OOO))とかの曲も作ってくれないかなと密かに願っています。

 そして、この「知っちゃった」、一聴して確信しましたが、間違いなく思弁的実在論の話をしています。いや~~~驚いた。
 思弁的実在論は大きなくくりで4つの派閥があるのですが、この曲の内容はおそらく、その4つの内の「思弁的唯物論」に依拠したものと思われ、残念ながら同じく4つの内の「オブジェクト指向実在論」ではなさそうです。とはいえ……そんなことあります!?

「思弁的実在論の曲が聞きたい」などというこの世で私しか願っていなかったであろう願いが叶ってしましました。

というわけで、投稿されて3時間で書いた、Kiiteの怪文書をこちらにも載せます。例によってあくまで怪文書ですので、内容は話半分でお願いします。

知っちゃった / 椎乃味醂

【思弁性のゲーミフィケーション、と化した思考。自問自答、大概、正気の沙汰でない状態。】

 現代を取り巻く思想的人種的政治的分断、パンデミック、錯綜する紛争の中で陰謀論は急速に膾炙した。

 【超常現象を対象とした逆相の創造】及びその流布はゲーミフィケーションと呼ばれる構造を持つ。これはある事象に対して、複雑性を嫌い【分かりやすい構造を求め】る者が、無数の散らばる情報を集めて一つの明快な真実(と見せかけた陰謀)に辿り着くという、信者が同時に陰謀の創造者にもなる参加型構造である。

 この構造では責任の所在が不明の【死んだディスクール】=言明だけが独り歩きし、【超身勝手な解釈で妄想】が【権威性のある文系的意味論】を以て拡散されてしまう。


【カント以降の相関主義では例えば、相関の外部の実在を肯定する、一種のイデオロギーに対して、有効かつ不可逆的な反駁ができません。】

 物自体は認識できずア・プリオリな形式認識とア・ポステリオリな判断の思惟の統合によって対象を直感するとしたカントの認識論は、それ以前の主体と客体の関係にコペルニクス的転回ともいわれる転倒を起こした。

 その後フィヒテらはこれを批判的発展させ、主観と客観を切り離して考えることはできず、私たちが思考と存在の一方のみにアクセスするとはできないとする「相関主義」を展開した。この思想はフッサールやハイデガーら現象学や分析哲学など20世紀の思想の根底となっている。

 相関主義においてはこうした陰謀論も存在として切り離すことができない。さらにはそうした思想に対して【シニシズムに至ることもまた、非合理の裏返しであって】、社会と自己の相関に絡めとられてしまう。相関の外部の実在を肯定することは「私は噓をついている」という言明と同じく語用論的矛盾を孕んでしまう。こうして自己に相関された【この社会の一部がもう、死んじゃった】のである。

 デリダ以降、ハーマン、メイヤスー、グラント、ブラシエによるワークショップを端緒とする思弁的実在論は各々が別々の方向性で模索しつつ、相関主義からの脱却を目指す現代哲学の大きな潮流となっている。例えばメイヤスーは『有限性の後で』で「一次性質と二次性質についての理論(…)を立て直す時がきた」としてデカルトまで遡って思弁的唯物論を展開している。

 思弁的実在論はまだ不完全な点も多い。しかしいずれ機能不全に陥った社会の次の根本原理となり新たな希望となることを願う。


 というわけでいかがでしたか?!(この締め方を使うことになるとは……) 思うに、本曲は社会に巻き起こっている機能不全を分析しつつ、その社会が依拠している通奏低音的な根本原理である相関主義の誤謬を示し、それからの超克を目指す思弁的唯物論をリファレンスしていると考えます。

 もし興味があれば、ひとまず、思弁的実在論の最重要の中心人物であり、オブジェクト指向実在論を提唱している、グレアム・ハーマンによる思弁的実在論全体の概観をつかんだ本がありますので、こちらをお勧めします。

 また、青土社の『現代思想』においても、何度か思弁的実在論の論考が掲載されています。

 ハーマンの本(=オブジェクト指向実在論)については幾ばくか読んでいますが、思弁的唯物論については実は私もそこまで詳しくないです。
 思弁的唯物論の嚆矢となったメイヤスーの主著といえば『有限性の後で』ですが、難解で私は投げ出しています。そろそろ熟している気もするのでリベンジしたいです。

 残りのブラシエ、グラントについては上述の『思弁的実在論入門』の内容しか把握していません。しっかり学んでいきたいです。


 とはいえ、なんとこんな言った側から叶ってしまうとは……こんなチラシの裏をご本人様が見ているわけないと思うので<私>という世界-内に光輝のように表れ出でてきたことに大感謝です(←ハイデガー的現象学的解釈)(←相関主義に囚われている)

 もし次の題材を願うなら…………………………………………ベルクソンの『時間と自由』とか如何でしょう?

 それでは!


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