【えいごコラム(8)】2世紀分の価値
ウェブマガジン『THE DIGEST』に野球についてまた面白い記事が載っていました。
3月30日(日)の MLB 開幕戦で、大谷翔平投手はアスレティックス相手に6回2安打無失点、10奪三振と好投しました。
にもかかわらずリリーフ陣が打たれ、エンジェルスは1-2で敗れてしまいました。
記事によると、アメリカの人気ポッドキャスト番組『The Rich Eisen Show』のメインホストを務めるリッチ・アイゼンが、これを受けて「メジャーリーグを代表して、コミッショナーがエンジェルスにオオタニをトレードさせるように要求するべきだ」と主張したとのことです。
記事の中でアイゼンの発言が次のように引用されています。
この引用が正確なのかどうかちょっと気になったので、YouTubeで配信されているもとの番組を視聴してみました。
引用に相当する場面で、アイゼンはスポーツライターのサラ・ラングスのツイートを画面に提示しています。
つまり、開幕戦で無失点2桁奪三振という記録は(記録が残っている)1901年以降で26回目だということです。
しかしそれを記録した投手のチームが敗北したのは今回が初めてなのです。
それについてアイゼンは次のように述べます。
ロブ・マンフレッド(Rob Manfred)は上述のとおり MLB のコミッショナーです。
次の “needs to channel his inner David Stern” がわかりにくいですが、デビッド・スターン(David Stern, 1942-2020)はバスケットボールリーグ NBA の第4代コミッショナーで、破産しかけていた NBA を立て直してメジャースポーツに育てた伝説的人物です。
他動詞 channel には降霊術で「(霊)を呼び寄せる」という意味がありますから、マンフレッドは心の内でスターンの霊と交信すべきだ、つまり彼を見習えと言っているのでしょう。
“Players will demand trades.” の will は「習性」で、「. . . とは~するものだ」という意味です。
その後の Lamar はアメリカンフットボールリーグ NFL の選手、ラマー・ジャクソン(Lamar Jackson)のことで、彼は今年3月2日に所属するレイブンズからの移籍希望を表明しました。
ようするにアイゼンは、コミッショナーのマンフレッドはスターンを見習って MLB でも選手が移籍を要望できるよう制度を改革すべきだ、と主張しているのです。
たったこれだけのパッセージに、野球だけでなくバスケットボールとアメリカンフットボールのネタが何の説明もなく組み込まれていて、英語学習者としては途方に暮れますね。
まあナチュラルな発話とはこういうものかもしれません。
続いて「2世紀」に関する部分が来ます。スタッフが口を挟んだりして聞き取りにくいのですが、おおよそ次のように言っています。
technically は「厳密にいうと」ぐらいの意味です。
1901年は20世紀の最初の年なので、 “two centuries” というのは、それから世紀をまたいでもう2世紀目に入っていると言いたいのだと思います。
大谷選手に2世紀分の価値があるというよりはむしろ、2世紀にわたるこの期間に一度も起きなかったことが起きたのだから、本気で移籍に関するルール作りにとり組む価値があるということなのでしょう。
アイゼンはこう述べて番組を締めくくっています。
win streak は「連勝」のことです。
好投しながら敗れた開幕戦はシーズン中の1試合にすぎない、連勝すべき161試合(MLBの公式戦は年間162試合)がまだそこにある、という、大谷選手に対するエールですね。
今シーズンの大谷選手の(投打にわたる)活躍を心より祈っています。
(N. Hishida)
【引用文献】
「『トレードを要求すべき!』米名物識者が変わらぬ大谷翔平への “無援護” ぶりに嘆き『全てに水を差した。本当にがっかり』」,『THE DIGEST』2023.04.02.
“Rich Eisen Reacts to Shohei Ohtani Wasting His Greatness on the Hapless Angels.” The Rich Eisen Show (YouTube) 2023.04.01. [音声および字幕から引用]:
https://www.youtube.com/watch?v=dCjsW5t7-aA“Quarterback Lamar Jackson requests trade from Ravens.” The Japan Times 2023.03.28.