降り立った地で その171

 次に見た小さな水槽は、たくさんのクラゲが泳いでいた。まるで海藻のように、水の流れにほとんど身を任せている。ゆっくりと体を動かすことで、少しだけ水の流れに抵抗しているが、あまり効果的には思えないほどの微力なものだ。
「一体、なにを考えているんだろうね」
「誰が?」と聞くと、彼女はクラゲがたくさん入っている水槽を指差す。クラゲがなにを考えているか気になっているようだ。見た目通り、浮かんでいるだけだから、なにも考えているわけがないと思うが、いきなり否定論から話すこともわびしい議論に思える。

「なに考えていると思う?」
「なにも考えていないんじゃない?だって、からだは透き通っているけど、脳みそがあるような気がしない。たぶん、植物とかと一緒なんじゃないかな?」
 まさかの同じ意見を持っているとは思っていなかった。しかし、体があり、身動きしていることから考えると、簡単になにも考えていないということを結論づけることは難しいように思える。
「でも、動いているから、脊髄くらいはあるんじゃないかな?それに植物の中に動く種類のものはあるじゃない」
「どんな植物?」と聞かれ、「食虫植物」と答えると、あまりいい顔をされなかった。

「でも、確かに、脊髄くらいはあるのかもね」
「まぁ、謎が多い生き物でもあるし」
「そうなの?」と言って、驚いた表情をしている。
「そうだよ。知らない?」
「どういう風に謎が多いの?」
「脳がないとか」と言ってから、自分で気付く。さきほどの話とまったく逆のことを言っている。

「やっぱり脳がないの?」
「うん、そう。だから、謎が多い生物」
「へぇ、そうなんだ。クラゲって、ミステリィな存在なんだね」
「不思議がいっぱいな生物らしいよ」
「それにしても、たくさん泳いでいるね。どうやって、子どもをつくるのかな?」
「分裂して増えるらしいよ」
「ますます不思議だけど、その増え方はちょっと嫌かも」
「まぁ、そういう生き物もいるからね」

 2人の会話を続けながら、クラゲが入った水槽を見ている。ずっと同じ動作を続け、少しずつ移動するが、不思議なことにずっと変わらない景色を見ている気分になってくる。変化しているが、変化を感じない時間の流れに思えてくる。そんな不思議な感情を、見ている人に持たせてしまうところも、謎の生物と言われる所以なのかもしれない。
「次行こうか?」と言うと、「うん」と答えて、彼女と一緒に移動を開始する。少し歩いて、振り返り、小さな声で「バイバイ」と言っていた。

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旅行記小説

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