見出し画像

無口でおしゃべりな幼馴染に好きって伝えたい



コツコツとリズムを刻むチョークの音。


耳を抜けてく初老の男の声。


汗を冷やす冷房の風。


疲労感と満腹感。


5時間目の古典ってのは、全部の要素が人をまどろみへと誘う。


外では鬱陶しい蝉時雨も、


教室の中に居るとうっすらしか聞こえなくて、


まるで子守唄みたいだ。


そんな眠気を少しでも紛らわすために、

涼しい教室の窓から暑苦しい外を覗くと、


朝は咲いてた朝顔の青い花は、とっくに萎んでしまっていて、どうやらもう眠りについたらしい。


俺も寝ちゃおっかな...。



「えぇ...いろはにほへとって言うのは...」


退屈な声が、耳を右から左に通り抜けてく。





いろはにほへとちりぬるを



美しく匂い立つような色の花も、いつかは散ってしまう。

そんな無常感を読んだ唄...。





なんて何回聞いたかもわからん話が、どうせ金魚のフンみたいにくっついてくる。


それに咲いてる花がいつか散るなんて、よく考えてみたら当たり前だし。


まぁそんな聞き飽きた話も、夢へと誘う子守唄としたら...





悪くないかも...。







……。







「...ねぇ...〇〇...?」





そんな声に目が覚める。



〇〇:なんだよ... 和。良いとこだったのに...。


俺は机に突っ伏しながら、珍しく体を起こしている隣の生徒を見上げる。


花みたいな美しい顔立ち。


名前は井上和。


小学校からの幼馴染で、


小学校から、ずっと俺の好きな人。


いつかは絶対告白しようってずっと思ってきたけど。


君との関係が崩れるのが怖くて。


君と喋れなくなるのが嫌で。


告白は今度にしようって毎回先送りにしてたら、

気づいたらもう高校生になってしまった...。


たまに一緒に帰ったり、

たまに一緒に出かけたりしてるけど、

それは俺が幼馴染だからかな。


和:もう... ちゃんと起きてなよ...。


そんな俺の気持ちを知らない君は、呆れた顔でこっちを見てる。


和:せっかく貴重な高校生の時間なのに...。居眠りしてたらもったいないよ?


今日はそういう諭し方で起こすつもりか。


和:もう次は起こさないからね。


こんな風に言ってるけど起こしてくれるんだから、ツンデレでかわいいよね。


そんなこと思いながら前を向いた君の綺麗な横顔を無言で見つめる。






貴重な時間か...。



ふと君の言った言葉が頭に浮かんでくる。


いろは歌も相まって、

いつかは君もあっという間におばあちゃんになって、最後には散ってしまうんだなぁって感じる。



まあそれも当たり前か。



でもそうやって改めて考えると、"今"って時間は大切ってのはわかる気がするけど...。



そんなこと言ったって...





眠気には抗えないよなぁ...。





「...ねぇ...〇〇...?」





夢の中で君の声がした気がして、目が覚める。





机に突っ伏しながら辺りを見渡すと、


和:もう... 結局また寝ちゃうし...。


隣で頬を膨らましてる君と、


誰もいない教壇が目に入る。


どうやら授業はもう終わったらしい。


〇〇:ろ、6限は寝ないで受けるためだから...。


なんて言い訳がましく苦笑いしながら、ロッカーに向かおうとすると、


和:あっ! 〇〇!


君の呼ぶ声が耳に入って振り返る。


和:今日、部活ないよね?


和:良かったら、今日私の家で一緒に勉強しない?

和:...期末もうそろそろだから、〇〇に教えて欲しいんだけど...。



突然舞い込んだ幸せすぎる予定。


テスト前だから、放課後は家で1人で勉強するだけだと思ってたけど。


嬉しい想定外だ。


〇〇:しょうがねぇなぁ。教えてあげよう。


喜んで行きたい本音は隠して答える。


和:やった! ありがとう!


君は満開の笑顔で喜んでる。


それは勉強教えてもらえるから?


それとも...、


一緒に勉強できるからかな?


後者だったなら、嬉しいのにな。





〇〇:お邪魔しま〜す。

和:どうぞ〜。


君がドアを手前に引いて、2人で制服のまま君の部屋に入る。


棚には君が趣味で撮ったであろう花の写真と、

綺麗なピンクのアネモネの花が飾ってあって。


一見綺麗な部屋だけど...、


頑張って掃除して綺麗にしたんだろうなって痕跡がちらほら。


前から掃除は苦手だったしな。


まあそこも学校での綺麗さとのギャップを感じてかわいいけどね。


〇〇:そういえば、これって...造花?


棚のアネモネを見てふと思う。


和は花とかすぐ枯らしちゃいそうだけど。


和:ううん! 本物だよ! 綺麗でしょ?


なんて答える君はどこか誇らしげだ。


〇〇:うん、めっちゃ綺麗...。


〇〇:でも和ってこういうのすぐ枯らしちゃうと思ってたわ。


なんて揶揄ってみると、


和:失礼な...。お花が長持ちするように頑張ってるもん。


ちょっと不服そうに答える。


〇〇:ごめんって笑


そんな会話をしながら、ベッドの横のクッションに腰を下ろす。


昔から何回か来たことあるけど、やっぱりちょっと緊張するな。


〇〇:で? 何にお困りなの?


和:...それが... 古典が聞いてても全然わからなくて...。


向かい合わせに座った君が、さっきまでの威勢が嘘の様に俯きながら喋る。


〇〇:じゃあ今日はみっちりやらないとね?







和:...そしたらさっちゃんがさ!



想定通りの結末。


真っ白なノートに置かれたシャーペン。


手は動かないけど、口だけは動いて、

君の楽しそうな声が部屋に響く。


2人で一緒に勉強しようって言って真面目にできた試しがなかったからわかってた。



みんなには無口で高嶺の花だって言われてるけど...、



どう考えてもおしゃべりで親しみやすいと思う。


まあでも、2人でおしゃべりするのを期待してた節もあるから...


むしろ期待通りで喜ばしいんだけど。



和:...それで、写真見せられて自慢されたの!


今は菅原んとこのバカップルにお花畑デートを自慢されてご立腹みたいだ。


和:だからさ、なんかお花とか見に行きたいなぁって思ってさ...。


ほんと和って花好きだよなぁ...。


和:でさ... 1人じゃ寂しいから...。



和:テスト明けの日曜にでも... 一緒にひまわり畑行かない?






再び巡って来た想定外に耳を疑う。



大丈夫か俺?


幸福が続きすぎてないか?


帰りにトラックにでも轢かれないか?



いやいや、轢かれてたまるもんか。


和と一緒に出かけられないじゃんか。



和:...ダメ... かな?


ちょっと自信無さげに呟く君。


和と一緒に出かられるのがダメなわけない。


〇〇:どうしてもって言うなら... 行ってあげてもいいけど?


でもやっぱり素直に答えるのは恥ずかしくて。


ちょっと捻くれた返事をしてしまう。


そんな俺とは対照的に、


和:やった!! ありがとう! 〇〇!


君はまた満開の笑顔で喜ぶ。


そんな笑顔に魅せられて、胸はドキドキうるさいけど、


〇〇:当日はいつもみたいに和の家に迎えに行くよ。何時がいい?


それを君に悟られないようにクールに聞いてみる。


和:ありがとう! う〜ん... じゃあ10時がいい!


〇〇:よしっ。じゃあ決まりな。


ひまわり畑で告白か...。


悪くはないな。


ああ、当日にワープしねぇかなぁ...。



和:よし!


君の声が耳をつんざく。


和:そうと決まれば勉強しないと!


まるで予定調和だったみたいに切り替えが早い。


個人的にはデートが決まった余韻に浸って、おしゃべりし続けたかったけど。



まあ君と一緒なら勉強もいいかもな。






鳴り響くアラームの音。

時計の針は8時ちょうどを指してる。

休日の俺にしては、かなり早めの起床だ。


朝支度を済ませて。

たっぷり時間をかけて身だしなみを整えたら、

スニーカーを履いて家を飛び出す。


地面を蹴るスニーカーの音。


やっぱり君と2人で出かけるとなると、

告白のことが頭に浮かんで、

いつもより心音はテンポアップする。


朝だっていうのにうるさい蝉の声を聞きながら、

流れ出した汗を拭って、君の家に向かう。


待ち合わせする時間は好きだ。

楽しみだけが待ってるから。


「家の前ついたよ」


待ちに待った日曜日の9時51分に、

君の家のドアの前で、

君に送ったメッセージ。


"既読"って2文字が一瞬でついて、

通知の音が鳴ったら、


「すぐいく!」


って君からの返事。


心音はもっと早まってく。


今日はどんな君が見れるかな。


そんなこと考えて待ってたら、


「おまたせ!」


ドアが開いて、君の元気な声が耳に響く。


もちろん今日も顔も髪も全部綺麗で...。


制服姿ももちろんかわいいけど、


私服姿は珍しい分やっぱりドキドキするな。


〇〇:今日の服も良い感じじゃん。


ちょっと勇気がでないから、そんな風に言ってみる。


和:ほんと!? このお洋服、お気に入りだったから... そう言ってもらえて嬉しい!


今日も全部かわいいじゃん。


ってちゃんと伝えられたらいいんだけど。

そんなストレートには恥ずかしくて言えないから、

それとなく誤魔化して。


でもいつかはちゃんと君に伝えたいな。







電車はガタンゴトンとデートの序曲を奏でながら、

おしゃべりする俺たちを目的地まで運んでく。


しばらくしたら電車を降りて、駅から暑い田舎道を少し歩いてく。


そしたら急に視界が開いて、


和:すごい...。


夏らしい大きな白い雲が浮かぶ、どこまでも続くような青空と、

終わりがないくらい一面に広がる黄金色の花々。


日輪みたいに開く大きな花は、ギラギラと眩しい太陽の方をずっーと見つめてて、

それが何千本、何万本とあって、全部がおんなじ方を向いてるんだから圧巻の景色だ。


蝉はジージー言ったり、ミンミン言ったりうざったいけど、

君との思い出を盛り上げる合いの手って考えたら許容範囲か。 



和:もっと近づいて見てみようよ!


笑う君の右手に引かれて、太陽の群れに飛び込んでく。



君よりも背が高い花たちは近くで見るともっと眩しくて、

正直、思ってたより心奪われてるけど...。



やっぱりどんな花よりも隣で咲いている君が1番輝いている。



そんな君が大好きで。


そんな君に告白したい。



君の幼馴染ってのも悪くないけど、


やっぱり一歩踏み出したいんだ。



でももし君に告白したら、


俺たちの関係はどうなるんだろうか。


しわくちゃになるまで一緒に喋れるようになるのか。


それとも幼馴染のままか。


それか、もう喋れなくなっちゃうのか。


それは絶対嫌だな...。


希望よりも絶望が俺を埋め尽くして、


また足踏みしてしまう。





…とりあえず、帰りまでに告白するか決めようかな...。






「...〇〇...!」



和:...ねえ! 〇〇!


〇〇:えぇと... どした?


君の呼びかけに咄嗟に返事する。


和:私の話... 聞いてなかったでしょ?


正直、かなり図星だ。


〇〇:あぁ... ごめん、ちょっと...感慨に浸ってて...。


まあまあ気持ち悪いこと考えてたかもな...。


和:人の話無視する人は嫌われるよ?


ぷくっと頬を膨らます。


君に嫌われるのだけは困る。


〇〇:ほんとごめん...。で、何の話だっけ?


和:もう! 写真! 一緒に写真撮ろうよ!


〇〇:あぁ... 写真ね!


俺は景色の写真も、和の写真も、ましてや自分の写真なんて撮るタイプじゃないけど。


和は結構写真が好きみたいで、君と2人で出かけた時は、毎回ツーショットを撮ってる。


2人で歩いた帰り道も。

2人でちょっとお買い物に行った日も。

2人で遊園地に行った日も。


一時一時を思い出に刻みたいから... らしい。


なんか和らしい理由だ。





「はいチーズ!」





君の声が聞こえて、

シャッターの音が鳴り響くと、

画面に微笑んだ君が映る。


よく撮れてるな。


やっぱりどんな花よりも1番綺麗だ。


だけど自然体の君の笑顔もみたいから、

次に出かけた時からは君の自然体な写真、狙ってみるのもありかも。







遠き山に日は落ちて、

吹き抜ける風も涼しくなって、

蝉の合奏ももうそろそろ終楽章。


結局勇気は出せなくて、

足踏みしたまま夕暮れになってしまった。


肩を寄せて座る帰りの電車は、ガタンゴトンと音を立てて、俺たちをデートの幕引きへと運んでく。


帰り道は悲しいけれど...、


案外悲しいだけでもない。





和:ねぇ、月末のお祭り一緒に行こうよ。


新しい楽しみも感じさせてくれるから。


〇〇:おっ。いいじゃん。めっちゃ楽しみだわ。


夏祭りで告白...。


理想的なシチュエーションだ。


やっぱり今日は告白できなくて正解だったかも。


和:浴衣... 着ていこうかな。


浴衣かぁ...。


君の浴衣姿を想像したら、頬が緩んじゃうな。


〇〇:じゃあ当日、6時くらいに和の家に迎えに行くね?


頬の緩みを悟られないように君に聞く。


和:う〜ん... 鳥居の前に6時でいいんじゃない?


〇〇:まあ... 別にいいけど... なんで?


和:なんか毎回申し訳ないから...。


別に申し訳なくなんか思うことないけどな。


〇〇:なにそれ?笑 変なの笑


和:うるさいなぁ笑 いいの!笑


まあ君が望む方でいいか。


なんて考えていたら。


雲ひとつなかった夕暮れに、

どこかでゴロゴロと雷鳴が響いて。



ぽつり。



ぽつり。



夕焼けが差し込む電車の窓に、


雫が当たる音がして。


ついにバケツの底が抜けて、

鬱陶しいくらい大音量でザーザーと雨が打ち付ける。


読んで字の如く、青天の霹靂。


〇〇:まじかぁ... 傘持ってきてないけど...。


駅からどうやって帰ろうか。


和:もう... いつ夕立降るかわかんないんだから...、いつも折り畳み傘持っときなよ?


ごもっともなご意見だけど。


自分が出かける日に限って、

夕立なんか降るわけないって思っちゃう。






「和〜! もう6時になっちゃうよ〜?」


1階から聞こえるお母さんの声。


和:わかってるー!


鏡を見ながら答える。



かわいい花の髪飾りに。



気合いを入れて巻いた髪。



空色の綺麗な浴衣。


いつも以上に時間をかけて整えた身だしなみを、

入念に大丈夫か確認する。


だって...、





あなたにかわいいって言ってもらいたいから。



和:じゃあ行ってくるね!


母:気をつけていってらっしゃい。


慣れない下駄に足を通して。


「着付け終わった! 綺麗な空色の浴衣だから楽しみにしてて!」


私の家のドアの前で、

あなたに送ったメッセージ。


スマホを見たら17時50分。


大丈夫。ちょっと急げばまだ間に合いそう。





カツカツとリズムを奏でる下駄の音。


浮かれた人たちの笑い声。


華やかな祭囃子。


夏の夕暮れを演出するヒグラシ。


夏祭りの夕暮れは、全部の要素が非日常感を演出する。


そんなBGMに合わせるように、

待ち侘びる君からの通知の音が鳴る。


「着付け終わった! 綺麗な空色の浴衣だから楽しみにしてて!」


待ちに待った日曜日の17時51分に、

いつもとは違って鳥居の前で、

君から貰ったメッセージ。


「めっちゃ楽しみに待ってる」


って君に返したメッセージ。


"既読"はなかなかつかない。


急いで向かって来てくれてるのかな。


君にもうすぐ会えるって意識しだしたら、



ドクン



ドクン



って、俺の心音もいつもよりテンポアップしてく。



君に会ったらまずシャッターを切って、


君の満開な笑顔に向かって、


全部かわいいよ。


ってちゃんと君に伝えて。



今日こそは絶対、ずっと大好きだったって君に告白するんだ。






鳴り響くアラームの音。

時計の針は8時ちょうどを指してる。

いつも通りの起床だ。


朝支度を済ませて。

たっぷり時間をかけて身だしなみを整えたら、

スニーカーを履いて家を出る。


地面を蹴るスニーカーの音。


鬱陶しい蝉たちが旋律を奏でてる。


垂れてくる汗を拭いながら、

毎朝君の部屋に行くのがここ1ヶ月くらいの日課だ。


ドアの取っ手に手をかけて、横に引く。





「おはよ。今日も来ちゃったよ〜。」





自分の声が耳を抜けてく。


真っ白で綺麗な、静かな部屋。





「今日も相変わらず全部かわいいねえ。」





「あっ。また花枯らしてる。」


「和って真面目だけど、意外と抜けてるとこあるよねぇ。」



冷房の風が汗を冷やす。



「まぁそんなことだろうと思ってさ...」





「じゃ〜〜ん!」


「新しい花、プレゼントに持ってきてるよ〜。」


「綺麗な紫でしょ〜? これ、アネモネだよ〜。」


「ここ、置いとくね?」



「あっ! そうそう。」


「ひまわり畑、行ってきてさ。」



「そう!! 先月、一緒に行ったとこ。」


「それで写真いっぱい撮ってきたんだよ〜?」





「これとかいい感じじゃない? なかなか綺麗に撮れてるでしょ?」







…...。







「ねぇ」







「まだ口効いてくんないの?」







君は答えない。







「もう1か月も経ったよ。」







答えるわけない。







だってずっと君は、







あの日から眠ったままだから。







あの日、君は家のすぐ近くでトラックに轢かれて、







君の花びらは散ってしまった。







あの日から君は無口になって、







君からの通知は鳴らなくなった。







まあ、ずっと君は寝てるんだから、当たり前か。







無機質にリズムを刻む心電図の機械音と



うっすら響く蝉時雨だけが耳を打つ。







「貴重な高校生の時間... 寝てる間に終わっちゃっうよ...。」





君のベッドの横の丸椅子に腰掛ける。





「まだ君に告白もできてないし...。」





「空色の浴衣もまだ見れてないよ...?」





俺があの夜見た時には...





髪飾りはぐちゃぐちゃに散ってて、





浴衣は真っ赤に染まってた。







……。







「あの時なんで俺、和の家に迎えに行かなかったんだろうね。」







「君に前からちゃんと好きって伝えられてたら...。」





「迎えに来られること、申し訳なくなんて思わなかったのかな...。」







君の手も、口も動かない。





君からの静寂がただ、響く。







突然君が散ってしまうなんて思えなかったんだ。






管がいっぱい繋がれて、痩せ細った君。







「前に和がさ、話無視する人は... 嫌われるよって言ってたけど...。」





「俺は嫌いになんかなれないなぁ...。」







窓の外には、青い朝顔が咲いている。



いつまでも咲いていそうなくらい、



力強くて美しいけど、



でも昼間になったら、



突然あの花は散ってしまうんだ。







でもそれで死ぬわけじゃない。



明日になればまた新しい蕾は開いて、



美しい花を咲かせる。







だから和もまた満開な笑顔を見せてくれる。





そうだと信じてるし、





そうだと信じていたい。







だけど、ずっと君からの静寂に包まれてると、





2人なのに孤独感は感じるし、





どうにもならない焦燥感も積もっていってしまうんだ。








「...ねぇ... 和...。」







君からの静寂が俺を苦しめる。







「ちゃんと起きてよ...。」







君の瞼がちょっと動いた気がしたけど、







ただの俺の願望だったらしい。







「和の声... 聞きたいなぁ...。」







堪えていた涙が、夕立みたいに一気に流れ出す。







……。







「ごめんね... なんか情けないとこ見せちゃって。」





自分の腕で涙を拭って。





「和だって辛いし、頑張ってくれてるのにさ...。」





「さっきの... 忘れて。」







「...じゃあ俺、そろそろ帰るわ。」



「また明日の朝には来るね?」





「じゃあ...」





「またね。」







いろはにほへとちりぬるを



美しく匂い立つような色の花も、いつかは散ってしまう。

そんな無常感を読んだ詩...。





なんて何回聞いたかもわからないし、そんなこと当たり前にわかってると思ってたけど...。





やっぱりどこかで他人事で、


自分の周りの花は枯れないし、枯れるとしてもすごい先の話だって、勝手に思い込んでたんだ。





隣に咲いてる花だって、突然散ってしまうかもしれないのに。





ずっと咲いてるものだって思い込んで、


自分には関係ない話だと思い込んで、


わかった気になってただけだったんだ。






「...ねぇ...〇〇...?」





もう散ってしまったはずの君の声が聞こえた気がして。



振り返ったら、





寝坊助な蕾が花開く。





涙をいっぱい零しながら、


すぐに君の横に駆け寄って、


ナースコールを押して、


君を優しく抱きしめる。



〇〇:あぁ... よかった...。

〇〇:頑張ったね... 和...。





君が咲いてるだけで、こんなに涙が溢れるなんて。





君の声が聞こえるだけで、こんなに涙が止まらないなんて。



和:もう... 大げさじゃない...?



なんて君は満開な笑顔を浮かべる。





"今"の大切さを、


"今"の儚さを知ったから。


もう先送りなんてしないで君に伝えるんだ。





〇〇:和... 大好きだよ...。


〇〇:寝起きでも... 和は全部かわいいね?





だから、今はただ隣で咲いていて。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?