同人即売会でSquareを使うためだけに開業届を出すのはちょっと待って欲しい

「同人キャッシュレス」というジャンルがあります。

同人即売会というのは、建前上営業行為ではなく、お店屋さんごっこという位置づけです。同人キャッシュレス界隈は、そのお店屋さんにキャッシュレス決済を導入して、より高度なお店屋さんごっこをする界隈です。
同人キャッシュレス界隈では、「世の中に掃いて捨てるほどあるキャッシュレス決済サービスをいかに網羅するか」自体も目的となっています。もちろん、あくまで趣味なので、手段が目的になっても何の問題もありません。面白ければヨシ!!。

しかし今回お話するのは、同人キャッシュレス界隈の話ではありません。
作品を手に取って欲しいから、決済手段の1つとしてキャッシュレス決済を入れたい人向けのお話です。

この記事の対象

趣味で同人即売会等に出展していて、決済手段の一つとしてキャッシュレス決済を導入している方・導入を考えている方

この記事の対象外

同人キャッシュレス界隈の方
創作活動を生業とし、同人即売会も仕事の範疇である方

該当する方はページバックしていただいて結構です。

さて本題。

「Squareは審査が緩い」という勘違い

同人即売会でキャッシュレス決済を入れる場合、よく見かけるのはSquareです。アメリカの会社でありながら、日本で使われる多くの決済ブランドに対応しており、簡単な登録だけでVISAとマスターカードだけなら最短翌日には審査が下りる使い勝手のいいサービスです。
一旦はだいたい審査に通るが故に、時に審査が緩いと勘違いされます。

ただ、ちょっと待ってください。マネーロンダリング対策が騒がれるアメリカのサービスにおいて、果たして審査が緩いなんてことがあり得るでしょうか?

Squareは、簡単な登録で審査をしてとりあえず使わせてくれますが、使い込んで行くと開業届や法人登記簿を提示するよう求められ、決して審査が緩いサービスではありません。

開業届の提示を求める根拠は、Squareの規約にあります。実際に見てみましょう。

規約、ちゃんと読みましたか?

同サービスの規約を読んでみます。第1部6aに次のような文言があります。

本サービスは、日本国内における事業目的以外には使用することはできません。加盟店は、本サービスを直接的または間接的に輸出することはできません。

https://squareup.com/jp/ja/legal/general/ua

Squareの規約では、Squareサービスは事業目的で使用しなければならないことが定められています。事業を行う場合に開業届を出すことは所得税法で義務づけられている※ため、開業届を要求されます。

※義務ではありますが、開業届を出さないことに対する罰則はないため、実際は確定申告さえしていればとくにお咎めはありません。Squareは米国企業なので、日本法を厳密に適用しています。

要は、他社が最初の審査で求めている書類を、ある程度使い込んでいる顧客にだけ要求することで、審査の迅速化とコスト削減をしているのですね。

ここで一つ問います。

あなたの同人活動は事業ですか?

一般に事業とは、経済活動の一種であり、何らかの利益を出すことを目的として組織を営むことを指します。

しかし同人活動は建前上、次のような行為です。

自分が作った作品を見て欲しいので、なんらかの媒体に収めた。
媒体を配ることにしたが、媒体を作るにあたって製造費が掛かったので、
参加者に原価程度の負担をお願いした。

我々はこの行為を「販売」ではなく「頒布」と呼んでいます。要は「あくまで作品を広く行き渡らせるために配っているだけで、事業ではない」※と言い張っている訳です。

この建前があるが故に、二次創作のような本来は著作権侵害に当たる行為が半ば黙認されています。他人の作品で金を儲けているのではなく、ファンアートを自費で作って原価で配ってるだけだ、という訳ですね。

※厳密には、例えば消費税法では、事業とは「対価を得て行われる資産の譲渡、資産の貸付けおよび役務の提供を反復、継続、かつ、独立して行うこと」とされていますので、同人活動も厳密に法律を適用すると事業にあたる可能性もあります。しかし、あくまで建前上は事業ではありません。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6109.htm

本題に戻ります。
あなたが「同人活動は事業ではない」と言い張るのであれば、Square側から見るとあなたがイベント会場で行っているお金のやり取りは個人間送金にすぎず、利用規約に反することになります。よって、本来はSquareを導入することはできないはずです。

どうしてもSquareを使いたいなら、Squareが求める通り同人活動の開業届を出して事業だと言い張ることになりますが、それもちょっと待ってください。
Squareを使うため「だけ」に開業届を出すのは、開業届を出すことで起こる不利益を知ってからでも遅くはないでしょう。

開業届を出すことで起こる不利益

雇用保険

本業が会社員の場合に本業を失業すると、雇用保険から失業保険を受けることができます。しかし、開業届を出した事業を持っている場合は、失業しても他に仕事があると見なされ、失業保険を受け取れません。

正確には、本業の失業と同時に廃業届を出すことで失業保険を受け取れますが、その状態で引き続き同人活動をする場合はSquareを使うことができなくなります。
要は、Squareと失業保険を天秤にかけることになります。

※あなたが個人事業主の場合はそもそも雇用保険がありませんので、これはデメリットになりません。

※開業届を出していなかろうが、税金面は別の話です。同人活動で利益を出した場合は確定申告または住民税申告の義務がありますので、適宜ご対応ください。
税法上の扶養を外れるかも、と心配される方がいますが、開業していなくても一定の雑所得があると扶養を外れますのでご注意ください。

建前上事業ではないことで通用する言い訳

上で述べましたが、建前上事業ではないことにして同人活動をしている方がほとんどかと思います。

この建前があるからこそ、二次創作が黙認されていたり、ピアプロリンクのような「非営利有償」という考え方が許されている訳です。

開業届を出すことは、同人活動を事業とすることを宣言することと同義です。
事業と宣言して二次創作本を"販売"し、版権元から訴えられた場合、おそらくごめんなさいでは済まないでしょう。
また、非営利有償を根拠に使用を許諾されているキャラクター等の利用も、当然ながら商用契約が必要となります。
要は、Squareと、建前上事業ではないことによって絶妙なバランスで成り立っている行為とを天秤にかけることになります。

これらの不利益を理解した上で、本当に開業届を出すかどうか、今一度胸に手を当てて考えてください。

まとめ

Squareは使いやすい決済代行サービスですが、決して審査が緩いサービスではありません。
Squareは事業目的以外で使用することはできず、あなたの同人活動が事業でないのであればサービスを利用することはできません。

あなたが同人活動だけで食っていけるのであれば、開業届を出し、キャラクターの商用契約を結んで活動するのも一手です。
そうでないなら、少なくとも筆者は「お店屋さんごっこ」の範囲を出ないのが無難だと考えます。すなわち、Squareの使用を諦める一手を検討されるべきでしょう。

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