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光速

noteの上の方に「#ヨーグルトのある食卓」締切りまであとわずか!とあるのを見て、何か書けそうだなと思い立ち、いっちょ書いてみることにしました。文章の練習を兼ねているので、いつもとトーンが違うのはあまり気にしないでください。

ヨーグルトにまつわる我が子の話です。

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今朝も娘はヨーグルトを食べていた。カルビーのフルーツグラノーラとヨーグルトをざくざくと混ぜたやつを、2年前に100均で買ったペンギンの絵が書いてあるプラスチックの茶碗に入れて、やはり2年前に西松屋で買ったピンクのスプーンを使ってまくまくと食べていた。

もう本当に呆れるくらいよく食べる。さっき食パン2枚と味噌汁とぶどうを食べていた気がするのだけど。それでも食べないよりはずっといいので、おかわり!の声にもはいはいと応える。頑張るべきではないところでは頑張らない方がいいというのは、3年弱の育児に学んだ人生の真理だ。

娘がヨーグルトを初めて食べたのは確か、保育園に行き始めて少し経った頃だった。吐き出しても仕方ないなーと思っていたら意外にもすんなり酸味を受け入れて、拍子抜けした記憶がある。

ほどなくして娘は積極的にヨーグルトを食べるようになったのだけど、当時の娘の世界に「ヨーグルト」は存在しなかった。代わりにあったのは「もーもー」だった。

このお題は(株)明治様のスポンサードを受けている手前、かつ僕はいわゆる「中の人」でもあるため非常に言いにくいのだけど、この時期食べていたのはパルシステムのヨーグルトだった。パルシステムには「こんせんくん」という牛のキャラクターがいて、ヨーグルトや牛乳のパッケージにはもれなく「こんせんくん」の絵が描いてあった。

この「こんせんくん」を娘は勝手に「もーもー」とリネームし、ヨーグルトのパッケージを見ると「もーもーたべる!」と言うようになった。つまりこのとき娘は「ヨーグルト」ではなく、「もーもー」を食べていたということ。

そこから2年ちょっとが経ち、今日も娘はヨーグルトを食べている。初めてヨーグルトにほんのちょっとだけジャムを混ぜてあげたとき、表情だけで「なんておいしいものがあるのだ」と語ったことは忘れない。冷凍ブルーベリーにヨーグルトを和えて、朝から唇が悪魔のようになってしまったことも忘れられない。

しかしよく覚えていないことがある。娘はいつから「ヨーグルト」と言えるようになったんだっけ?さっきも「ヨーグルトたべる!」とはっきり言っていた。

「いちご」は「こっこ」だったし、「ぶどう」は「ぷろー」、「ごちそうさま」は「ごちまった」だった。「おとしゃん」「おかーしゃん」だった。

この間、ご飯を食べ終わって何も言わずにイスから降りて遊びに行こうとする娘に思わず「ごちまったは!?」と指摘したら、「おとーさん、『ごちそーさまでした』でしょ?www」と返されてしまった。我が娘とはいえ、レディに対する赤ちゃん扱いを恥じると同時に、おそらくもう娘の口から聞くことはない言葉たちに思いを馳せた。

親にとって1年前は昨日みたいなものだけど、娘にとっては思い出せないほどの太古の昔だろう。そして、一見正気を持ってしゃべっている今現在のことさえ、もう3年も経てば全く思い出せなくなっているだろう。

親がちんたらノスタルジーに浸って感傷的になっている間に、娘は光の速度で歩を進めている。ニューロンがものすごい速さでこの世の仕組みに関する結びつきを強化し、娘の自我と世界認識は日々再帰的に拡大していく。無邪気に、しかし貪欲に歩む娘のスピードに親はついていけない。そしてたぶん、ついていこうとしてはいけない。

そんなことを、「おひげ〜」と言ってゲラゲラ笑う娘の口まわりを拭いながら考えていた。

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※その後、ネットスーパーという桃源郷を見つけ、今では明治ブルガリアヨーグルトを主力とさせていただいていることを、伏してフォロー申し上げます。。

より長く走るための原資か、娘のおやつ代として使わせていただきます。