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「チケット転売はダメ!」な理由を改めて考察してみた

近年、ライブ・エンタメ市場の興隆とインターネット・スマホの定着化とともにチケット二次流通サービスが急成長。人気チケットが転売を目的とする「転売ヤー」により買い占められ、チケット二次流通サービスで高値で取引される「転売問題」が注目を集めた末に最大手のチケットキャンプが閉鎖に追い込まれたり、不正転売防止法案が成立するに至っています。

私は基本的には若手IT業界の人間の大勢を占める「市場の原理に従うべき」という論者なのですが、ことチケットに関しては明確に「転売は必ず防止しなければならない」と結論付けています。逆に「市場の原理に従って転売OKにするべし」という論に対しては「古くない?」という印象を持っています
本稿ではこの「転売問題」をテーマに、チケットの現状と未来に対する私なりの考察を書いてみたいと思います。

「観客の姿勢」が興行の質を左右する時代に

ライブに於ける演者と観客の関係性や観客が持つライブに対する期待値は時代の変遷と共に大きく変化しています。
「芸術として生演奏を楽しむ」という意味でのライブは社交界のBGMや飲食店の盛り上げ要素として15世紀ごろから始まり、オーケストラのような演者の音に集中して音楽を聴くような「演者対観客」という構図のライブは比較的最近、19世紀に入ってから成立したと言われています。このような音楽以外を可能な限りシャットアウトする「集中的聴取」は、音響技術や複製技術などの発展とともに急速に規模を拡張し、90年代後半には数万人を動員するイベントが乱立するまでに成長しました。

 しかし近年この構造は徐々に変化を遂げています。明らかな転換点となったのは90年代後半のフェスの登場。社会学的に「周辺的聴取」と呼ばれるのですが、「音楽を楽しもう」という姿勢から「ノリを楽しもう」という形に変化していきました。恐らく多くのライブファンの方が実感あると思うのですが、最近のライブは音は二の次で「周りが盛り上がってるか、どれくらいノレたか」で満足度が変わるのです。また、どうやったらノレるかという観点では社会学者の小川博司氏が「ノッてから立つのではなく、ノルために立つのである」と述べているように、演奏や企画の質以上に「観客の姿勢」が重要な要因となっているものと推測されます。

つまり、近年のライブでは興行品質を高めるためには「如何に観客のライブに臨む姿勢をコントロールできるか」という観点を持たなければならないというわけです。

チケット価格は「観客の姿勢」に大きな影響を与える

チケット価格が「観客の姿勢」与える影響は小さくありません。
少し違うところではありますが、似たような例でいうと、よく香水の中身は高級ブランドでも安いブランド大して変わらないと言われています。にも関わらず、「CHANELの5万円の香水です」と言われたものと「雑貨店で買ってきた1000円の香水です」と言われたものは、香りを嗅ぐとどうしてもCHANELのほうが「高貴な香りがする」と思ってしまいがちです。
この現象、認知心理学的には「認知的不協和」と呼ばれており、価格がお客さんの商品の品質に対する認知に大きく影響することは広く知られています。

チケット価格でも似たような現象があります。

例えば「テイラー・スウィフトが来日!2万円です」と言われたら高いなぁ、と思いつつもきっと素晴らしい公演なんだろうって思ってワクワクドキドキで向かう一方で、「テイラー・スウィフトが来日!今なら3000円!」って言われたらなんか売れてないのかな、って気持ちで行く気が失せるというか、行ってもなんか3000円の割にはよかったね、くらいの満足度しか得られないのではないでしょうか。

逆のケースを考察します。「ソーラン節のイベント。5000円です」と言われたら「どんなすごい演技見せてくれるんだろうか」となんとなく受け身な姿勢になってイマイチ盛り上がりづらいのだと思います。それならいっそ「無料です!アマチュアです!」って言われほうが「一緒に盛り上げてやろう」って気持ちになって盛り上がる。場合によっては「これなら金払ってもいい!」などと言いながら焼きそばやビールを買って結果5000円以上使ってました、という人も少なからず発生するはずです。

チケットの価格は演出手段として興行主がコントロールをすべき

上記のように「チケット価格は興行品質に影響を与える」ということが正しいとするならば、チケットの価格はなんでもかんでも市場価格に任せるのではなく「演出要素の一つとして興行主に決定権が委ねられるべき」と考えるのが自然に思えます。逆を言えば興行主は単純に収益の最大化だけではなく「如何に盛り上げるか」という観点も持ってチケット価格を決めていく必要があると言えます。

なお、この結論は近年話題に上がりつつある「市場価格にあわせる」ための手段としてのダイナミックプライシングなどを否定するものではなく、それも含めて興行主が決定するべき、と考えています。

興行主にコントロール権を与えるには電子チケットの発展が必要不可欠

電子チケットは「チケット価格は演出要素の一つとして興行主に決定権が委ねられるべき」という論を実現するために必要不可欠なツールです。しかし、残念ながら(自戒の念も含め)現在の電子チケットサービスは「完璧」といえるものはありません。
現在の電子チケット技術のレベルでは不正転売能力を高めようとすると「スマホ必須」「現場運用コストが高すぎる」など、来場者/興行の負担が高まり、「嵐のコンサートに行くために母がスマホを買った」といった投稿がSNS上にはびこってしまっています。
一方、利便性を高めようとするとワールドカップラグビーでも見られたように、不正転売や偽造が大量に発生してしまいます。

このような状態を解決し、興行主に価格コントロール権を取り戻すために playground では次世代の電子チケットを模索し続けています。

もしご興味いただき、playgroundで一緒に働いていただける方は是非お声がけいただけると幸いです。

また、興味持っていただいた皆様、twitter(@kg_play)も最近運用し始めたのでフォローいただけると嬉しいです。

以上、
長文、お目通し戴きありがとうございました!!
ご意見もお待ちしてますのでよろしくおねがいします。

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