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【えいごコラムBN(40)】well と much

中学1年生の息子が、「私は彼をとてもよく知っている」という文を英訳していました。

「 “I know him very much.” かな」とか言ってるので、「 know なら very well だろ」と言ったら、「なんで very much じゃだめなの?」と聞いてきました。

私は口を開きかけて、不意に言葉に詰まりました。はっきりした説明が思い浮かばないのです。
 

副詞句 very well と very much は、たとえば次のように使い分けます。

I know him very well. (私は彼をとてもよく知っている)
I like him very much. (私は彼がとても好きだ) 

この2つの文で very well と very much を入れ替えるのはかなり不自然です。

じっさい Yahoo UK の “only in UK” (英国内のみ対象)で検索すると、 “I know him very much.” は2件しかヒットせず、それもおそらく英語ネイティブではない人による文です。
 

その一方 “I like him very well.” は25件ほどヒットします。

しかしよく見ると、その多くが “I like him very well as a man, but as a soldier he is worth nothing.” (私は一人の男としては彼がとても好きだが、兵士として彼はぜんぜん役に立たない)のように、何らかの「留保」を伴うものであることに気づきます。

つまり手放しで「好き」なわけではなく、「悪い奴じゃないんだが・・・」と述べているのです。
 

こうしてみると、一般的な英語表現としては、「知っている」に very well が使われ、「好きである」に very much が使われることは間違いないようです。

しかし実際のところ、この両者の本質的な違いは何なんでしょう。
 

英語辞典で very well と very much を含む例文をいくつか拾ってみました。

(1) He doesn’t relate very well to his father.
(彼は父親とあまりしっくりいっていない)[ジ]

(2) He couldn’t very well go to her office and force her to write a check.
(彼は彼女のオフィスに押しかけて無理やり小切手を書かせる気にはとてもなれなかった)[COB]

(3) She is very much at home in French.
(彼女はフランス語がすごくうまい)[研]

(4) I very much regret the injuries he sustained.
(私は彼にそんな損害を被らせたことをひどく悔んでいる)[COB]

very well はふつう、 “She speaks French very well.” (彼女はフランス語を上手に話す)のように、能力や技量について述べる場合に用いるとされます。

では (3) は、意味としては「フランス語がすごくうまい」なのに、なぜ very much なのでしょう。
 

at home をODEで引くと、 “confident or relaxed about doing or using something” とあります。

つまり “at home in French” は「フランス語を話すのに抵抗がない」ということで、これは生まれや環境のためかもしれず、本人の意思や努力とは必ずしも関係ないのです。

フランス語を母語とする人のことを “She speaks French very well.” とは言いませんよね。

この表現が使われるのは、本人の努力の結果として、意図的にフランス語を話している人についてです。
 

この点をよく示すのが (2) の “He couldn’t very well . . .” です。

彼が彼女のオフィスに押しかけないのは、能力や技量が不足しているからではありません。

この文で問題となるのは「無理強いしたくない」という彼の「意思」です。

very well はその意思の程度を表していると考えられます。

(1) “He doesn’t relate very well . . .” にしても、相手とどう関わるかは自分の意思次第です。

それに対して (4) “I very much regret . . .” では、本人は後悔したくてしているわけではありません。
 

very well は意図的な行為がどの程度達成されているかを表すのに用いられ、 very much は意図的でない状況がどの程度のものであるかを表すのに用いられると考えれば、説明がつくように思います。

最初に出した2つの文の場合も、「知っている」のは相手を理解しようと努めてきた結果であり、「好きである」は自然な感情の発露で、本人の意思とはまた別、ということなのではないでしょうか。
 

ただ、引っかかる例文も2つほど見つかりました。

(5) This dress becomes you very much.
(このドレスはあなたによく似合う)[研]

(6) Blue suits you very well.
(青は君に良く合う)[ラ]

become と suit はどちらも「~に似合う」という意味になりますが、 become は very well と very much のいずれとも使います(感覚的には very much の方が多い気がします)。

その一方 suit は、この意味で very much とともに使われることはありません。

ほぼ同じ意味の動詞なのに、なぜ suit を修飾するのは very well だけなんでしょう?


・・・これもまた宿題です。

中学1年で習うような表現がかくも難しいとは!

(N. Hishida) 

【参照辞書】

  • [ジ] ジーニアス英和大辞典(大修館)

  • [COB] コウビルド英語辞典(Collins)

  • [研] 新英和大辞典(研究社)

  • [ODE] Oxford Dictionary of English (Oxford UP)

  • [ラ] ランダムハウス英和大辞典(小学館)

(タイトルのBNはバックナンバーの略で、この記事は2013年11月に川村学園女子大学公式サイトに掲載された「えいごコラム」を再掲しています。)

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