川名幸宏が語る、東京夜光のこれまでとこれから

2023年9月8日(金)~18日(月)、吉祥寺シアターにて上演される、劇団 東京夜光の新作公演『fragment』。
2017年の設立以来、2020年には「MITAKA “NEXT” Selection 21st」へ選出、2022年には本多劇場で公演を行うなど、驚異的なスピードで躍進を遂げてきた東京夜光が描く、1944年と2023年の東京の物語。
一人でも多くの方が彼らと出会うきっかけとなることを願い、作・演出の川名幸宏さんに行ったインタビューを公開いたします。

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――本日はよろしくお願いします。
――まずは、川名さんご自身の自己紹介をお願いします。

劇団 東京夜光の川名幸宏と申します。大学を卒業後、劇団扉座の横内謙介さんに弟子入りし、その後しばらくフリーの演出助手をしていました。
2018年に下北沢演劇祭の若手支援企画「下北ウェーブ2018」に選出されたのをきっかけに、自身の創作の場として東京夜光を立ち上げました。

――これまでの東京夜光のあゆみをお聞かせいただけますでしょうか。

旗揚げ公演の『裸足の思い出』は、ブラック企業で働いていて自殺未遂をしようとしている人を主人公に、「自殺クラブ」に並ぶ人たちを描きました。
同年の『世界の終わりで目をつむる』は、演出助手時代に三畳一間の風呂なしアパートに住んでいた経験をもとにした作品です。
2019年の『ユスリカ』は、「仲の悪かった妹の結婚式で感動して泣いた」自身の体験をモチーフに描いた姉妹の物語です。
2020年には「MITAKA “NEXT” Selection 21st」に選出され、コロナの真っただ中で『BLACK OUT』を上演しました。演出助手の青年を主人公に、緊急事態宣言で演劇がストップしてしまう2020年4月本番の、とある稽古場の一か月間を描きました。
コロナの緊張感がずっとある中で、個人ユニットとして劇団を運営していくということに限界を覚え、2021年に仲間を集めて劇団化しました。その後の『奇跡を待つ人々』で、仙台で初の地方公演を行いました。
2022年の『悪魔と永遠』では、東出昌大さんを主演に迎えて本多劇場に進出しました。演出助手の現場で東出さんに出会い、彼と話をしていく中で「罪を犯して罰を受けた人がその後どう生きるのか」という問題を作品にしなければと思い、出所後足場鳶として働く男の物語を描きました。
「劇団って何なんだろう」ということを考えつつ、それから一年半ゆっくり時間をかけて『fragment』の準備をしてきて、今に至ります。

――東京夜光の作品は川名さんご自身の経験や感覚に出発点があるものが多いかと思いますが、どういった理由なのでしょうか?

もともと横内さんの弟子をやっていた時には、野田秀樹さんのまがい物みたいな芝居を作っていたんですが、横内さんに「面白くない」と怒られてしまって…(笑)
それから自分のスタイルを探していくうち、『世界の終わりで目をつむる』ではじめて自身の経験をもとにした作品を書いたんですが、横内さんをはじめ他の人からもはじめて面白いと言ってもらって、「これが自分の文体なんだ」と思いました。
個人に焦点を当てた、いわば純文学的なスタイルの方が自分には合っているというか。ファンタジーや空想に昇華することもあるのですが、あくまで出発点としては「自分の感覚を自分のサイズで書く」という所にあります。

――東京夜光が劇団として強みとしている部分は何でしょうか。

「強い演劇」ができる人たちが集まっている所です。いわば職人集団というか…華はないかもしれませんが(笑)
僕が横内さんに師事していたように、TCアルプや劇団民藝など、それぞれが大学を卒業してから色んな所で演劇的修行を積んでいて。スタッフも含めて、20代をある意味修行に費やしてきた人々の集まりですね。
だから自信をもって作品をつくるための土壌がある。
あとはどう外に見てもらうかが我々の課題で…山奥の工房で彫刻作ってるみたいな職人の集まりなので(笑)

――『fragment』はどういった所に着想を得た作品でしょうか。

ロシアとウクライナの戦争が始まってから、「戦争を描かなければならない」という思いが自分の中にまずありました。
小さい頃から吉祥寺にはよく来ていたのですが、その記憶を自分の中で辿ってみると、どこか戦争のにおいがすることに気付いて。「何でだろう」と思って調べていくうち、いま武蔵野中央公園がある場所にはかつて巨大な軍需工場があって、そこはB29爆撃の最初の標的となった場所であることを知って。
インスピレーションを得るために武蔵野中央公園に行くと、そこは本当に何もない場所で。イヤな言い方ですけど、劇作家として何か描くための材料を探しに行ったつもりが、だだっ広い野原で子供たちが遊んでいるだけの、本当に何にもない場所だったんです。
だから、その何にもないそのままの感じを描けばいいんだと思いました。何もない場所に工場ができて、爆撃を受けて、その後球場になり、米軍の宿舎になり…そしてまた何もないだだっ広い野原になった。その歴史を描くという訳ではないですが、その場所の記憶、何もないその場所に戦争があったという記憶を描きたいと思っています。

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劇団 東京夜光『fragment』

その記憶は、誰の真実か――

2023年9月8日(金)〜18日(月)
吉祥寺シアター

公演詳細
https://www.musashino.or.jp/k_theatre/1002050/1003231/1005066.html


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