飛んでみる その2

 僕らが乗った、飛行機がまもなく、滑走路に到着しようとしていた。乗客全員を乗せ、当初予定していた時刻より、遅れたが、長い空の旅を考えると、誤差の範囲だと思える。それくらい、今回の旅行は遠くまで行くことになる。揺れる機内は、すっかり静かだ。飛行機が動き出す前は、かなり話し声があったが、今は静かで、聞こえても、小声くらいだ。話してはいけないルールはないが、緊張していることが原因だと思う。飛行機の離陸する瞬間は、墜落する確率が低いとわかっていながら、ちょっとした危険を含んでいる。そのため、ちょっと恐怖心というか、空を飛ぶという行為自体が滅多にないから、妙な気分で言葉が弾まないのだ。

「もう飛びそうだね」
「本当に。離陸する瞬間って、なんか好き」
「え、そうなの?」意外そうな反応をする。それほど変に思えただろうか。
「そうだよ。なにか変かな?」
「変というか、どの辺りが好きなのかなと思って。あんまり、そんなこと言う人が少ないから」
「少ないのか・・・・・・」彼女が知っている人の中に共感できる人がいること自体を驚くべきかもしれない。

「どっちかというと、今、初めて見つけた。いや、聞いた」
「余計に悲しいな」がっかりとした様子を見せたが、彼女は意に介さず、質問をぶつけてきた。
「で、どういう感覚がいいの?」

 好きな異性のどこが好印象だったのかと、そんな雰囲気で聞いてくる。そもそも人ではなく、飛行機が地面から離れる瞬間の感覚を話している。なんだか、妙な話になったと思いながら、捻り出した答えを伝える。

「重力から引き剥がされて、少し体が軽くなった気分になるところ・・・・・・かな」
「浮く感じってこと?」
「うん、そう。その表現はいいね」
「浮くって言うなら、飛行機が一番上まで行って、歩いているときの方が、私は感じるかな?」
「あ、その感覚わかる。それが強まっていく感じが、いいんだよね」
「でも、その感覚がいいって、ちょっとわかんないかな?」
「あんまり飛行機は、好きじゃない?」
「そうでもない。飛んでいること自体が、不思議な感覚で好き。でも、離陸するときの感覚って、やっぱりわかんないかな?」
「じゃあ、今から味わえばいいんじゃない?」
「そうね。でも、それが目的じゃないでしょ?」
「その通り。でも、やっぱりテンション上がる」

 その言葉を聞いても、彼女は肩を竦めて、呆れたという表情をしていた。

 そのあと、飛行機は無事に出発することができた。離陸直後、「飛んでる!飛んでる!」と、大はしゃぎしていた彼女の様子を見ると、どっちがどっちなんだろうかと、新しい悩みを持ってしまったことは、付け加えておきたい。

続く

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旅行記小説

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