1月ボカロ10選(+雑記:歌詞について)

こんにちは、ボカロが好きです。ボカロはいいぞ。

いそがしくて全然かけませんでした。2月も下旬ですが、1月のボカロ10選の紹介です。

例によって音楽的な知識は全然ないのでフィーリングです。オールチェッカーには程遠いのでおすすめの曲は教えて下さい!

1月ボカロ10選

あたらしいひかり / nekopidem

新年の始まりにふさわしいような未来を想起させるようなタイトルと、テトのアカペラから始まる瑞々しい歌い出しが好きです。
そこからカットアップされる歌声の断片から「あたらしいひかり」と明確な言葉がより際立って先を見通すような魅力がとても良かったです


酩酊東京 / 濡羽色

「VOCALOIDよれよれ曲リンク」タグの可不というのは珍しい気がしますが、可不の声というよりは、名前の通り酩酊したような曲そのものの持つよれよれした雰囲気に付されているのでしょうか。その雰囲気がとても良いです。

酩酊、東京には何もなかった
寒空の下
万引きしたコード、夜更かし気味な声でなぞった。

「万引きしたコード」という表現がとても好きです。ある意味で没個性的な音楽にこそ、「人を殺した」ような気の逸る酩酊した夜には効くのかもしれません


行き場をなくしたこどもたち / 電ǂ鯨

狂った遊園地のような、ホラーテイストのワンダーランド的旋律がとても好きです。
内容的にはネグレクトされた子供たちが飢えて死んでいく様子でしょうか。
底抜けの明るさは恐怖をより鮮明に際立たせ狂気的な世界観にとても惹き込まれます


はいはい / 青屋夏生

「日記」「娯楽」「ジョーク」など青屋夏生さんの歌詞がとても好きです。
なかでも新曲であるこの曲の歌詞がとても沁み入りました。

いいこ いいこ あんよが じょうず
転びそうな所は 手を引くから
一歩 一歩 大地を踏みしめ
前に進むの
疲れて 伏せって

人間の過ち、辛くて倒れてしまいそうなことを「はいはい」に重ね合わせ人間の営みとして肯定するような歌詞に救われました。
映像もとても美しく引き込まれます。人間の負の営みを映像として見ながらだと、「それでも」というこの曲の気持ちがより際立つように思います。


Roundelay / phantom97

チリのボカロPによる英語ルカ曲です。
エレクトロサウンドと英語ルカの親和性は異常。

バブル的なレトロダンサブルな曲調もとても好きです。夜の高速道路で聞きたい。


まゆごもり / ど~ぱみん

ダークで耽美な雰囲気がとても好きです。

繭から滴る愛を
舐めとってあげたいの
苦くて切ない最期
ぐっちゃぐちゃにしたいの

退廃的な狂愛が歌詞の面でもサウンドの面でもとても良いです。
ジャジーな雰囲気もあり、それもまた狂気を際立たせてくれているように思います。


死んでるカノジョは、地べたに落ちたアイスのようでした。 / 蔭拍子

爽やかな曲調と対象的な陰鬱として内容が対比的に鮮明な曲です。
音の抜き方とそれによって効果的な歌詞の重さがとても素敵です。

非ボーカロイドのアーティストで例を挙げれば、amazarashiのような、メランコリックながらも逆に救いになってくれるような心に染み入る曲です。

バリアシエラ / 吉田夜世

EDMがテーマだったプロセカNEXT投稿曲です。
惜しくも採用はされませんでしたが、スタイリッシュな歌詞入りから一気にテンションを上げるイントロがかっこよくて好きです。

EDMらしい疾走感とカットアップされたミクさんの声がとても良いです。

A / はるふり

はるふりさんによる重音テトの曲です。タイトル、投稿時間、内容からも椎名もたさんの「Q」へのアンサーソングでしょう。

「今」の忘れ方を
この歌のさ 答えを
明日の歩き方を
僕達に教えてよ

「Q」椎名もた feat. 鏡音リン

「Q」ではこのように歌われています。これに対して「A」では、

きっとこのまま僕たちは
明日も見えないまま歩いていくんだ
きっとこのまま僕たちは
感情も知らないまま抱きしめていくんだ
あの歌の答えを 僕らの一秒を綴っていく

「A」はるふり feat. 重音テト

Qに答えを出すわけではなく答えを知らないまま歩み続けるという決意にぐっときます。

『夜と霧』を著したフランクルが、人生の意味を「意味への意志」と表現し、問われ続ける人生の意味に答え続けることそのものを生きる意味と説いていたのを思い出しました。

「Q」の答えのない疑問を胸にいだきながら私も生きていきたいです

ポストシェルター / 稲葉曇

大好きな稲葉曇さんの新曲ですが、今作は特に歌詞がとても好きです。

春が終わる頃に
迷い込んだ森の中で
赤いポストを目印にして

夏が終わる頃に
余白隙間だらけの
湿ったあたしを拾うのはあなた
・・・
秋が終わる頃に
迷い込んだ森の中の
古いポストは満杯になって

冬が終わる頃に
誰かに貰ったペンで
湿ったあたしを撫でるのもあなた

「ポストシェルター」稲葉曇 feat. 弦巻マキ

静謐な森の中の時間の流れと、そのしずけさ、透明感がとても好きです。

この曲を聞いて江國香織さんの『すみれの花の砂糖づけ』という詩集を思い出しました。とても静かでそれでいて力強く、憂いや悲しみ、怒り喜び、愛が表現されている大好きな詩集です。

そんなような静かな、それでいて確かな森とそこで人を待つ手紙の鼓動が感じられるこの曲の詩が大好きです。


雑記

・音楽において「音」と「歌詞」の関係性についてこのところ考えていました。

・1月にピエール・ルベルディの『魂の不滅なる白い砂漠 詩と評論』という本を読みました。

・ルヴェルディは20世紀にフランスで活躍した詩人で、シュルレアリスムの先駆的存在として知られています。彼が評論で次のように語っています。

 詩はただの精神の遊戯ではない。詩人が書くのは自分が楽しむためでもなければ何らかの観客を楽しませるためでもない。詩人を不安にさせるのは彼の魂であり、全ての障害物をこえて魂を感知できる外部世界へと結びつけている関係性だ。
 詩人を創造へと駆り立てるもの、それは自らをよりよく知りたい、自らの内的な力を絶えず計りたいという欲望であり、彼の頭と胸にあまりにも重くのしかかるあの塊を自分の眼前にさらけ出したいという暗い欲求だ。というのも、詩は、表面的に最も平静を装ったものであれ、魂の真のドラマであり、その深みでおこる悲壮な行動なのだ。詩人は一人の潜水夫である。彼の意識のもっとも内密な深みに至高の素材を求め、それを彼の手が明るみまでもたらすときに結晶化するのだ

ピエール・ルヴェルディ『魂の不滅なる白い砂漠 詩と評論』(太字は私によるもの)
平林通洋・山口孝行 訳, 幻戯書房, 2021, p.119

・また、ドイツの哲学者ショーペンハウアーは、意志の表象である世界に対して音楽という存在の意義を次のように論じています。

ところが音楽となると、イデアをとびこえてしまうものだから、音楽は現象するこの世界からさえ完全に独立し、端的に言って現象する世界を無視しているのであって、たとえこの世界がぜんぜん存在しないとしても、音楽だけはある程度まで存在しうるとも考えられるほどなのである。こんなことは他の芸術についてはけっして言えないことなのだ。というのも音楽は、意志全体の直接の客観化であり、模写なのであって、音楽はこの直接という点にかけては世界を形成しているあの数々のイデアの模写なのではない。それは意志それ自身の模写なのであり、イデアはこの意志の客体性でもあるのである。音楽の与える効果がほかの芸術の与える効果よりも格段に強力であり、またはるかにしみ入るように感動的であるというのもまさに音楽が意志それ自身の模写であるせいにほかならないのである。ほかの芸術は影について語っているだけだが、音楽は本質について語っている。

ショーペンハウアー『意志と表象としての世界 Ⅱ』第52節(太字は私によるもの)
西尾幹二 訳, 中公クラシックス, 2018(第8版), p.208

・絵画や舞踏、詩などの他の芸術は、意志の表象としての世界のなかの数多性を持ったイデアのひとつひとつ、つまり現象の模倣として存在している。しかし、音楽は意志全体、すなわち世界そのものを表現することができる、ということらしい。

・音楽と他の芸術でどれが価値として優れているかを考えるつもりにはなりませんが、たしかに絵画などがあるていど高尚な趣味に止まっている(アニメやマンガも含めればそうではないが)気がします。対して音楽が商業的にも最も浸透した娯楽として親しまれているのは事実でしょう。その理由が、最もその作曲者の主体の表象を表現できるからかと言われたらわかりませんが。

・この2つを併せて考えるなら、「歌」とは「音」で作者の意志の表象たる世界を伝え、その内奥たる意志そのもの「歌詞」で伝えるものと言えるかもしれません。

・ことボーカロイドにおいてはこの微妙な差異が面白く際立つように思います。初音ミクを始めとするバーチャル・シンガーは人とは似て非なるものでありながら、詩を仮託され紡ぐことができます。
 ただ人に自分の曲を提供するのではなく、バーチャル・シンガーに託すというのは、より、自分の意志を世界に預けているような印象を受けます。

・つまり、自分の意志を表象する世界、そこに生じる<私>の意志を今一度接近させ、融合する仲介者としてバーチャル・シンガーは人間よりも機能できるのではないかと思っています。

・なにかのインタビューでDECO*27さんだったと思いますが、「人ではないからこそ初音ミクに思いを託すと純粋によく届く」というような旨のことを言っていた気がします。それはつまり、自分の意志を自分からではなく世界から投げかけるということを初音ミクが可能にしていると言えるかもしれません。そしてそれが、バーチャル・シンガーの存在理由なのかもしれないし、ボカロ曲がボカロ曲として価値を持つところかもしれません。

・以上、わけのわからないまとまりのない話でした。結論はありません。考えていきたい。


・1月末の土曜と日曜の二公演「セカライ」に行ってきました。

・これは別の記事で感想にしたい。もう一ヶ月経ちそうだけど……なるべく早めにします。


・今週はMIKU BREAK1.0があります。とても楽しみです。プロセカでより現実と接続したミクさんの最後の次元を突破できるのはMIKU BREAKかもしれない。

・それでは2月も残り一週間ですが、頑張っていきましょう。


備忘録

【1月に読んだ本】
・ピエール・ルヴェルディ『魂の不滅なる白い砂漠 詩と評論』
・ヴィクトール・フランクル『夜と霧』
・スティーブン・ピンカー『思考する言語(上)』


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