飛んでみる その9

 飛行機が無事に着陸し、間もなく、乗客を下ろすために、ゲートに向かおうとしている。飛行機の中は、温かいが、窓から外の様子を見ると、非常に寒いことが視界でわかる。滑走路に降りる間に見えていたが、地面はほとんどが白で覆われている。雪と氷の世界に来たのだ。暗くて、あまり周りが見えないかと思っていたが、街の灯りで、少しは外の様子を見ることができた。白い世界は、寒々しい印象を強く持つが、同時に綺麗だと思ってしまう。現実的な面と、幻想的な面の両方を感じてしまう。不思議な感覚だと思うこともない。こういったものは、いつでも表裏一体なのだ。美しさや儚さのような、人のこころを動かすものは、現実的な面で少し面倒なものを持ち合わせている。それがあるから、より際立つというか、なぜか付随することが多い。よくある話だということだと思う。

「外、寒そうだね」
「そうだね。でも、それ以上に綺麗だよ」
「あたしが?」

 振り返ると、自分のことを指差しながら、悪戯っぽく笑う彼女がいた。否定した方がいいかと思ったが、否定することは、また違うなと思った。自惚れを言うなら、あながち外れではない。それを素直に認めることが照れくさいから、一旦放っておくことにする。

「飛行機が下りてくる間に、窓から外の様子が見えたんだ。暗いから、見えないと思ってたけど、街の灯りがあって、ちょっとだけ見えた。ほとんどが雪や氷で覆われて、一面が白い世界だった。綺麗だったよ」

 彼女に見た風景の感想を述べると、堪らず、我慢できない様子を見せた。

「え、いいな。早く外出たい。あたしも見たい」
「もうすぐ降りられるから、もうちょっと待って」駄々をこねる彼女を諭す。
「やっぱり窓側にすればよかった。そうすれば、見れたのに」
「窓側じゃなくていいって、言ったのは、里香だよ」
「わかってるよ。でも、今更ながらに後悔してるだけ」
「あとちょっとの辛抱だよ」
「そうだね。とうとう来ちゃったね」

 彼女が言う通り、とうとう来てしまった。雪と氷の国に来てしまった。以前から目標としていた、1つの夢を果たすために。

「さっき言った綺麗は、あたしのことだよね」
「あ、うん」

 今度は、照れることもなく、素直にうなずいた。不意を突かれたため、上手く対応できなかったこともあるが、そのまま受け入れた。自分で言うかなと思ったが、きっと言って欲しかったのだろう。そういう意味で言うと、自分に少し減点かなと、反省する。

 夢の景色を見たいと言った彼女の気持ちが綺麗だと、以前思った。今、このとき、それを実現するために、ここまで来たのだ。

一旦、終わり

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旅行記小説

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