シカゴにミースの建築を見に行く (レイク・ショア・ドライブ・アパートメント)

アメリカ赴任から約2ヶ月、ふと建築を見たいと思い立ち、シカゴに行ってみることにした。特に深い理由はなく、なんとなく大都市で、住んでいるところから遠くなさそう、というだけだ。

とはいっても、シカゴはアメリカ近代建築史のキーストーンだ。現代に繋がる高層ビルの歴史はここから始まったわけだし、巨匠F.L.ライトの作品もゴロゴロしている。とても限られた時間で全てを見て廻ることはできない。ちょっと悩んだ末、シカゴに多くの作品を残したもう一人の巨匠、ミース・ファン・デル・ローエの実作をいくつか訪ねてみる事にした。

ミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe / 1886-1969)はドイツ生まれの建築家。一旦はバウハウスの校長を任じたものの、ナチスに追われアメリカに亡命。アメリカではイリノイ工科大学の教授としてキャンパス計画を行い実際に多くの校舎を手がけるほか、ニューヨークにかの有名なオフィス・シーグラム・ビル(Seagram Building / 1958)を設計。「Less Is More」を旗印に、絶対零度といえる厳格なモダニズムの作品を世に残し、ル・コルビュジェ、フランク・ロイド・ライト、ワルター・グロピウスに並ぶ近代建築の巨匠と呼ばれる・・・というのがよく知られた経歴だ。

860-880 レイクショア・ドライブ (860-880 Lake Shore Drive)、またの名をレイクショア・ドライブ・アパートメント(Lake Shore Drive Apartment)は1951年竣工。アメリカへの亡命約10年後の作品だが、イリノイ工科大学のキャンパスを除けば比較的早い段階の実作だ。

その名前の通り、この建築はアメリカ五大湖のひとつ、ミシガン湖のほとりに建っている(正確にいうとミシガン湖沿いを走るLake Shore Driveというハイウェイに沿って建っている)。シカゴ中心部のやや北、すぐ近くには100階建ての超高層ビル、ジョン・ハンコックセンター(設計 SOM / ファズラー・カーンFazlur Kahn)がある。

見にいった時、シカゴは生憎の風雨。ちょっとした海としか思えないミシガン湖は大シケ。それでも健気に湖畔でランニングに勤しむアメリカンな人々が印象的だった。

湖畔からはよく外装が見えた。白と黒の立体格子は、竣工70年近く建った今でも存在感がある。よくよく見るとその構成は結構複雑で、
1)鉄骨を被覆したコンクリートのメインフレーム
2)縦方向に走るH鋼のマリオン
3)アルミサッシの外フレーム
4)アルミサッシの中間無目
と強弱をつけた要素が織物のように並んでいる。ついでに述べると窓ガラスの幅も、スパン中央の2枚と柱際の2枚で微妙に違っていて、「Less is More」という言葉に簡単に騙されちゃいけない変化に富んだ構成だ。

警備の目を気にしながら、恐る恐る敷地に入ってみる。1階のガラススクリーンがセットバックして、ピロティとプラザの空間が広がっている。床はエントランスから連続したトラバーチン。耐久性と品質リスク(と、もちろんコスト)を気にしなければならない今の日本ではまず出来ない外構仕上げだ。柱の寸法は約560mm角。これも高層マンションとしてはどう考えても細い。

プラザに立つと、この細い柱や、2つの棟を掛け渡した庇の間から、奥の風景が見える。ただ「見える」というより、柱や庇が視線を「誘っている」ような感じだ。なんかこの感じに覚えがあるな、と思ったら、京都の上賀茂神社に行ったときも似たような体験をした。あの時は、建築の向こうには山と緑が広がっていたが、今度は湖だ。この手の透き通った半外部空間は欧米にはないと思っていたから、少し驚きだった。ミースがこれを設計するとき、日本から影響を受けていたかどうかは知らない。

雨に打たれながら写真を撮っていたら、ひとりのご婦人が声を掛けてきた。住人の方らしい。怒られるのかな、と思っていたら親切に色々なことを教えてくれた。なんでも旦那様が建築家なのだそうだ(このマンションには数多の建築家が住んでいるという噂は確かによく聞く)。

このマンションのプランは全室角部屋、そして窓は全てフルハイト(床から天井まで)なので、眺望は最高とのこと。人によっては2部屋分を繋げて贅沢に使っているらしい。さすがに上まではあげてもらえなかったけど、ロビーの中を見させてもらうことができた。

失礼を承知で、「この建物に住んでいて困ることはないですか?」と尋ねてみた。すると、「エレベーターと駐車場が少ない・犬が不可(外に出ないから他のペットはいいらしい)・部屋にランドリースペースがない(2階にまとまったランドリーコーナーがある)」とのこと。

そして一言、「この建築に住むには愛が必要よ」と。絶対零度のモダニズムに愛とはなんとも似つかわしくないなと思いつつも、快活に語る彼女の様子はどこか誇らしげで、印象的だった。

#建築 #デザイン

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kezama

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