【チェルフィッチュ『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』に迫る┊︎後編①】

日本語を母語としない俳優との創作がひらく「演劇と言語」の未来
いくつものリアリティが交差する、まだ見ぬSF演劇

チェルフィッチュはノン・ネイティブ日本語話者との演劇プロジェクトとして、2021年よりワークショップやトークイベントを開催しています。
 
これらのイベントを経て、『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』の東京公演が8月4日(金)~7日(月)に行われました。出演者のうち4人はこのプロジェクトを通して出会った人物です。本作で作・演出を務める岡田利規さんは、「ネイティブじゃない日本語ももっと演劇にあればいいと思う」と話しています。
 
9月30日(土)~10月3日(火)には京都公演も予定している今作。
今回は、出演者の方々へのインタビューを公開いたします。
 
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①米川幸リオンさん/ネス・ロケさん/ロバート・ツェツシェさん
 
──はじめに、皆さんの普段の活動について教えてください。

米川)僕は普段は俳優をしたり、自分で映画を作ったりしています。ユニットで共同監督をしたりとか。僕一人が上に立つというよりは並列で作っているという感じです。
ネス)私も俳優です。いまは大学院生で、東京藝大の博士課程です。
 
──どういう研究をしていますか?
 
ネス)インターナショナルコラボレーション。例えば、日本と東南アジアで一緒に作品を作ったりしています。ソーシャリー・エンゲイジド・アートの研究もしています。
(注:アーティストが、対話や討論、コミュニティへの参加等を通じて積極的に社会と関わり、何らかの変革を促すことを目的とした活動。「社会と関わる芸術」や「社会関与型アート」と訳されることもある。
ロバート)僕は翻訳と通訳。大体アート関係の仕事が多いです。

──ネスさんとロバートさんは、ノン・ネイティブ日本語話者との演劇プロジェクトがきっかけで、この作品に出ることになったと伺いました。何がきっかけでこのプロジェクトの事を知りましたか。
 
ロバート)僕は今、篠原雅武さんという哲学者の本の翻訳をしているのですが、篠原さんと岡田さんが仲良くて。去年このプロジェクトに関してのトークイベントがあって、篠原さんから勧められたのがきっかけです。岡田さんの存在は、『消しゴム山』のアーティスト、金氏徹平さんの文章を翻訳したことがあったので知っていました。

(注:消しゴム山…チェルフィッチュと美術家の金氏徹平さんのコラボレーションにより上演された作品。2019年初演。人間とモノ、それらを取り巻く環境がフラットな関係で存在する世界を生み出すことができるか、という問いを投げかけた。)
(注:『消しゴム山』の執筆時に岡田が参照した書籍の一つに、ティモシー・モートンの『自然なきエコロジー』があった。先述の篠原雅武さんは同書の翻訳を手掛けている。)

(左:ロバート・ツェツシェさん 右:米川幸リオンさん)

ロバート)トークイベントのあとワークショップにも参加して、それからリオンさんと一時間二時間くらい話しました。そこでもうすぐオーディションもあるよ、ロバート来たらって勧めてもらって。リオンさんがいなかったらオーディションまで行かなかったと思います。
米川)僕は岡田さんと仕事をするのは今回で4回目です。去年も定期的にこのプロジェクトのワークショップをやっていて、ファシリテーションで2回、アシスタントで2回か3回参加しました。僕がファシリテーションした回にロバートさんも参加してくれてて、その流れで喋ってたみたいな。
 
──どんなことを話しましたか。
 
ロバート)くだらないこと。
米川)あの音楽いいよねみたいな。でもワークショップに参加してどう思ったみたいな感想も聞いたりとか。
ロバート)ワークショップでは、その場に見えないものを作って。そういう存在しないものが、ある意味ではこの椅子と同じレベルで存在するとか。存在論みたいな話もあった気がする。
(注:ワークショップでは、それぞれ自分が今住んでいる家や今まで住んだことのある家について話し、別の人が前に話した人の家の話を自分の話として伝える、というワークを行った。)
 
──ネスさんはいつからこのプロジェクトに参加されていますか。
 
ネス)知り合いに勧められて、2021年にワークショップに参加したのがはじまりです。

(写真:ネス・ロケさん)

──ワークショップの時の事は覚えていますか。
 
ネス)本当に楽しかったです。私は11歳から演劇を勉強してきたんですが、あんなワークショップは本当に初めて。コンセプトはシンプル、でもいろんな理論がある。
ロバート)自分の中で家がなんとなく立っていて、でもその家について話すのは台本みたいなものがないと難しいと思ったのは覚えている。想像はできたんだけど言葉がなくて。
 
──台本を初めて読んだときどう思いましたか。
 
ネス)SFでびっくりしました。友達から勧められた時は、外国人が東京でなんとかかんとか〜みたいな物語だと思ってたから、「面白い、やりたい!」と思って。
 
──「日本に来た外国人」の役をイメージしていたら、まさかの宇宙だったと。
 
米川)岡田さんがワークショップの様子を経て、今回はSFがいいと思う!と言ってて。それすごくおもしろそうって思ったんだけど、その時僕は、具体的には全然思い描けなかったんですよ。でも台本を読んだ時に、カメラのフォーカスがバチっとあってる感じがして。こういうことを岡田さんは思ってたのか、というのが読んだ時にちゃんと分かった。
ロバート)いろんなアイデアを組み合わせる能力がすごいなと思った。台本を読むと、基礎になるアイデアだけじゃなくて、できる限り面白くなってる。もしかしたら基礎になるアイデアは届かない人もいるのかもしれないけれど、その上でも楽しめる。いろんな例があって、色々ちょっと違うことをやってるんだけど、その全部に一体感がある。かなり印象的なんだけど、でも今までない冗談みたいなのもたくさん入っているらしいんです。コミカルがメインではないんですが、要素としてはそれも入っています。だから、いろんな部分の合わせがうまいってことかな。
 
──他の人のセリフを受け取って思ったこと、発見したことはありますか?
 
ロバート)稽古で改めて気づいたことは、言いたいことがちゃんとあったら、言語、文法、ルールがちょっと間違っていても伝わるということです。ちょっとだけいつもと違う、普通の日本語とちょっとだけ違うように喋る。そういうこともわざと台本に入っているんですよ。ちょっとだけルールを破ったりすることで、インパクトが出るというのが、改めて気づいたことです。
 
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☆次の記事では、安藤真理さん、徐秋成さん、ティナ・ロズネルさんのインタビューをお届けします!
 
チェルフィッチュ『宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓』
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