飛んでみる その6

 飛行機が飛び始めてから、何時間経っただろうか。時刻は、22時を過ぎている。機内は、寝る人のことを配慮してか、ほとんど消灯している。灯りがある場所は、各乗客の前方に設置しているモニターや、機内に持ち込んだスマホなどを使用することで、発生する光だけである。完全に灯りが無くなったわけではないから、ようやく寝ようと思い始めた僕には、ちょっと辛い体験だ。

 眠気が只でさえ、今日はあまり訪れないことに加えて、モニターやスマホなどの灯りのせいで、余計に目が醒めてしまう。これでは、次の空港に着いたころには、睡眠不足で、一日目はあまり観光ができないかもしれない。あくまでも、自分の体力面を述べている。

 一方で、隣で寝ている同行者は、ずっと目を覚まさない。羨望を通り越して、不安になってきた。どうやったら、ここまで周りを気にせずに眠れるのか。ひょっとしたら、妖怪かなにかに取り憑かれたのではないか。心配になり、彼女の寝顔を覗き込んでしまう。大変落ち着いた寝息をたてている様子からして、妖怪に取り憑かれた様子はないようだ。

 彼女から視線を外し、正面を向く。正面には、モニターしかないが、それを見ているわけではない。どちらかというと、さきほどの疑問が、もっと別のところに波及してきた。そもそも妖怪に取り憑かれたのは、彼女ではなく、自分ではないか。だとしたら、どう対応するべきかを考える。まずは、ヘッドフォンと取り出して、リラックスできる音楽を流して、気持ちを安らげてみるか。クラシック音楽などのテンポが遅く、落ち着いた音楽は、睡眠に良い印象がある。だから、ヘッドフォンを取り出し、耳にかけてから、モニターを起動して、クラシック音楽を探してみる。

 映像だけでなく、音楽も選択して聴ける機能が存在する。彼女が寝ているとき、ずっとその機能を利用して、音楽を聞いている。自分も同じように早くすればよかったと、今更後悔している。どんな曲を聞いているかはわからないが、たぶん同じようなことを考え、クラシック音楽を聞いているのではないか。こっそりと覗き見しようと思ったが、彼女の席のモニターは、しばらく操作していないため、自動的に画面が暗くなり、見えなくなっている。わざわざ操作して、モニターが明るくなった拍子に、彼女が起きてしまう可能性があるため、それ以上の追求は止めておく。知ったところで、どういうこともない。人の睡眠を邪魔する権利も持っていないため、自分の睡眠に集中することにした。

 モニターを見ながら、落ち着いた曲調のものを探す。できれば、歌詞が入っていないものがいい。単純に演奏する音だけのものを探す。意外とないかもと思ったが、15秒探して見つかった。ほっとした束の間、急激な眠気が襲ってきた。思わず欠伸をする。これはいい状態でそのまま眠れそうだ。しかし、なにか忘れていると思ったが、思い出す前に意識が薄れていく。そのまま、ゆっくり隣の寝息を聞きながら、眠りについた。

続く

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旅行記小説

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