未来の届けたい働き方

低所得の家庭に生まれたら、子どもも低所得を引き継ぐのか?

働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?

このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。

■生活保護世帯の子どもが進学する際のハードル

先日、高校生の教え子と、高校卒業後の進路の話をしました。

私の教え子たちには生活保護世帯もちらほらいるのですが、その高校生も保護世帯。現在通っている学校で専門学校のセミナーがあったことで刺激を受け、卒業したら専門学校に通ってみたいという気持ちが湧いてきたと言います。しかし、生活保護世帯では、進学にはちょっとだけハードルがあります。

生活保護制度では、子どもは高校を卒業したら就職をするのが前提とされています。かといって、進学ができないわけではありません。もし進学をしたいと思ったら、次のような手順を踏む必要があるのです。

●大学・短大の場合
・奨学金や貸与金を受けること
・世帯分離をして保護から外れること

●専門学校の場合
・その進学が自立助長に効果的だと認められること
・奨学金や貸与金を受けること
・世帯分離をして保護から外れること

いずれも、世帯分離という手続きを踏むことになりますが、そうするとその子の分の生活費などはもらえなくなりますから、自分で生活費を稼ぎながら学校に通うことになります。医療扶助も適用されないため、自分で国民健康保険に加入して、保険料などを払うことになります。

2020年度からは高等教育(大学、短大、専門学校など)の授業料や入学金が免除あるいは減額され、奨学金制度も拡充されます。といっても、学校によってはそれですべてがまかなえるとは限りません。足りない分は自分で払う必要が出てきます。そこに自分の生活費も稼がなくてはならなくなるというと、やはりハードルはあるなと思います。

高校生の間にアルバイトをして少しでもお金を貯めておくにしても、生活保護世帯では子どもがアルバイトをして稼ぐ場合、その額を申告して、一定額が保護費から引かれることになります(今通っている学校生活に必要なお金などを稼いでいる場合などは別)。

こういう現実を知って、現状の生活にも豊かさを感じられていない子どもが「さらに苦しい思いをするんだったら、進学は諦めて働こう」と思うのもムリはありません。なんとしてでもこういう仕事をしたい!とか、前向きな気持ちをもって就職をできる子も、少ないのではないでしょうか。

そんなところから、貧困は連鎖していくのだろうなと感じます。

■それでも進学、就職に希望をもってほしい

冒頭の教え子は私に、「この専門学校に行くのと、行かないのとではどんなふうに将来が変わってくるんだろう」「通信制の専門学校だったら少し学費が抑えられるけど、通信制でも就職は大丈夫なのかな」「今のうちにお金を貯めたら、どれくらいラクになるんだろう」など、さまざまな質問をしてきました。

こういうふうに自分の将来にしっかり向き合えているうちは、まだ大丈夫だと私は思っています。

中には、「うちは就職って決められているから」と中学生の頃から進学という選択肢を考えることすら諦めている子どもも少なくありませんから。そして高校生になってアルバイトを始めて、そのままそこに就職、あるいはアルバイトを続けるという道を歩むパターンが大半です。

夢をもって就職する、進学よりも働くことに価値を感じ、期待を抱いている、そんなケースならまったく問題はないのですが、「諦めの境地」から思考停止になって「行けるとこならどこでも」になっていくのが現状……。そんなこんなで、中学生に「将来の夢は」と気軽に聞けなくなってきた、今日この頃です。

未来に期待ができるうちはなんとかなる、そう私は思っていますが、この期待を消さないように周囲の大人たちが努力をすることは欠かせません。

奨学金を受ける、世帯分離をするといった手続きを、保護者がサポートできる状態にある家庭はまだいいですが、それもできない家庭もあります。その場合、まだ社会のことを何も知らない、大人のように動くことはできない子どもたちが自力できちんとひとつひとつこなしていくことになります。

これは大人が思う以上にハードルが高いものだと思います。

そういうハードルを乗り越えながらも、世間に目を向けてみれば、生活保護世帯だというだけで叩く人、冷たい視線を向ける人が見えてきてしまいます。今の社会は心理的にも、困っている子どもたちを這い上がらせないシステムになっているのです。

それでも、「あなたの未来は明るい」と支え続ける大人がそばにいなければ、その心はいつか折れてしまうでしょう。そして、「もういいや、どうでも」となってしまう。

そうならないように、未来に希望をもてるような言葉をかけ続け、社会のよい部分に光をあてて、子どもたちの力を信じ、支えていく、そういう大人が一人でも増えることが急務だと感じます。

■働くことは幸せなこと!と社会が示せるように

苦しい状況にある子どもたちに希望をもってもらえるかどうかは、大人たちが今つくっている社会がどんな姿なのかにかかっています。

働く先があるだけでも幸せじゃないか、という人もいるかもしれません。

でもそうではなくて、さまざまなものを諦めて消極的選択で働く子どもたちをいかに減らしていけるか。もし消極的選択で働くことになったとしても、その先にまだ人生の選択肢が待っていて、自分を変えていくことはできるのだと示すことができるかどうか。「金を稼いだモノが勝ち」と人を年収によって勝者敗者に分ける考え方ではなく、働くことの多様な価値をどれだけの大人が理解し、子どもたちに伝えていくことができるか。子どもたちが働くことになったとき、そのスタート地点から「自分は敗者」と思わせないような社会に、私たちの大人の力で変えていけないものでしょうか。

みなさんそれぞれに苦しさを抱えていると思いますが、「誰が一番苦しいか競争」をしていてもしかたがありません。この息苦しい空気から抜け出すためにも、私たちひとりひとりが自分たちの働き方に希望を見いだして、子どもたちに伝えていくこと。そうして少しずつでも変えていくしかないのではと思います。


大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。


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