降り立った地で その170

 小さな水槽の中で浮かぶように泳いでいる、正式名がわからないが、タツノコの一種を見て、器用なものだと思ってしまう。小さな体を一生懸命に跳ねるように動かして泳いでいる様は、片足で一生懸命跳びながら移動している姿にとても似ている。そんな様子を水槽に貼り付くように見ている、彼女の熱心さにも似たようなところがある気がする。
「すごいね。こんな小さな体なのに、一生懸命に泳いで」
「頑張り屋さんだからじゃない?」
「そうね。こんな小さくても、頑張って生きているんだから、私ももっと頑張らないと」

 普段から頑張り屋さんなのに、これ以上頑張られたら、怠け者の僕はどうなるんだろうかと不安になるが、あまり考えないでおく。人には、それぞれの生き方があるのだから、そのあたりは深く考えないで、僕なりに頑張ろう。
 タツノコの一種が泳いでいる水槽から離れると、次は熱帯魚が泳いでいる水槽の前で、彼女は立ち止まった。大きな水槽でも、綺麗な色をした魚がいたが、ここには、さらに小さく、綺麗な色彩の魚が泳いでいた。大きな魚が混じって泳いでいない分、彼らにとっては、ここは天国かもしれない。
「可愛いね」と言って、水槽を覗き込むよう見ている。僕も顔を近づけて見てみるが、小さい上に色が綺麗なため、見ているだけで癒やされる。
「癒やされる」と小さな声で言うと、「素敵な色だね」と言う言葉がとなりから聞こえて、うなづきたくなる。

 小さな水槽は、たくさんあり、大きさもすべてばらばらだ。どの水槽もある程度のジャンル分けがあるようで、水槽に入っている魚を見ると、それがなんとなくわかる。
 ヒトデが水槽の表面に貼り付いている水槽も存在し、その姿が見ていて、あまり気持ちよいものではなかったため、彼女が少し距離を取って、水槽の前を通ったときは、少し笑いそうになった。
「なんで笑ってるの?」と言いつつ、なぜ笑われたかは気づいているらしい。
「いや、気持ちがよくわかるから」と言って弁明するも、抗議の目がしばらく続く。

 彼女からの抗議の視線が終わると、しばらく歩きながら、並んでいる水槽を順番に見ていく。そして、再び彼女が立ち止まる。次に立ち止まって見ている水槽の中には、赤い魚がいた。頭から白い糸のようなものが複数飛び出し、赤い羽根が付いている姿をしている。この魚に関する知識がないため、正体がわからない。
「この魚がどうかした?」と聞くと、僕の方に振り向く。
「なんか、サンバの衣装みたいじゃない?」
 そう言われると見えなくもない姿をしている。彼女の頭の中では、この魚が一生懸命に踊っているかもしれない。
 

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旅行記小説

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