降り立った地で その181

 鴨が泳いでいるのを見て、のんびり眺めたり、小さな白い猿が飛び出して、必死に追いかけようとするのを止めたり、いろいろと騒ぎながら廻っている間に、ジャングルのような動物園の中を一廻りしたため、出口までたどり着いた。少しお疲れ気味の僕に対して、彼女は意気揚々としている。
「すごく楽しかったね。けっこうはしゃいじゃった」
「そうだね。黒い蜘蛛が出てきたときは、すごかったよね」
「わざと意地悪なことを言ってるでしょ?」
「いや、あれが一番大騒ぎしたなと思って」
「仕方ないじゃない。苦手なんだから。それに、そっちだって、逃げてたじゃない」
「だって、気持ち悪いから」
「蜘蛛に失礼じゃない」
 失礼と言いながら、これまで見てきた生き物に対して、基本的にさん付けだったのが、蜘蛛だけは例外らしい。蜘蛛はあんな姿でも、家の中の害虫を食べてくれたりするから、種類によっては、とても頼もしい存在だ。もっとも、あまりお世話になりたくないという気持ちはよくわかる。

「けっこう暑かったね。暖房が効いているのかな?」
「たぶん、付いていると思う。ここって、ひょっとしたら、熱帯雨林を再現しているのかな?」
「暑いから、そう思えるんじゃない。けっこう汗かいちゃった」
「たぶん、温室みたいになっている」
「外は寒いのにね。汗は乾かしてから、外に出ないと風邪引いちゃうかもね」
 手を扇のように動かして、自分自身に風を送っている。彼女は、あまり汗をかいている様子はない。対して、僕はけっこう汗をかいている。こんな暑いところに来るとは思っていなかったから、着替えは用意していなかった。いつものことだから、気にしないが、このまま外に出たら、冷えて風を引いてしまう可能性は否定できない。

「次の科学館をじっくり廻ってから、外に出たいな」
「そうね。いまからの時間だと、1時間半くらいかしら?」
「すごい予定通りだね。でも、このさきは意外と早く終わったりして」
「早く終わるならいいよ。長くなると、帰りの電車に乗れないかもしれないよ」
「それだけは避けたいね」
「うん、そうね。じゃあ、行きましょうか」
 動物園の出口に入ると、施設の入口のロビィに出る。ロビィから階段を使って、3階に移動する。科学館は、3階から入館するらしい。動物園や水族館もそれなりに人がいたが、科学館が一番人気らしい。いままではなかった、順番待ちの列が存在した。その最後尾に並び待つ。
「人気あるんだね。こういうので、期待度が上がるね」
 動物園で楽しめた気持ちをそのままに、科学館に持ち込むようだ。僕自身、楽しみにしているが、彼女に比べて、その感情にどれくらいの違いがあるのか、測ってみたくなった。

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旅行記小説

「空を飛んでみる」、「降り立った地から」をひとまとめに
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