裁判官は弾劾できても不信任はできない

最近は、正論を振りかざして正義を貫こうとする輩が多くて、
ちょっとしたことに対して総攻撃をする傾向にあるのですね。

それだけ実生活ではものが言えないのでしょうね。
だから、匿名の世界でそうやって自分を主張するのでしょう。

とても残念な話を耳にしたのは先ほどのことで、
名古屋地裁の裁判官に対する罷免要求を行う署名活動が展開されていると。

ツィッター乗っ取られた父親の娘への性行為に無罪判決を出した名古屋地裁裁判長の罷免を! (Change.org)

事件の詳細や判決内容を詳細に理解しているわけではないですが、
私以上に何も知らない人たちが感情的に行っている行動で、
この署名に賛同することは、自分が無知で愚かだと言っているようなもの。

こんなものに賛同するのはやめましょう。

まず、裁判官に対する弾劾裁判権は国会が持っているわけですが、
裁判官訴追委員会が訴追した場合、その弾劾裁判が開かれるわけです。

そして、その裁判官訴追委員会に国民が訴えることができるので、
罷免の要求を国民が行うこと自体は何らおかしいことではありません。

ただ、弾劾裁判とは、裁判官の職務上の失敗を責めるためのものではなく、
人として裁判官たるべきでない場合に、罷免をするためのものです。

裁判官弾劾法の2条には、
 1.職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。
 2.その他職務の内外を問わず、
   裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。
に弾劾できるとあるのです。

今回の判決が意図的にゆがめられたのであれば弾劾の対象でしょうが、
判断が気に食わないから、というのは弾劾の対象にはなりません。

裁判官には「裁判官の独立」が認められており、
事実認定や証拠評価については裁判官の自由な判断に委ねられていて、
そのことを「自由心証主義」といいます。

裁判官は、良心に従って独立して職務を行うことが憲法で求められていて、
個々の判断に対して、他が干渉することは認められません。

それは、他の上司の裁判官や上級裁判所、最高裁判所もその通りで、
いちいち判決内容に干渉していいとなるのなら、
判決が誤った方向にゆがめられる危険があります。

また、もし判断が誤っていたとしても、第2審で判決が変更されたり、
第1審の判決を破棄して差戻し、もう一度裁判をやり直すこともできます。

ただ、あくまでも、できるのは判決の変更や審理のやり直しであって、
裁判官の罷免ではありません。

一方では、派遣切りがどうのとか、働き方改革なんて言っているくせに、
平気で人の首を切ろうとする言動にも理解ができません。

もし、この判決は高裁でも最高裁でも支持されて、
それでも納得がいかないというなら、
その最高裁判所の裁判官を国民審査で不信任にしてください。

そもそもそういう制度があることを知っていますか?
今まできちんと投票していますか?

そんなことも知らずに、知ろうともせずに、
ただTLに流れてきた情報に安易に乗っかって署名するんですか?

事件内容の詳細は把握していませんが、
今回の無罪判決は「準強制性交(準強姦)」に対するものですよね。

強制性交(強姦)と準強制性交(準強姦)の違いはわかっているのか、
今回の無罪判決の理由がどのように説明されているのか、
それらについても理解されているのでしょうか?

何も理解していないままに署名活動に賛同し、
もし、それで一人の人生を壊したとして、責任が取れるのですか?

そんな覚悟もないくせに、簡単に署名なんてするもんじゃありません。

※追記
この事件については、2020年3月に控訴審で有罪判決が出されました。
だからといって、裁判官の弾劾請求が妥当ということではありません。
判決が破棄される=弾劾が妥当となるのであれば、
何人の裁判官が弾劾されることになるでしょうか。
司法権の独立(裁判官の独立)についてしっかり考えてください。

※※追記
自分が同じ目に遭っても抗議しないのか、という趣旨の意見を頂きました。
裁判官が買収などの不正を行っていない限り、
裁判官を責めることはないでしょう。
法律の不備があるなら国会に、違法な捜査があれば検察や警察に、
へりくつを並べ立てた弁護士に対してならあるかもしれません。
そもそも、今回は無罪判決を出したのであり、有罪判決ではありません。
冤罪生み出したならともかく、「疑わしきは被告人の利益に」です。
そのあたりも考慮していただきたく存じます。