未来の届けたい働き方

学校教育と社会生活とのつながりを考えてみる

働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?

このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。

■なぜ新指導要綱に変わるのか

前々回の記事で、中学生に向けたキャリア教育の話をしました。授業は2回に分けて行われ、子どもたちもとても熱心に聞いていました。「めっちゃいい話が聞けました!」と言ってくれた子も……。ただ漠然と勉強をしたりスマホやパソコンを触ったりするのではなく、自分が好きなこと、興味のあること、自分が身につけておきたい力などを意識しながら、過ごしてほしいなと思います。

さて今回は、子どもたちを通じて今の学校の教育について最近思っていることを書いてみます。

今、学校では大きな教育改革が始まっています。大学入試についてはカオスなので置いておきますが、2020年には小学校では英語やプログラミング教育が必修化、中学高校の英語の授業は基本的に英語で行うことにするといった内容に、指導要綱が変わります。IT化やグローバル化が進むというか、「もうそれが当たり前」になった時代を生きる子どもたちが、社会の中で生きていくうえで必要なことは何か、それに応じて教育も変わるべきだということで、この改革が行われるわけです(ちょっと遅いんですけど)。

でも、子どもたちの話を聞いていると、指導要綱が変わったとて、なんとなく形骸化して終わるのではないかなという不安もわいてきてしまいます。これからの社会を見据えた教育を行うには、学校の教師たちの働き方や公教育の世界の価値観があまりにも時代から取り残されているように感じるからです。教員同士のいじめ事件のニュースを見ていても、この不安を強く感じます。

本質的に何を目指しているのか、先生たちがしっかりと実感をもったうえでこの改革が行われればいいのですが……。

余談ですが、私は、学校の教師はみんな一度民間のビジネス現場に出てから学校に勤めるのがよいのではという気がしています。

■ディスカッション指導の本来の役割は?

私が運営している無料塾では、毎年秋になると「ディスカッション」の授業を行います。これを実施するのは、都立高校の推薦入試の課題になっているからというのが大きな理由なのですが、子どもたちには「受験を乗り越えるテクニックを覚える」だけの授業だとはとらえてほしくないなと思っています。

残念ながら、そのように思っている子はとてもたくさんいます。学校でも入試に向けてディスカッションの練習は行われますが、そこでは「こういうふうに言いなさい」「こういうふうに振る舞いなさい」と、やはり入試に重点を置き、先生たちウケのよい言動とは何かを教えられるようです。

ただ、なぜ都立入試にディスカッションが導入されたのか、社会に出たときにこのスキルがどう生きるのかという話は、学校ではすっ飛ばされていることが多いようです。また、「就職試験でもディスカッションを導入している会社は多いよ」という話をしても、子どもたちは初耳だというふうに反応します。

ディスカッションで測られるのは、

・知識をどれくらいもっているか(物事に興味をもつ力、探求心)
・コミュニケーションスキル(他人の話を聞いて分析しながら対話をする力)
・協調性(他人と協力しながらゴールを目指す力)

といったところですが、これが社会に出たときにどう生きるのかということは、しっかり説明してあげてもいいのではないかなと思います。「試験に必要だから」やるわけではない、ということを理解してもらいたいと思うのです。

ディスカッションにおいても、プログラミング的思考というのは必要になるようにも感じます。複数の人の意見を組み合わせながら、全体としてまとまった形に整えていく。ひとつの完成像を作り上げていく。しかもひとりの作業ではなく、他人との協働作業になるのがかなり複雑で、だからこそ早くからこれをやっておくと、子どもたちはどんどん思考力が鍛えられていきます。

このディスカッション能力が鍛えられていないと、これからの社会で、働くうえで厳しい状況になるだけではありません。今すでに、この能力が培われていない大人たちが、ネット上ではすごく不毛なやりとりを繰り広げています。自分の言いたいことだけを押し付ける。相手を否定して「打ち負かす」ことだけに集中する。自分とは逆の意見をまったく聞けない。ディスカッションでは全員、マイナス点がつけられます。

たぶん、私たち大人の世代は、ずっとこういう教育を受けてきたのだと思います。「点数をとって、誰かに勝つことで自分の価値を高める」という教育です。しかもその点数は、もう答えが決まっているもの、覚えていればいいだけのものばかりです。

でも、今の子どもたちが大人になる頃には、そういう教育は無意味どころか、彼らが社会で活躍するうえで足を引っ張る要素にもなりかねません。

■連動する社会のあり方と教育のあり方

教育は、社会のあり方が変わると同時に変わっていかなくてはならないものですが、日本では少なくとも私が小中学生だった80〜90年代と今とで、さほど変化をしてきていません。子どもたちの教科書やノート、配られるプリントなどを見ていても「わー懐かしい、こんなふうに勉強したっけ」と思ってしまうのですが、なつかしんでいる場合ではありません。

教育現場では、やっと重い腰を上げて時代についていくべく改革が始まります。

私たちの時代には、なぜああいう教育が必要だったのか。そして、なぜ今これから教育が変わろうとしているのか。漠然と働いていると気づかないかもしれませんが、教育が変化しようとするさまを見ていると、私たち大人もハッと気づかされることがとても多くあります。自分が生きてきた時代と、今の時代、そしてこれからの時代に必要な物事を、教育を通じて俯瞰して見ることができるからです。

「今の子どもにこんな学び方は必要なのだろうか」

そんなふうに疑問をもつことは、自分たちが働いている世界がこれから5年後、10年後には変わるという実感をもっているからに他なりません。だったら、子どもだけでなく、大人も変わらなくてはヤバイのでは?と私は危機感を覚えます。

というわけで、無料塾の授業では、今年もそろそろディスカッションをスタートします。大人にとっても、とても学びの多い授業になるものと思います。今からとてもわくわくしています。


大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。


いつも「未来の仕事屋」のnoteをご覧いただいて、ありがとうございます。サポートは不要ですので、そのお金でどうぞ有料コンテンツをお楽しみください!