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詩 昨日(2002年)

乾いた冷気が地上の水気を蒸発させて
過ぎ去っていく無数の鏡像が 
干上がった大地に亀裂を生みだす
いくつもの幻によって追放された舞台俳優が
開けた深みの果てない闇を 往くあてもなしに歩き回っている

左手に残った憎しみを
白い浅瀬に置き去りにして
引き離された上空の 黒い水底に沈んだ左手は
過去の中から激流の音楽を再生させながら
気化された命令のように みるものすべてに拡散して
彼を鉄枷の嵌められた生き物に変えてしまった

昨日は 世界で最も高いところで分解した虹色のなか
水のような天空をたちのぼっていく 刃のついた言葉たちのなかで
とめどない破裂を繰り返しながら 
浮き上がっていく泡たちのなかで その息を失う

河の水が乾涸びた後で
白い轟音が 一陣の風となって吹きすさぶ
足首を包み込む褐色の土埃 
蒼穹の高みから地上に下りてくる見えない砂嵐 つかの間の安らぎ
そういったものすべてに脚をとられながら彼は歩く
黒い沈黙を放射しながら耀く陽光が その魂を幾重にも印刷していく
分裂によって外在化されたまなざしがそれを見つめる

彼の感情は2重に名づけられたまま風景の中に展示されている
墜落の中に飛び去っていく鳥たちのはばたきがそこでは聴こえる
展示されている風景すべてが 
生きているものたちすべての美しい屍骸に 変わっていたのを彼は見る
てのひらよりもささやかな崩落のように 
灰色の壁から引き剥がされて 見知らぬ奈落へ落ちていたのを彼は見る
 
消えてしまった水面に 彼は自分の声を聴く 
視えない瞳に録音された 肉から離れた歌を聴く
彼は誰だったのか どこへ行ったのか


(2002年 その後推敲)

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